トラブルシュートの思い出

2014-03-28 07:27

今日は少し昔話をしよう。私が社会人になって一年目。「無人で空をとぶ機械」の担当になった。秋にその機械の試験が行われ、途中でエンジンが停まった。

さあ困った。というわけで原因究明が行われる。無人の機械だから状況を把握する上で頼りになるのは電波で送られてきた各種データだけである。

あれやこれや検討していって、どうやら燃料供給が絶たれたらしい、ということになった。次に問題になるのは燃料制御を行っていた信号がおかしくなって供給を絶ってしまったのか、あるいは信号はちゃんと送られていたが、機械的に何かがおこって燃料が止まったのか、という切り分けである。しかしそれを直接示す信号はない。さて困った。

しかしある時誰かが「バッテリー電圧の信号が小刻みに上下している」ことに気がついた。その周期を計測してみると燃料制御信号の周期と同一である。これはおそらく燃料制御の信号がちゃんと出力されており、かつ制御機器も動作していたことを示すものではないか。(機器が動作すれば電力を消費するので電圧が下がる)

これで少しは原因探求が進んだ。なぜこんな事を書き出すかといえば、この記事を読んだからである。

マクローリン氏によると、技術者らは「6、7日ぶっ通しで働いた」。さまざまな国籍のメンバーから成るチームは社内のジムで体をほぐし宅配ピザで空腹を満たしながら昼夜兼行で作業を続けた。

チームがマレーシア機の飛行経路を絞り込むために使ったのは、ドップラー効果だった。これは列車が音を発しながら近づいてくるときと遠ざかるときでは、音の高さが違って聞こえるように、音波などの発生源の動きによって、その周波数が異なって観測されるというもの。インマルサットのチームは飛行機の衛星に対する相対的な速度に着目して謎解きを試みた。

via: 消えたマレーシア機の謎解き、ドップラー効果とピザが役立った (Bloomberg) - Yahoo!ニュース BUSINESS


こういう状況においては、大きな声で正論など叫んでいてもなんの役にもたたない。必要なのは、静かに、客観的に、冷静に考える力だ。「はやぶさ」のトラブル対策もこうした「謎解き」の連続だっただろう。川口PMもこう言っている。

チェックシートやマニュアルから離れることこそ、最大のリスク管理であり、それが創造というものである。創造こそが、inspirationこそが、最良のリスク回避策であることに気づいて欲しい。情報社会、オペレーション、それらは管理という、視野を既成範囲にだけせばめる環境を作り上げてしまいがちである。Inspiration,情報社会が進めば進むほど、その重要性を増している。:引用元 情報処理学会の雑誌だったかな?


事故のことを考えると気持ちがふさぐが、インマルサットチームの努力と想像力には感服する。彼らは直接的に利害関係のある組織ではないから、「できることはここまで」とケツをまくることも可能だったはずだ(想像だが)こういうチームで働くのはエキサイティングで有意義だろうな。