別れの理由

2019-09-04 07:50

IT業界では「退職エントリー」なるものを書く習慣があるらしい。時々読むが面白いと思ったことがない。昨今何事もネガティブなことは禁句であるし、実際そうした理由を公開することが賢明とも思えない。

辞める本人は、正直に理由を話してくれるとは限らないが、その同僚や仕事仲間は、会社が良くなるなら自分が知っていることを話してもいい、と思っている場合が多い。そのため、辞めた社員と近い関係にあった同僚とざっくばらんに話し合いを持てば、離職の動機を聞き出せる可能性がある。

引用元:社員が辞める本当の理由を、あなたは知っていますか? 人材流出を学習機会に変える3つの方法 | HBR.org翻訳マネジメント記事|DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー

恋人の別れも会社との別れもそうだが、相手に対するネガティブな動機が全くない、ということはまずありえないし、それが「耳に優しい」理由となっていればまず嘘である。洋の東西を問わず、会社を辞めるというのは大きな判断であり、それをするということは相手に完全に愛想をつかしていることが多い。

ということは、そもそも相手(個人であれ会社であれ)が聞く耳を持たないと見限ったからであり、そんな相手に本当の理由を話す人がいるとは思えない。

もっと根本的な理由として、そもそも多くの人はほとんどの場合相手の話を聞くより、自分の話をすることに熱中する。だから相手に質問したとしても、相手が「そうですね」と前置きを言った瞬間自分の演説を始めるのが常だ。

もっと根源的な理由として、そもそも人間は自分の行動について説明するのが上手ではない。ユーザインタビューで「なぜそれをしましたか」と聞くと、人間は適当な理由をでっちあげる。それに長けているのだ。個人間であっても、対会社であっても本当の理由は自分が10年、20年たって振り返ってようやくわかることが多い。

「立つ鳥跡を濁さず」とか「別れて言った人間」の口を封じることわざは日本にたくさん存在する。この世の中はとても狭いから、勤め人をしている間は、何事も口を慎んだ方がよいと何度か学んだ。いや、このブログも一応気を使って書いているのですよ。少なくとも20年前よりはだいぶ大人しくなったと思うのだけど。