企業のビジョンについて

2018-01-10 07:12

免責事項:このブログの内容は私の個人的な意見を示すものであり、私が雇用契約を締結している企業の見解とは何の関係もないことを可能な限り強力に強調しておきます。

企業ビジョンというものがある。私は長年の研究の結果、企業ビジョンは2種類に分類されることを確信するに至った。

「きらきらビジョン」

「これだ!ビジョン」

である。いきなりそう言われてもわけがわからないと思うので、例を示そう。たとえばこんな企業ビジョンがある。

毎日を楽しく幸せに、社会を自由で効率的に。
(中略)

新しいサービスをより早く、より多くの人へ。

(中略)

素晴らしいサービスを生み出すために素晴らしい会社を作る。

引用元:グリー株式会社 (GREE, Inc.) - 会社情報 - ミッション

これが典型的なキラキラビジョンである。きらきらしているだけで何も言っていない。社員が手に手を取り合い「世界が平和になりますように」と唱和している姿が目に浮かぶ。キラキラビジョンのいいところは人畜無害な点。実際の企業の行動には何の影響も与えないし、私のようにひねくれた人間以外から問題点を指摘されることもない。

では「これだ!ビジョン」とは何か?IBMは一時このビジョンを掲げていた。

IBMはサービスである。


IBMは長年ハードウェアの覇者でしたが、それらの成功体験から抜け出せずに(特に日本勢に押されて)いた1993年、CEOに就任しルイス・ガーズナーが掲げたビジョンは「IBMはサービスである」でした。

引用元:ビジョンとスローガンの違いとは何か?|Work , Journey & Beautiful

そもそもIBMとはInternational Business Machinesの略である、ということを考えればこれは実に大胆なビジョンである。大型汎用機の製造で食べていた会社がこれからはハードウェアの製造ではなくサービスで収益をあげるといっている。

営利企業は利益を上げなければ存続できない。そのための選択肢はいくつもあるなかで

「わが社はこの道で行く!」

と「これだ!」と示すのが「これだ!ビジョン」である。わが社は「いい会社になる」のではなく「サービスで食って行く」と宣言する。これは実に大胆だ。「これを選ぶ」ということは「他の選択肢を捨てる」ということでもある。勇気がいる。だからほんとんどの日本の会社はキラキラビジョンに逃げる。もう一つキラキラビジョンの例を上げておこう。

DeNA
引用元:DeNA
これも実にキラキラしているが見事に何も言っていない。グリーもそうだが結局やっていることは、ネット上のパチンコ屋だからねえ。あんたのデライトってユーザの射幸心のことだよね。
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ここまでが長い長い前振り。今米国でCESというイベントが行われている。悲しいくらい話題にはならないが、私は昨日ある日本企業の発表に驚いた。

「自動車メーカーからモビリティの会社になることが目標」。そう豊田社長が語るように、e-paletteはトヨタが示すモビリティ・サービスの新たな形だ。

引用元:トヨタは“モビリティ版アマゾン”を目指す:日経ビジネスオンライン

豊田社長は本当にこう言った。(基調講演のビデオを見たから間違いない)トヨタは自動車メーカーではなく、モビリティの会社になる、と宣言したのだ。

私くらい惑星トヨタを忌み嫌っている人間はそういないと思うが、これには率直に感服した。日本の経営者が忌避する「これだ!ビジョン」を大胆に宣言したのである。この社長が、まだ社長になる前に推進したG-Bookというビジョンの顛末や、トヨタの社員が「自動車作り」の一歩外に出た途端どれほどの能力を発揮するかを知っている身としては多少生暖かい視線にもなってしまう。しかしこの「これだ!ビジョン」には心からの拍手を送りたい。