AI馬鹿につける薬
2017-07-18 07:13
例えば私の前で「Appleはもうおしまいだ。Steve Jobsは死に、最近の製品には革新性が感じられない」と力説すれば、「そうですね」という私のニヤニヤ顔が見られるだろう。何が言いたいかといえば、
「狂信的原理主義者に道理をといても無駄」
ということである。
同じような理屈でAI馬鹿につける薬はない、ということも知っている。少し勉強すれば簡単にわかるようなことを、勉強しないことによってあえて空想の世界に浸る人はとても多い。これは別に最近の風潮というわけではなく、30年前の第二次AIブームのときもそうだった。こういう人は騒ぐだけ騒いで、熱がさめるとすっかりそこから手を引く、という性質を持っている。それはかなりハタ迷惑なことだが。
さて
第二次AIブームが去った後もしつこくAIの研究(彼らの言葉を使えば「コグニティブコンピューティング」だが)を続けていたIBMである。
近年IBMは、重要な成長部門のひとつとしてWatsonをますます重視していた。それがまるで、IBMの未来を投射する影絵人形であるかのように。
引用元:IBM Watsonはウォール街の今の基準から見ると不評、Jefferiesが酷評レポートを発表 | TechCrunch Japan
「IBMはサービスである」というのは、有名なビジョンだが、最近私が触れる(つまり遠いところからつまみ食いするという意味だが)IBMのビジョンは
「IBMはセールスである」
ではないかと思わせるようなものだった。ソフトバンクと組んで、あやしげなプレゼンをやりまくる。金儲け至上主義のソフトバンクと実に最近ウマが合っているように思える。
でもって
そろそろ第三次AIブームも終息の気配が見えてきている。そうした「秋の虫の声」を一つ紹介しよう。
。MD AndersonはWatsonのプロジェクトに6000万ドルを浪費した挙句にIBMとの縁を切り、“人への治験や臨床的利用にはまだ適していない”、と断じた。
MD Andersonの悪夢は特例ではない。AI系のスタートアップのファウンダーの多くが、顧客である金融サービスやバイオテック企業がIBMと同様の経験をしている、と語っている。
しかしそれは特定の不具合に関する話ではなくむしろ、誇大なマーケティングや、ディープラーニングとGPUの稼働の欠陥、そしてデータ準備の要求が厳しすぎることを指している。引用元:IBM Watsonはウォール街の今の基準から見ると不評、Jefferiesが酷評レポートを発表 | TechCrunch Japan
私なりに要約すると
・大規模がんセンターが、IBMのWatsonを使ったプロジェクトに60億円を投資した結果として「まだこの技術は使えない」という結論を出した。
・そうした「実際に商用化しようとして、困難につきあたっている」AIプロジェクトは多い。
・「なんでも人工知能のおまかせ」という言葉が誇大広告であり、AIをビジネスに応用して収益を上げるのは、「人工知能がやってくれる」ことではなく人間の粘り強い努力が必要なことが(またもや)明白になった。
AIは、大量の非定型データを吸い込んでインサイトを吐き出す、摩訶不思議なブラックホールではない。堅実なデータパイプラインと、AIに対する自己の業務レベルでの正しい理解が、利用者の最低限の必要条件だ。
引用元:IBM Watsonはウォール街の今の基準から見ると不評、Jefferiesが酷評レポートを発表 | TechCrunch Japan
このセリフは、第二次AIブームが終焉に向かう頃に発せられた言葉とそっくりである。そして過去の事例が何かを私たちに教えてくれるとすれば、こういう馬鹿騒ぎにうかれることなく、騒ぎが終焉した後も地道に研究・開発を続けなければ収益をあげることなどできない、ということ。あ、詐欺的商売は別ですよ。
ただ、いずれにしてもどの会社も大きな障害にぶち当たるのは分かっています。インタフェースをAIと統合するテクノロジーを成功させるためには、長い時間、何度も繰り返して取り組むことしか解決策はありません。
そして日経ビジネスの読者の皆さんに特に申し上げたいことがあります。次の10年間を主導していく企業の話の中で、日本企業がこうした議論に列挙されることがありません。この背景を特に私は主張したいのです。