日付:2006/3/31
さて、2006年の 12月から1月にかけ、私は今までの成果をいくつか国際会議に出してやろう、という意欲に取り付かれ始めた。まず12月の1日に某MLで Creativity & Cognitionなるカンファレンスがあることを知る。「創造」に関するものを広く募集というから、なんとなくGoromi-Webが出せそうな気がす る。とはいっても締め切りはたった2週間後の12月15日だ。確かに一度UIST向けに書いたネタとはいえ、2週間でちゃんと提出できるだろうか。おまけ に出しても通るとは限らないんだよなあ。というわけでのろのろ書き出す。というかファイルだけ作るのだが、全然中身を書かない。そ のうち「無理無理。出しても無駄」と自分に言い聞かせ、何事もなかったかのように12月15日をやりすごすことにする。
と いうわけ で次の週になる。頭の中からC&Cのことはおいはらったつもりだったのだが、ふと再びサイトを見てみる。すると、締め切りが一週間延長されたとあるではな いか。えーっとえーっとと考えているうち、頭の中で出すことに決めてしまう。本来であればちゃんと英語の校正に出したいところだが、そんな余裕はない。カ ンファレンスの概要を見る限りArtとの融合を考えているようだから、今までにとったスクリーンショットの中で一番見栄えがよいものをぼかん、とのせる。 英文にはきっと問題が多々あろうが、とりあえず出してしまう。
その後ありがたい正月 休みがやってくる。当然のことながら論文の事はすべて忘れる。休み明けにぼけた頭で出社する と今度はもう二つカンファレンスの締め切りがやってくる。1月12日にはCHIという会議のWork In ProcessにGardsネタを提出する。こちらは時間的余裕があったので決行まじめに書いたし、英文の校正に出すこともできた。とはいってもおそらく これが一番厳しい関門のはずなのであまり通るとも思えない。
次に出したのはEuro ITVというカンファレンスである。正直言えば自分がなぜこの会議を知ったのか定かではないのである。論文を出しておいて、覚えていないもないものだが、 とにかく「をを、Interactive TelevisionであればGoromi-TVを出せるのではなかろうか」と思ったわけだ。デモに必要なのは2ページの概要。もともと日本語で6P書い たから短くすれば楽勝、というわけにはいかない。例によって英文を書くと「俺はアホではなかろうか」と落ち込むし、なぜか短くなりすぎる。あれこれ足して なんとなく2Pにするが、全体を読み返してみるとどうにも文章が変だ。しかし悩んでいてもしょうがないからえいや、と提出する。
さ て、いったん提出してしまえば後は平和である。これもいつものことから「全部通る」妄想から「全部落ちる」妄想まであれこれ膨らむ。よくよく考えてみれ ば、もし通ると私は新しい年度が始まった瞬間に毎月海外出張になる。しかしそう思った瞬間「無理無理」という声が頭の中に響く。それよりは全部落ちる可能 性がはるかに高いではないか。そうだよ。今まで出してもぼこぼこ落ちてたんだから(UISTに通ったのは別として)きっと「あーあ。たまには海外にでも 行ってみたいなあ」とか思いながらここに座ってぼんやりしているんだよ、と自分に言い聞かせる。
と かなんとかいっているうちに、月 が変わり、さっそくCHIからWe are sorry to inform you,,というお断り通知が届く。えーんしくしく。いかに「難しいから通るわけないよ」と自分に言い聞かせていたとは言え、やはり落ちるとうれしくな い。しかしやたらと落ちたことが幸いして、落ちるときの落ち込みにも慣れてきた気がする。平気というわけではないが窓から飛び降りるとかドアノブにネクタ イを結ぼう、という気にはならない。
さて、というわけで残り2件の通知予定日を調べてみる。 C&Cが2月21日。Euro iTVが2月25日である。ということは、いきなり「2連続必殺パンチ」をくらって2月の残りをしくしく泣きながらすごすことになるわけだな。(私はすぐ しょげる人なので、一回落ちると「残りもだめに決まっている」と悲観的になるのである)。とかやっているうち妙なことに気がつく。Euro iTVの締め切りが延びているではないか。あれこれがんばって1月26日に提出し、かつその日に間に合うようにデモビデオを郵便で送った(Euro iTVではデモビデオをオンラインで受付してくれないのである)。デモビデオが間に合わなかったときのために、わざわざ「もしビデオが間に合わなければ、 かくかくしかじかのURLからダウンロードしてね」と注意書きまで書いておいた。
ここまで やってだめだったらしょうがない、と開き 直っていたのだが、今見ると締め切りは一気に2月15日までのびているではないか。。もともと採否通知は2月25日だったので、これは査読というかふるい 落としの期間が10日しかないことを意味する。これはいかがなことであろうか。同じくらいに採否通知がくるはずのC&Cは12月に提出し てるんで すけど。1週間伸びるってのは聞いたことがあるけど、3週間伸びるのって初めて聞いたなあ。そんなにデモが集まらなかったのだろうか。ひょっ として私はとんでもないカンファレンスに応募してしまったのだろうか。いや、そんなはずはない。去年Best paperをとったのは、Googleの論文だ。ということはそんなに妙なものであるはずがない。そう自分に言い聞かせると
