Zapposに感じた危うさ

2020-12-09 08:44

一時はそのビジョンを具現化した会社Zapposで有名になったトニー・シェイが事故で死んだ。まだ46歳だった。

彼を悼む言葉は多い。しかしZapposという会社に感嘆しながらもどこか危うさを感じていたのも事実だ。2012年、当時勤めていた会社にの海外研修に「荷物持ち兼通訳」として参加した。とにかく二週間どこかに行ってこいというオーダに従い、選んだ行き先の一つがZapposだった。

そこでは本に書いてあったとおりの光景が展開していた。

ある部門に顔を出した時は、笛やクラッカーが派手に出迎えてくれた。別の部門では大きな鈴の音が響き、ポンポンが舞った。ファッションチームの部屋では、ダンス音楽が流れる中でスナップ写真の撮影。ツアー最後の訪問先、通称「王様部屋」では、ザッポスの専属コーチを務めるドクター・ヴィクのお膳立てにより、王冠をかぶって玉座に収まる私の記念写真ができ上がった。

引用元:ザッポス前CEOトニー・シェイのリーダーシップと芸術家肌の横顔 偉大なアーティストは何を遺してくれたのか | HBR.org翻訳リーダーシップ記事|DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー

しかしこうした「普通の報告」にはない光景も確かに存在していた。確かチャットのセクションだったと思う。見学者がきたことに気がつきマネージャー(とおぼしき女性)が率先して何か音がでるものを振り回し「チャットの会話は絶対変な風にはならないのよー」とスローガンを叫ぶ。社員はそれに合わせて声をあげ何か音を立てる。しかし端のほうにいた男性が「あーはいはい」という感じで何かくるくる回していたことが妙に印象に残っている。

トニーシェイと役員の机が一般社員と同じ大きさで、ただ頭上にプラスティックの蔦が茂っているところだけが違うのをみて「これはすごい」と帰ってから強調した。その時勤めていた会社では創業者社長がGODとしてふるまい、社員にスペースを与えない一方で自分だけは特大の社長室にふんぞりかえっていたから。

ZapposのベイエリアからLas Vegasへの移転は悪いことではないと思う。実際ベイエリアは異常だ。しかしこれはどうだっただろう。

トニーは情熱に駆られて、2014年には「ホラクラシー」という大胆な仕組みも取り入れた。組織の分権化を極限まで推し進め、肩書、マネジャー、階層を撤廃したのである。

 このイノベーションが抵抗に遭うと、同僚たちに、受容するか、さもなければ退社するか、二者択一を迫った。従業員の約18%が退社を選んだ。トニーはホラクラシーにこだわったが、2020年に入ってからは、ザッポスがついに「ホラクラシーから静かに脱却しはじめている」とする報道がなされた。

引用元:ザッポス前CEOトニー・シェイのリーダーシップと芸術家肌の横顔 偉大なアーティストは何を遺してくれたのか | HBR.org翻訳リーダーシップ記事|DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー

Googleでもこうした試みがあったと聞く。しかしそれが機能しないことを悟るとマネージャーを復活させた。そうした実験は意義あることと思うが「受容するか退社するか」を迫るのはどうなのだろう。

そうした「危うさ」を感じたのは私の頭が悲観的にできているせいばかりではなかったようだ。

But within a day, Jewel abruptly left. Shortly after, the singer sent Hsieh a letter via FedEx, since he had forsworn email and texts as part of a digital cleanse.

“I am going to be blunt,” she wrote in the letter, the content of which was shared with Forbes. “I need to tell you that I don’t think you are well and in your right mind. I think you are taking too many drugs that cause you to disassociate.”

She continued: “The people you are surrounding yourself with are either ignorant or willing to be complicit in you killing yourself.” 

引用元:Tony Hsieh’s American Tragedy: The Self-Destructive Last Months Of The Zappos Visionary

今年の8月にシェイを訪れた歌手のJewelは、彼の元を立ち去った後「あなたは健康でなく、精神は異常。あなたの周りの人はあなたが自殺する危険性を無視しているか、助長している」という手紙を送ったとのこと。

幸福を追求していた男は、やはり幸福ではなかった。考えてみれば当たり前ではないか。

石塚:
1を最低、10を最高とすると、今、あなたはどれくらい幸せですか。
(注:「幸せ」の研究の一環として、トニーはこの質問をよく人にするそうです。ですから、今日は私が彼にこの質問を投げかけてみました。)
トニー・シェイ:
最近は、平均して8.5点くらいかな・・・。
石塚:
8.5点・・・。それを10点満点にするには、何が必要だと思いますか。
トニー・シェイ:
う~ん、どう答えたらよいかな・・・。それは、ある意味では「微妙な質問」だと僕は思うんですよね。なぜかといえば、「幸せ」というのは、「目的地」ではないので・・・。

引用元:ザッポスCEOトニー・シェイの定義する「幸せのフレームワーク」とは「ザッポスの奇跡」石塚しのぶ書籍連動サイト

かくしてシェイは探し求めた幸福からほど遠いところで人生を終えた。あのZapposはこれからどうなっていくのだろう。
私が勤めていた会社の社長はビジョンを語り、自分がそれを実践していると主張していた。しかし実際には売り上げと利益と自分のエゴにしか興味がなかった。そして彼はまだ元気に働いている。
歳を重ねた今ならば「そういうことなんだろうな」という感想しか持つことができない。