Master of Vaporware
2013-11-13 07:15
Techcrunch Tokyo 2013に行ってきた。
日米のスタートアップ環境の差異についてはいろいろ議論もあるし、この日もそうしたセッションがあった。しかしその絶望的な差異を示してくれたのは、一番最初のセッションだったのではないかと思う。
その昔「セカイカメラ」というものがあった。何が面白いかわからないが、話題になった。私が前勤めていた会社は、「頓智ドット」に何かの打ち合わせにいった。私は「Vaporwareに興味はない」と同行を拒否した。
その頓智ドット「出身」の井口氏が「テレパシー」をいうHMDを作っているのだそうな。でもって一番最初のセッションには彼と彼の会社に出資した会社の人があれこれしゃべっていた。
その全文はここに載っている。しかし私はこの「全文書き起こし」からはわからないことについて書きたいと思う。
結論から書く。
井口氏は何も言わなかった。そして私はそれが「何もないからだ」ということに関してかなりの自信を持っている。
司会の人は最善を尽くしたと思う。井口氏に対していろいろな方向から具体的な事を聞き出そうとした。
しかし"Master of Vaproware"はさすがに手馴れている。まずこの言葉で先制攻撃をかける。
西村氏:Google Glassは声で操作する。Telepathyはどうなっているのか。
井口氏:話したいが、広報から止められている(笑)。
via: Telepathy井口氏「簡単でないからこそやっている」--デバイスの発売は2014年に - CNET Japan
この「広報から止められている」はこの日何度も繰り返された。ちなみに怪しげな「新発明」もこういう「コピーの危険がある」とかそういう言い方をすることがある。
まず誰もが思う「それってGoogle Glassとどう違うの?」という質問に対しては
西村氏:Telepathy OneはGoogle Glassと何が違うのか。
井口氏:Google Glassはまだ日本にはない。
via: Telepathy井口氏「簡単でないからこそやっている」--デバイスの発売は2014年に - CNET Japan
とものすごいボケをかます。このやりとりだけで「ああ、井口氏はまともに話す気が無いんだな」とわかる。
僕らもそういうのをやっていきたい。ウェアする価値がある、ウェアラブルでないとできないものを提供する必要がある。「単一目的に適合しており、それが従来のスマートデバイスではできない」というものをやらないといけない。
via: Telepathy井口氏「簡単でないからこそやっている」--デバイスの発売は2014年に - (page 3) - CNET Japan
このように「僕らはすごいものを作る!」という目標は提示するが、それがどうすごいのか?という疑問には一切答えない。
それはもちろん井口氏が言うように「広報からとめられている」せいかもしれないが、それならばそもそもこんな場所にでてこなければいいのだ。Appleが将来の製品についてかたくなに口をつぐむように、2014年に「バーンと」でるタイミングまで一切黙っていれば良い。
そう考えれば、「多分彼には何もないのだろう」としか思えなくなる。(もちろん来年私が「ああ、自分はなんと浅はかだったことか。井口氏の天才ぶりを見誤っていた」と頭をかかる可能性もある)
何もない状態で、これだけのインタビューをこなすのはさすがにすごい、としか言い様がない。そして前掲の記事には書かれていないやりとりが最後にあった。
司会の人が「ではそろそろ時間なので」と言ったところで井口氏はこう言った
「え!もう終わりですか?まだ話したいことがあるのに」
それまで何を聞かれても「話せない」でやりすごしてきた人間がよく言うなと思うが、こうでなければMaster of Vaporwareとは名乗れないだろう(名乗ってません)
お前にHMD製品を作る会社を立ち上げることができるか?と言われれば、できません、と答える。Techcrunch Japanの一番最初のセッションに呼んでもらえるか?と聞かれれば、できません、と答える。
これだけ内実がなくて、かつこれだけ有名になり金も集められるというのはすごい才能としか言い様がない。そういった意味で実に学ぶ点が多い講演だった。
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それと同時に「こんなのがもてはやされる」日本のスタートアップの環境に絶望した。