「と りあえず何も知らないふりをしよう」と 心に決める。とはいってもいつしか日は過ぎるのである。2月22日、朝会社に行ってメールをチェックするが、何も届いていない。では ひょっとすると働いている間に何か届くか、と思いどぎまぎするが何も届かない。これはきっと通知の期限が延びたに違いない。そう決め付けると心安らかにお うちに帰る。
翌朝出勤するとまずやることはメールのチェックである。その中に"Your CC2007 Submission (Number 87)"と いうタイトルがある。このそっけない題名は(今までたくさん落ちているからわかるのだが)落ちたというしるしである。そうかそうか。というわけで読む気力 がなくなるのだが、一応"Sorry"とか"Regret"という文字がでるまでは読んでおこう、と思い読み始める。すると予想に反して
"we are delighted to inform you"
な どと書いてある。あら、通ったかしら。いつものことながら「きっとこれはうそに違いない」と思うが、通ったときというのはその後もあれこれメールが来るも のである。となると本当に通ったらしい。ちょっとほっとする。その数日後今度はEuro iTVからメールが届く。その文面がすばらしい。
"Hi Goro,I am writing to inform you that we found your demo submission for EuroITV 2007 very interesting and innovative, and have decided to accept it.
Many thanks,"
これだけである。たいていの通知にはReviewerのコメントがついてい るものと思っていたが、この簡潔さはいかなることか。し かし驚いたとともに大変気に入ったことを付け加えないわけにはいかない。論文というのは(私が海外に出しているのは論文ではなく、デモの類ばかりだが)一 定のフォーマットに従うことが必要である。同じような研究を列挙し、それとどこが違うのかを論理的に説明しなくてはならない。しかしながらそうして論理的 にすきなく作られた論文が「面白いか」といわれれば必ずしもそうではない。いや、別に面白くなくても「をを、これは中身の詰まった研究だ」とかとにかく見 るところがあればいいのだが
「条 件は完璧にクリアしているけどつまらん」
というものが山のようにある。結局のと ころ重要なのはここにある"Very interesting and innovative"なことではなかろうか、などとチンピラサラリーマンは考えるのであった。
などと感慨にふけっているうちに、 2006年度が終了する。そしていつものことであるが、、、まあ本業に関する話はここではやめておこう。とにかく年度がかわりあれこれいっているうちに5 月が近づいてくる。さて、デモをどうしよう。
今 回は初めてGoromi-TVを海外で発表するわけだから、英語のコンテンツを用意する必要がある。幸いにも今まで英語だけで情報をつけていた番組がいく つかあるので、それを使え ばよろしい。とはいっても数が足りないので、Podcastで配信されている番組とかYoutubeの上でみつけた面白い映像とかいくつか追加する。しば らくはそれが趣味というか強迫観念のようになってあれこれやっていた。
次には何をするか。5 月にEuro iTVがあり、帰ってきてから2週間後にはCC2007がある。それぞれデモするプログラムは異なるわけだが、元のGoromiにはいろいろ問題があるこ ともわかっている。まず第一にJDK5.0以上でやると画像がまったくでない(JDK5.0が何を意味するかは後で考えるとして)第二に、そこを直しても 画像がでる数がとても少ない。これについてはあれこれ調べた結果とても馬鹿なことをしているこ とに気がつく。というわけで、そこも直したい。おまけにプログラム全体の動作もどうにも気に入らない。Goromi-TVと同じ方式にしてしまいた くなる、というかGoromi-TVをベースにWebもローカルのムービーもブラウズできるものにできないか、と考え始める。
と い うわけでGOMailがひと段落したところから、(つまりゴールデンウィーク明けからだが)新しい(といっても二つのプログラムをくっつけるだけだが) バージョンを作り始める。今のところGoromiEと名づけている。まともな名前はいつか考える、といいつつこのままになるような気もするが気にしない。 Goromi-TVをベースに元のGoromiの機能を加えだす。とはいってもネットにアクセスするところは大幅に書き換える。それに複数のスレッドを 使った処理もJavaの機能を使おう、ということで書き換えになる。
