AIバカ
2016-04-20 07:24
Facebookは面白い会社で、とっても正しいことをやることもあれば大きな間違いをやることもある。今までの例だとiOS上のアプリをHTMLベースで作ったのは明らかな誤りだった。
そして今年のFacebook F8で発表された「チャットボット」もその「間違いの一つ」として数えられると思う。Facebook Messenger上で企業に対してあれこれ注文できるのだそうな。でもってその性能はといえばこういうことらしい。
Sarah Perez記者がカンファレンスで発表された3種類のMessengerボットを自身で試した記事だ。Sarahはボットの能力の低さにすっかりあきれていた。
引用元:F8カンファレンスでFacebookが大々的にプッシュしたボットだが、ありのままに評価することが重要 | TechCrunch Japan
自然言語をコンピュータとのインタフェースとして用いる際にはよほど気をつけなければならない。他の会社が理解しているこの原則をどうもFacebookは理解していないようだ。
まず第一に「言語」はコンピュータと人間との間のインタフェースとしては信じられないほど効率が悪い。画面に選択肢を並べて好きなように選ばせたほうがよほどましだ。そして第2にそもそもコンピュータには言語が理解できない。(人間が言語を理解する、と同じような意味で)そしてその解決の方向性すら見えていない。
彼らがこれが理解できないほど馬鹿なのか、承知の上で大ボラを吹いたのかはわからない。有名な将棋のプログラム、Ponanzaの開発者はこう言っている。
山本 人間に残されたのは、言葉と論理しかないんじゃないかな。
加藤 自然言語処理は、人工知能の次のフロンティアですよね。
山本 次どころか、最後のフロンティアだと思います。引用元:人類に残されたのは、言葉と論理。アルファ碁が示した人工知能の可能性とは|Googleの人工知能と人間の世紀の一戦にはどんな意味があったのか?|大橋拓文/山本一成|cakes(ケイクス)
言語処理というのは、防衛産業と同じくらい(あるいはそれ以上に)気が長くないとできない分野だ。頭のいい人が何十年も取り組んでいるのにさっぱり進歩を見せない。嘘だと思ったらチャットボットと会話してご覧。あるいはGoogle翻訳で簡単な日本語を訳させてもよい。GoogleにはAlphaGoを作る力があるというのに、簡単な日本語すらまだ英語に訳すことができない。
しかしこの山本という人の発言には一抹の危うさが潜む。そう思って引用した対談の別のところを見て絶望した。
山本 いや、むしろ、人間のやっていることで囲碁よりむずかしいことって何かありましたっけ?(笑)
引用元:人類に残されたのは、言葉と論理。アルファ碁が示した人工知能の可能性とは|Googleの人工知能と人間の世紀の一戦にはどんな意味があったのか?|大橋拓文/山本一成|cakes(ケイクス)
調べてみると山本という人はこういう軽口をたたく人らしい。Ponanzaは先日トーナメント戦を勝ち抜いたプロ棋士を一方的に破った。それぐらい強いのだが、以前も引用したAlphaGoの開発者たちの言葉と比べる時彼我の実力差に唖然とするのは私だけではあるまい。
ハサビスも同意する。「人間と同等の汎用人工知能ができるのは、まだ何十年も先の話です。でも5年か10年後には、何かしら役に立つものはできると思います。ぼくたちはいま、梯子の1段目に上ったところです。この先10や20のブレイクスルーを起こさなければ、その梯子が全部でいったい何段あるのか、そして『知性とは何か』を解明することはできないでしょう」
いや、おそらく私は間違った考え方をしている。この山本という人は強い将棋プログラムを作るのに長けてはいるが、それだけなのだ。バドミントンにオリンピックに出場するほど長けている人の論理感が小学生並みであるように。
しかしこう考えることもできる。AlphaGoはこうした真っ当かつ深遠な試みが一部表に現れたものに過ぎない。対するに日本では将棋プログラムを作って「囲碁より難しいことってありましたっけ?」とはしゃいでいる。この彼我の実力差は表に現れているよりもはるかに大きい。