日本の大企業に就職する若者が知るべきこと

2016-08-04 07:28

最近の若者は賢いから、きっとこんなことは知っていると思うのだけど。改めて書いておこう。

「組織は下からの意見では絶対に変わらない」

とはいえ何事にも例外はある。長いサラリーマン人生の中で、No3以下がクーデターを起こしNo2を放逐した例を二つ知っている。しかしそれとてもNo1がそれを理解できるだけの知能を持っている場合に成り立つことで、失敗したクーデターはそれよりはるかに多いのだろうな。

いきなり何を言い出したかといえば、親愛なる三菱自動車の不正に関する報告書である。不正の舞台となった性能実験部では毎年新人が一年目の終わりに「新人提言書発表会」で発表を行う。業務内容から改善を提言する場なのだそうな。2005年の発表会では、性能実験部が違法行為を働いていることが事細かに報告された。

この新人を指導したのは、入社四年目の先輩である。彼は自分が働いている部署が不正を働いていることを認識していた。そして上司にそのことを訴えたのだが、その結果はどうだったか。

このテーマは、実際は E 氏が F 氏に提案したものである。E 氏は、2001 年(平成 13 年)4 月に MMC に入社し、認証試験グループに配属されて、型式指定審査に関する業務に 従事していたが、認証試験グループで行われていた不正行為の引継ぎを受け、その中 で、法規で定められた惰行法ではなく、高速惰行法によって測定した走行抵抗のデータ を使用し、逆算プログラムにより、あたかも惰行法によって走行抵抗を測定したかのよ うな体裁を有する虚偽の負荷設定記録を作成して、型式指定審査の資料として提出する ことも経験した。E 氏は、このことについて、かねてからコンプライアンス上、大きな 問題であると認識し、その問題性を認証試験グループの上司らに話していた。しかし、 上司らは、すぐには対応できないと回答するだけで是正に動くことはなかった。

E 氏 は、この問題が一向に是正されなかったこと、2004 年問題が発生し、社内のコンプライ アンスに対する意識が変わる可能性があったことから、F 氏のメンターとなり、新人提 言書発表会のテーマを決める必要があった機会を捉え、この問題を取り上げることを F 氏に提案した。また、E 氏は、認証試験グループの上司であった G 氏に、新人提言書発 表会でこの問題を取り上げることを相談していた。しかし、G 氏は、この問題を取り上 げることに否定的な意見は述べないまでも、積極的な姿勢を見せることもなかった。

ある組織に所属するというのは、その組織の狂気と折り合いをつけることでもある。上司に「粉飾決済をしろ」と言われたら、それを「見事に完遂」することに喜びを見出せなくてはサラリーマンとは言えない。

不幸にしてE氏はそのことを理解していなかったのだろう。リコール隠しで三菱自動車はコンプライアンス改革を行うといっている。今こそ、訴えなければならない。直上の上司に言っても埒があかないから、偉い人が多数出席する新人提言書発表会で直接訴えよう!

映画だったら理解がある偉い人が、E氏の訴えを握りつぶしていた悪い中間管理職に「君はクビだ」と宣告し、同じ疑問を持っていた新人達が笑顔で集まり、発表者を胴上げし、明るい音楽が流れる場面だ。

現実に三菱自動車では何が起こったか。P70から引用する。

2005 年(平成 17 年)2 月 18 日の新人提言書発表会には、当時、性能実験部長であった H 氏、H 氏の前任の性能実験部長である I 氏、後に性能実験部長となる A 氏、J 氏ほか 20 名余りが参加していた。このとき、H 氏は、参加者に対し、MMC における走行抵抗測定方法の問題を明確に認識したことを示すコメントを残した。このことから新人提言書 発表会に参加していた者は、MMC において、法規に則って惰行法によって走行抵抗を測 定していないこと、高速惰行法により測定された走行抵抗が流用されている実態を問題視する従業員がいることを明確に認識したと認められる。

しかし、この新人提言書発表会における参加者の反応は総じて鈍く、その後も、MMC において、それまでの実務を改めて、型式指定審査の際に使用する走行抵抗を、惰行法 によって測定するよう改める動きは見られず、高速惰行法によって走行抵抗を測定する 実務が変わることはなかった。

引用元:燃費不正問題に関する調査報告書

要するに「何もおきなかった」のである。

かつて三菱と名がつく会社で勤めた身であれば、この時どんな雰囲気だったか容易に想像がつく。部長が「これは問題だ。よく指摘してくれた。ご苦労様」という。課長に指示がいく。課長は何か適当に回答してお茶を濁す。会議室を出る時には誰も発表内容のことなど覚えちゃいない。そして日常業務はこれまでと何も変わらず行われる。

こうした「現象」の背後にある「常識」を言語化すれば

「誰も新人から意味がある提言を受け取ろうなんて思っていない。期待しているのは”朝と帰りの挨拶をしっかりしよう!、僕が率先します!”という言葉」

となる。今回たまたま三菱自動車の不正は表にでることとなった。今E氏とF氏がどう思っているかは私にはわからない。まだ三菱自動車に勤めているとしたら、多分何の反応も示さないと思う。そうでなければ三菱で十年も勤めることはできないから。

ダメな組織が、存亡の危機に陥れば少しは良くなるに違い無い、とか思うのは間違っている。ダメな組織は何があってもそのまま。嘘だと思うなら、帝国陸軍、帝国海軍が開戦から終戦までどう変遷したか調べてごらん。日本の大企業に就職を考えている若者は、ぜひこの報告書を読むべきだ。多かれ少なかれ同じことが起こるから。