自動車産業の将来
2017-08-22 07:05
ゴーンくんはなかなか優秀な経営者だが、不幸にして自動車産業の未来に関して私と意見が合わないようだ。というわけで、彼のコメントを引用しよう。
AppleやGoogleのような企業が自動車の生産に関心を持っていないという客観的な理由は、彼らは自動車の生産で得られるよりも多くのお金をIT産業で得ているからです。わざわざ見返りの少ない分野に投資するというのは、あり得ないのです。
通常は逆でしょう。つまり自動車メーカーがIT産業に参入するべきです。しかしIT企業が自動車メーカーになるのはあり得ません。まずこれが第1です。
「普通に」考えれば彼のいうことは正しい。しかしたとえばスマートフォンも全く利益をうまないビジネスになっている。サムソンとAppleを除いては。そのことに留意する必要がある。つまり今もうかっていないからといて未来永劫儲からない、と判断するのは間違っている。
次に「自動車メーカーがIT産業に参入するべき」とかいっているが、彼らはそうした試みを10年以上にわたって続けている。そして何も成果をあげていない。Toyotaが出したG-Bookという情報端末について何か知っている人はいるだろうか?そういえば日産もカーウィングスとかだしてましたねえ。誰か知っている人います?
これは、IT企業にとって非常にワクワクするものになるでしょう。彼らが自動車メーカーになるという意味でなく、自動車メーカーとともにこの変革に加わることになります。
彼は非常に微妙な表現で「ともに変革に加わる」と言っている。ここに欺瞞がある。ビジネスでは仕切る企業は一つ。連合とか同盟とかは生まれた瞬間に失敗が運命付けられている。おそらくゴーン君もそれは認識しているだろう。
そして彼は「自動車メーカーが、IT企業をベンダーとして取り込む」ことを考えているに違いない。偉大な自動車企業が、君たちを車のIT化というワクワクするプロジェクトに「参画させてあげるよ」と思っているのだろう。
私の予想では起こることは逆である。理由は簡単。ユーザは何に対して金を払うのか?と問えばよい。ユーザはAppleやGoogleがもたらす体験に金を払う。エンジンとかハンドルがついたシャーシは「安くて事故を起こさず、壊れなくて、iPhoneに電源を供給してくれればばよい」ものになる。今なぜ自動車産業がもうからないものになっているかといえば、ユーザが金を払わないから。つまり「日産の車だから、少し高くても買おう」という人がいなくなっているから。そうした「安値の叩き合い」を回避して利益をあげているのがIT企業である。
つまり自動車産業はIT企業に買い叩かれる「下請け」になる、というのが私の予想だ。ゴーン君にとっては悪夢かもしれないが、私にとってこれはワクワクする未来図なのだけどね。