マーケティングのその前に
2018-08-06 07:11
ノーベル文学賞を受賞したカズオ・イシグロ氏の言葉で気がついたのだが、人間には自分の感情を他人と分かち合いたい、という強い欲求がある。この傾向が進化の上でどういう役割を果たしたのかはよくわからない。実はここらへんに「人工知能」の大きな鍵が潜んでいる気がするが、それは今日書きたいことではない。
何かを気にいると、それを他人に勧めずにはいられない。他人がそれを購入しても自分に1円もはいるわけではないのに。無料でセールスマンになる。そして今やインターネットのおかげでその「無料セールスマン効果」はかつてないほど増大している。
私は何十年とApple製品の無料セールスマンをやっている。先週の金曜日からはもうひとつ「取り扱い製品」が増えた。
一番右の作品には、私は知らないが有名な俳優がでており、TVドラマの映画化だという。真ん中はトムクルーズ主演、制作費は約200億円。宣伝費用はいくらかかっているのだろう。
一番右の作品は私が知っている人は誰もでていない。それどころか「この映画が最初で最後の演技」という人も混じっている。制作費は300万円。この三つの作品が並んで紹介されているのだ。
映画を公開する前に、主演俳優が日本にきてTVにでまくる。TVで特番を流す。事務所と交渉してこれから売り出したい若手俳優を入れる。主題歌もあわせて売りたい。マーケティング戦略だの戦術だの。
私も歳をとり、いろいろな経験をした。だから「マーケティングなんか無駄」とは言わない。「いいものを作れば売れる」というのは、技術系のスタートアップが失敗する原因の第一にある思い込みだ。
しかし
売り方を考えたり工夫するのは誠に結構。しかし問題はその根っこにある。
面白いもん作れよ。思わず無料セールスマンになってしまうようなもの作れよ。
それができて初めて売り方を考える。確かに今の日本は顔も悪い、演技もできない、頭も性格も悪い上にプロ根性のかけらもないような女性に「マーケティング」という魔法の粉を振りかけてできあがったシンデレラたちが闊歩している。こうした現実を見れば
「マーケティングさえうまくやれば、腐ったゴミでも売れる」
と考えるのは無理もない。
しかし
制作費300万円の映画が、約200億円かけて作られた映画と肩を並べることができる。これも事実なのだ。そして私は偏見に満ちた年寄りだから、後者の方があるべき姿だと主張する。そして家族にあの映画を見せたいと思っている。だってあの映画の面白さについて語りたいけど、誰も相手になってくれないんだもん。