企業のグランドデザイン

2021-01-13 08:35

ビジョンというと寝言を連想する人が多いので、「グランドデザイン」という言葉を使う。企業としてどちらに向かうべきかを決める大きな選択の意味だ。

日本企業の多くが衰退した理由にはおそらく多岐にわたる。しかしこの「グランドデザインの欠如」がその中の大きな要素であると私は信じている。何よりも「前例」や「事例」を重視し、他の企業がグランドデザインを示すまで決断しないことで日本企業は衰退したのだ。

AmazonがAWSというサービスを提供すると聞いた時「へんなことを始めたなあ」と思った。それが今やAmazonという会社の収益源となっている。これは他のECサイトには逆立しても真似できない強みだ。AmazonはECサイトで利益を出す必要がない。これは圧倒的な強み。ではそのAWSはどうやって生まれたのか?

「デザイン思考」信者には気の毒だが、多様性に富むメンバーを集め、ブレストをやって方向性を決めたわけじゃないよ。非常に興味深いTweetとその和訳があるのだが、本日紹介したのはその一部。そもそもは当時「常識」だったSolaris+SPARCからx86+Linuxに置き換えるという「とんでもない判断」があったのだ。そしてさらに驚くのは以下の記述。

HP/Linuxへの移行作業のあいだ製品開発は止まり、1年以上にわたり新機能が凍結された。膨大なバックログを抱えたものの、Linuxへの移行が完了するまで何も提供できなかった。私は、ある全員参加型の会議で、 VPの一人が蛇がネズミを無理やり飲み込もうとしている画像をちらりと見せたのを覚えている

引用元:AWSが生まれたのは、Amazonが経費削減のためにSunのサーバからHP/Linuxサーバへ切り替えたことがきっかけ。当時の社員が振り返る - Publickey

そもそもLinuxに移行するというのは大きな作業だが、その間1年間新機能を凍結する。これほど大胆な決断ができるとは。私がいう「グランドデザイン」とはこういうことだ。1年間新機能を凍結するというディメリットを理解しながらも、新たなプラットフォームへの全面移行を決断する。このレベルのグランドデザインができるところは数少ないのではないか。

ではグランドデザインなしになにが起こるか?新アーキテクチャの検証を二年くらいやる。その結果を半年くらいあーでもないこーでもないと議論する。移行のコストとリスク評価を何度もやる。(そしてまともな数値が出てくるわけがない)結局

既存のビジネスに悪影響がない範囲で、順次移行を検討する

という玉虫色の「決断」がなされる。結果として何もおこらない。

というわけで

最近は「白い紙の上に、自分の意思を表現する」アートに学ぶべきだ、という本を一生懸命書いているわけです。もうちょっと待ってね。