という次第でしばし格闘した後、なん となく画面にWeb情報が表示される。 そこでひとつ妙なことに気がつく。Gormiではキーワードが右側、検索結果が左側に表示される。なぜかと聞かれれば「そのほうがよく思えたから」としか 言いようがない。対するにGoromi-TVではキーワードおよび動画が左側、検索結果は右側に表示される。なぜそうしたか覚えていないから、今回プログ ラムを結合するに当たり両方ともGoromiの方式にしようと考えた。ごちゃごちゃやって「さあできた」とばかりにGoromi-TVの機能を使って動画 を表示してみる。すると何かがおかしい。何がおかしいかわからないのだが、見やすくないのである。隣に座っている人に見てもらう。やはり同じような感 想が帰ってくる。これはどうしたことか。
その人のいった意見を元に考えたところ多分こんなこ とだろう、と考え出した。つまり Goromiではユーザは検索キーワードよりも検索結果の方に注目する。逆にGromi-TVでは動画に注目する。注目するものは左側にあるべきなのでは なかろうか、と。というわけでWebをブラウズしているときとローカルの動画をブラウズしているときでは、画面の配置を変更するようにする。この切り替え についてはまだ考慮中である。といった調子で画面にあれこれ写真が表示されるようになると、最初は楽しい。わーい わーいと思う。しかしその うちいくつも問題が目につきだす。まず第一に不思議なくらい検索結果が少ない。次にどう考えても写真が少ない。こんなものさ、と自分に言い聞かせようとす るが、どう考えても少ない。というわけで、あれこれ状況を調べていく。ページからイメージのURLを抜き出すところが問題かと思ったのだが、そうい うわけでもない。というわけで調べてみるとスレッドを走らせページをダウンロードするところが問題ではないかと疑い始める。どのようにしていたか。話を簡 単にすると、「言ってもら えれば何でもダウンロードします」という人を5人くらい用意しておき、その人達に次々要求を出す。仕事が終わればまた次のリクエストを受け付けてダウン ロードする、という仕組みにしていた。理論的にはこれでうまくいく筈だ。実際最初の何回かはうまく動くのだが、何回もやっているとおかしくなる。あくまで も感じで言うと、働き手が 一つの要求にいつまでもかかわりあっていて、要求を誰も受け取ってくれないような感じだ。さて、どうしよう。
その うちふと気がつく。世の中には HTMLページをごそごそダウンロードするプログラムくらい存在するはずではないか。そう思ってあれこれ検索する。すると私も名前だけ聞いたことがある Jakartaというプロジェクトでそうしたライブラリが公開されていることをしる。その中にマルチスレッドを使ってHTMLをダウンロードするサンプル プログラムも存在する。それを使ってやってみると大変快調である。というわけでそれまでかなり時間をかけて作っていた自前の「マルチスレッドでダウンロー ド」をあっさり捨てる決心をする。新しいライブラリを使ってみると画像がわらわら出てくる。大変快調である。Goromiには「画像がある結果を優 先的に表示する」というオプションをつけていたのだが、これだけ表示されるのならそんなことをしなくてもよいような気がしてくる。というわけでそのオプ ションを捨てる。
とかなんとかやっているとなんとかGoromi-Eが動くようになってくる。ここ で一つ判断を しなければならない。デモをどちらで行うかだ。Goromi-TV ver10かGoromi-Eか。Goromi-Eでつっかえるたびに「デモはGoromi-TVでやればいいや」と思っていたが、ここまでくれば Goromi-Eでいけそうな気がしてくる。というわけでその後の改良はすべてGoromi-Eを対象にすることとする。
次にそもそも検索結果が少ないのはなぜだ、と調べてみれば単なる間違いであった。Goro とOtsuboで検索するとき"Goro Otsubo"としなくてはならないのに間にスペースを入れずGoroOtsuboにしていた。どうりでアラビア文字とか読めないような結果が出てくると 思った。この「読めもしない文字でも検索できます」というのは一つの売りにしようかと思っていたのだが、どう考えても間違っている。というわけでそこを直 すとあっさり結果がちゃんと返ってくるようになる。
さ て、これで心おきなく出張に、とはならない。CC2007 の出張伺いをださなければならない。そこで私は一つの野望を持っていた。6月と言えばAppleが主催する開発者向けイベント、World Wide Developers Conferenceが行われる月だ。もし時期が近かったらこちらにも行かせて貰おうではないかと。そう思って日程を観ればどんぴしゃり、CC2007が 行われる週である。しめしめ、というわけであれこれ理由をこじつけ、まずSan Fransiscoに行き、その後CC2007という日程をたてる。理由に曰く、AppleはiPhoneの発表により、携帯情報機器メーカーとしてもと らえるべき存在になった。従って是非とも出席してその技術動向について調査する必要があるとかなんとか。不思議なことにこの理由に誰も異議を唱えず、私は 6月にWWDCとCC2007に連続して向かうことになる。出張の手配も行うが、今はそれより目前の出張に集中しなくては。
