ある研究室の展示会
2013-02-16 14:37
一つの研究室が単独で展示会を開くことはままある。先日そうしたものの一つに行ってきた。
その結果「研究室が展示会を行うとはどういうことか」についてあれこれ考えることになったので、書いておく。きっかけは次の記事を読んだことだった。
そのためか、展示作品も、ちょっとゆるい雰囲気がある。来場者自身がどんな印象を受けるかも人それぞれかもしれない。
引用元:【森山和道の「ヒトと機械の境界面」】日常の「ネットワークデザイン」 ~首都大学東京 システムデザイン学部 渡邉研の2012年度卒業・修了制作研究展から
思えば森山氏のこの「慎重に書かれた言い回し」から何かを予期しておくべきだった。まずは見た物の感想から買いいこう。
・見る人の空間認知能力に合わせた地図提示方法:
普段道を探す時にどうするか、といった質問にまず20答える。質問は「場合による」としか言いようがないものが多いが、とにかく答える。
するとタブレットに地図がでる。やたら落ちるがまあそれは問わないことにする。上下に全体地図と詳細地図がでて、片方だけがノースアップになったりいろいろするのだそうな。
とても論理的だが、「だから何?」といった感想が拭えない。
・「コトバノキ」
単語を入力すると、TwitterとGoogleで検索を行い、そこから単語を抽出して根っこと葉っぱという形で提示する。
どっかで何度か聞いたような話だが、担当者がいなく代理の人が説明してくれたので、先行研究との差分はわからない。こうしたインタフェースにありがちな問題として、単語が重なりわけがわからない。単語にマウスオーバーするとなんらかの関連がある単語が強調表示されるのだが、それが何を意味するかもわからない。(代理の人に質問をしたが答えはなかった)こういう
「情報量が多い時」には情報をひたすら流せばいいではないか、という提案をGoromiでしたわけだが、どうして他の人はこう静的に重ねたがるかなあというところを聞きたかったのだが(以下同文)
・パーソナルファブリケーション作品らしきもの
担当者、説明者ともにおらず、内容はわからなかった。
・Emotion Effecter
担当者がおらず代理の人が説明してくれた。同じ動画を見ている人の間で「ノリ」を共有するため、Wiiリモコンであれこれ入力する。すると画面が揺れたりする。正直画面が見づらい。説明者によれば
「表現方法はともかく、こうしたノリを共有するという点が新しい」
ということだが、そうした観点は去年から既に存在する。こうした調査はどうしているのだろうか?ドヤ顔で「新しい」と言い切られてもこちらは困惑するばかりだ。
・MMM ARアーカイブ
担当者がおらず代理の人が説明してくれた。現代アートの展示会は終わってしまうと跡形もなくなる。その記憶を残すため、過去に現代アートの展示会が行われた場所にいくと、セカイカメラのようなエアタグが表示される。そのタグをタッチすると詳細に画面が遷移する。
やろうとしていることは解るのだが、問題は「画面を見ても全く面白くない」点にある。実風景と重なった画面に映るのは、吹き出しだけであり、そこからいちいち遷移しないと目的の情報にはたどり着けない。おまけに全部重ねて出してしまうので、仮に複数回に渡って現代展が行われたらごちゃごちゃするだけだ、、と代理の人に言ったが今いち反応は薄い。まあそうだわな。
・TimeLine Player
簡単に言うと、Twitterのタイムラインの情報を、音楽に変換しよう、という試み。使う情報はTweetがどのタイミングででるかとそこで使われている単語がポジティブなものかネガティブなものか。
こういう「音楽を自動で生成する」試みをするとき、非常に多くの人が「人間が聞き続けられる楽曲を自動で作成する」難しさを過小評価している。デモをきかせてもらったが「ああ、そうですか」以上の感想を持つのは難しかった。人間の感情をポジティブかネガティブかに2分する強引さも気になるが、それは音楽自動生成という難問に比べればたいしたことではない。
説明を聞き終わって「これは何が売りですか?」と聞いたらまた「こうやって音楽を生成しています」という説明を繰り返された。再度聞きタイムラインを見ずに様子を知ることができるためのAmbient Display的な使い方を目指していると解った。それならばなおさら「聞き続けられる」ことが重要になる。例えば自分が持っている楽曲から、TimeLineの状況に合わせた(それはかなり強引な解釈だが)音楽を選曲して鳴らしては、とかそうしたほうがまだ使えるシステムになると思うのだが。
・network-mobile
展示してあったらしいのだが、存在すら気がつかなかった。
・Color Branch
担当者が説明をしていたが、私がいる間は、他の人に説明をしていたので残念ながら聞けなかった。
・START ON AIR!
Blended Wing Bodyの飛行機を研究している研究室との共同研究とのこと。なんだか飛ぶような視点でGoogle Earthを俯瞰できるらしい。担当者もおらず、説明者もいなかった。そもそもBWBとなんの関係があるのか、など謎は深まるばかり。
・他に数点展示があったが、作成者、説明者不在のためよくわからず。
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私がこうした展示会を見る時何を期待しているかといえば、展示しているものの完成度とか実用性ではない。問題発見、手法、あるいは作った結果、どこでもいいから一つでも「なるほど、これはおもしろい」というものが見られないかと期待している。
その点からすると今回は全く収穫なしだった。
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しかしこれはあくまでも私の物の見方だ。私がどう考えるかなどというのは展示を考えるほうにしてみれば全くコントロール外のこと。だからそれについては正直な感想以外何も言うまい。
問題は
そもそもこの展示会を行う事で、彼らが何をしたかったのかが理解できないこと。前記の説明通り
・作成者が説明してくれたもの:2件(+私が聞けなかったもの1件)
・代理の人が説明してくれたもの:3件
・説明無しで、展示のみ:3件(+数件)
という状況。つまり作った人間がそこにいないのだ。もちろんアート作品のように
「説明をするのではなく、観た人がそのまま感じればいい」
というものもある。しかし展示されている内容を見る限りそうしたものとは思えない。
作成者が見に来てくれた人からのフィードバックを期待してるわけではなし。では何がしたかったのか?こちらにしてみればわざわざ足を運んだのに「ああ、この点について聞いてみたい」というフラストレーションだけがたまった。
唯一想像できるのは彼らと彼女達はとにかく展示会がしたかった、というものだ。確かにその場にいる学生さん達はとても楽しそうだった。
学生さんが無料で行う展示会だから、そんなものだ、という意見もあろうし、そう解釈するしかないのだろう、と思っている。
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展示されていた作品全般にいえることだが、「理屈はわかるけど、そうですか」というものが多かった。例えばTwitterを音楽にするものでは、
「確かに音がなっているけど、それが何?」と感じる。つまり「それを使った人間はそもそもうれしいのか」という点が欠落している。
展示会自身もそうした位置づけかもしれない。来た人に驚いてもらおうとか議論をしてもらおうとかいうF/Bまで含んだ系を想定していないと感じた。つまり「がんばって作りました・開催しました!」で終わっており、オープンループなのだ。
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まあこういうこともあるさ。いつか行った美大の卒業展示会では、その後の研究の方向性を決めるようなすごいコメントをもらった。打率が100%なんてのは誰も期待していない。また面白そうな展示会があったら顔を出してみる事にしよう。