顧客の声を聞いて無視する

2013-02-21 07:06

顧客が声をあげている、という事実は直視しなければならない。しかしその言葉に従うのは間違いだ。何度か書いたことだが、何度も書こう。

顧客フィードバックとは、自分たちのやり方の「どこが間違っていたか」を教えてくれる点では非常に参考になるでしょう。しかし、「次にどんなものを作ったらよいか?」を知る手がかりには、全然ならないのです。

via: 顧客の声を素直に聞いてはいけません:日経ビジネスオンライン

これは真理だ。真理なのだが、「組織の理論」には適合しない。かくして「正しいサラリーマン」はこう発言する。

ここはしっかりと最先端の機種をつくりあげる必要があると考えました。これは、販売の現場からさまざまな意見をいただいたことが影響しています。

via: 「ELUGA X P-02E」担当者インタビュー

というか改めて読んでみるとこの発言はそれ以前の問題だ。そもそも「顧客の声」ではなく「販売店の意見」しか聞いていないのだ。

どうもこの「販売店の意見を最も尊重する」というのは、日本の家電メーカーが長年患っている持病のようなものらしい。

携帯電話の商品企画は携帯電話事業者向けに企画を練る。テレビは量販店で売ってもらえるように企画する。どちらもユーザのことなど二の次。

 こんな機能ぜったい使わないよな~、とか思いつつも、量販店からOKが出れば成功と。

via: そういえば携帯電話とテレビの商品企画はよく似ている: 無指向な嗜好

私パナソニックの株持っているし、弟はパナソニック系統の会社に勤めているから、「パナソニックの御用ユーザー」と呼んでもらってもいいような立場なのだが、どうもネットでみかけるパナソニク関係者の発言を聞くと、その「環境への適応ぶり」にげんなりする。ソニーよりもひどいのではないかと思える。

ではどうするか。

ではどうすればいいのか。「これさえやっていればOK」といった正解はありせんが、少なくとも違ったアプローチが必要です。我々が今実践しているのは「行動観察」です。行動観察では、点でとらえるというよりも、流れとその文脈(コンテキスト)でとらえます。

via: 日本企業の「ものづくりの病」を打破する方法:日経ビジネスオンライン

つまるところ正解はないのだ。ないのだが、↑のような記事をよむにつけ、AppleがiPhoneという1つだけの機種でものすごい利益を挙げていることに改めて驚く。同じ人でも昼と夜ではニーズが全然違う。しかし多くの人がiPhoneを買うのだ。

ではiPhoneは「一機種Only」でこれからもいくのか?「事情通」はこぞって「安価な機種を新興国マーケット向けに出すべきだ」と主張する。

それはつまるところAppleが何を目指すかによるのだと思う。

In other words, a blockbuster new Apple phone that more than doubles unit sales and blows a hole in the middle of the Android market might only add 20% to Apple's profits. 

via: The cheap Apple phone problem -- Benedict Evans

ここで挙げられた試算によれば、Appleがより安い機種を出して仮に出荷台数が2倍になったとしても、Appleにとっての利益は2割り増しにしかならない。

逆にそうした機種をサポートするための「コスト」はかなり大きなものになる。そもそもAppleは「最高の製品」しか作らないと何度も公言している。性能を落とし単価をさげた製品を、フラッグシップモデルとどう共存させ「両方共最高だ」と主張するのか?もし処理能力、メモリ量などからアプリの互換性が失われれば、Androidの二の舞になる。

The iPhone 5 has tipped the scales in Apple's favor by beating Samsung's Galaxy S3 to become the world's best-selling smartphone model for the first time in the fourth quarter of 2012.

via: Apple's iPhone 5 overtakes Samsung as best-selling smartphone in Q4 2012 | ZDNet

2012 Q4において、世界でもっとも売れたスマートフォンはiPhone5で、2位がiPhone 4Sだったのだそうな。というわけで、Appleは型落ち機種であっても十分競争力があり、結構な台数売れている、、と見ることもできる。これがGoogleであれば狂ったように台数を増やすだろう。なぜなら彼らの目的はAndroidプラットフォーム上でGoogleのサービスを使ってもらうことであり、ハードを売ることで利益を挙げることではないからだ。

というわけで、Appleが次に何をするかは要注目。とはいっても

「販売の現場の意見を聞き、全部入りを作りました!」

なんてことをやらないことだけは確かだが。