そ もそもヨーロッパ行くのは久しぶりではないか。そういえばコンセントの形から違うんだった。この前はどうし たっけ。そもそも空港からホテルってどうやっていくんだ。ホテルから会場はどうするんだ、とかあれこれ探す。ホテルにはアムステルダム中央駅からTram で一本だ、と書いてあるけどTramってなんのことだ。こうなると公式サイトの類はいかにも情報が少ない。個人の旅行記のほうが役に立つのだが、どうやっ て金を払うかがまたわからない。乗るたびゾーンの数+1を折って回数券を差し出せ、とか書いてあるのだがそれは何のことだ。まあこういうのは行ってみれば すぐわかることであろう、と心の中に残る疑問を封印する。ホテルから会場まではバスだから、えーっとバスはどこから乗るんだ。これも現地に行ってみればな んとかなるか、と勝手に考える。
さて、次にやるのは恒例の「バックアップ」である。何か起こってもなんとかデモができるように考えな ければならな い。そのため2台PCを持ったこともあるが、年をとってくるとさすがにあれはつらい。というわけで新しい試みをした。iPodを使うのである。ムービーを 入れておけば最悪の場合そのムービーを上映することができるだろう。そのためにiPodとTVをつなぐケーブル などを購入する。会社にはある目的の為にiPodがごろごろしていることを知る。担当者に「一台貸して」というと真新しい物をだしてきてくれた。ハード ディスクは 80GB。なんとこれを書いているPowerBookと同じ容量ではないか。というわけであれこ詰め込む。デモ用のムービーをしこたま放り込んでも容量が ま だまだ空いている。よし。いつもCD-ROMでもっていくソフトウェアのバックアップもこちらで持って行こう。
というわけでバック アップ用機材はいつもよりインテリジェントになった、と書庫日記には書いておく。他には何を用意しよう。主催者側から来たメールに「プ ログラムではデモは1日になっているけど、二日間設置しておき、みんなに自由にさわってもらえるようにしよう」と か書いてある。これは問題だ。今まで(大変限られたユーザー評価を除き)他の人に自由にこのプログラムをさわって貰ったことがない。説明書とかおいてお くわけにもいかないし。というわけで、プログラム操作に必要な矢印キーを外付けキーパッドにする。会社の帰り道に外付けテンキーを購入する。次に不要な キーを全部取り去ってしまい、空いた場所には、会社の工作室にころがっていたふわふわした布のようなものを貼り付ける。ちょっと両面テープがはみ出してい るところを除けば結構それらしいものができあがる。プログラムの方は例によって「突然おなくなりになる」問題が解消していないが、まあ適度に再起動するれ ば良かろう。もし私がいない間に来た人がいたらどうしよう、ということで一枚の簡単な説明を作る。以下はその意訳である。「画面上の文字とかビデオとか勝手 にクリックして何がおこるかみてみて。
外付けキーパッドのキーをおして何が起こるかみてみて。
もしプログラムが 終了していたら、Goro Otsuboを探して。私はMiddle aged アジア人でサスペンダーをしています」
そ の昔Stanfordにいたころは「サスペンダーをしたアジア人」といえば私の事だったが、今は「サスペンダーをした中年のアジア人」としておくのが親切 というものだろう。
と いうわけで準備はとりあえず完了する。5月21日の月曜日私はあれこれ鞄に詰め込み会社を後にする。家につきご飯を食べ、子供達を風呂に入れるとやおら準 備にとりかかる。とはいってもPC以外には服を詰め込むだけだから簡単なはずである。一通り詰め終わると、持ち物チェックリストをみながら(これを作っ ておかないと必ず忘れるのだ。)全部はいっているか確認する。するとだいぶ前に「そうだよ。これ持ってたんだよ」と確認したはずの電源コンセントを変換す るプラグがないことに気がつく。まずい。これがないとえらいことだ。いや、成田で買えばいいのだけど、きっと滅茶苦茶高いに違いない。
泡 食った私は自分の部屋を何回もぐるぐる回り始める。その間あっちをのぞいたりこっちをひっくり返したりする。引き出しを分解して全部調 べてみたがやはり変換コンセントは見つからない。これはいかなることか。私が何よりも愛している睡眠時間はだんだんと削られつつある。
ちょっ とま て。落ち着くんだ。あのとき「これがあれば大丈夫」としてからどうしたか。持って行くはずの鞄の中にいれたのではないか、と思い底をさぐってみたらちゃん と見つかった。ああ、やっぱり青い鳥はこんな近くにいたのだね。自分の愚かさを呪うよりとりあえずちゃんと見つかった喜びのほうが大きい。というわけでそ の日はくってっと寝てしまう。翌日はいつもの時間におきて家をでることにする。途中までは順調。しかし例によって自分の馬鹿さ加減は常に私の自覚と予想を 超えたところのに存在しているのであった。