題 名:Java Diary-88章

五 郎の 入り口に戻る

日付:2007/10/31

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CC2007-前半

最 初にお願い:JavaDiaryでの前の章はEuro iTVに関するものだ。しかしこの章の本当の前の章は私のMacintoshにあるWWDC2007である。というわけでもし読 んでなければそちらから読 んでね。

成 田-San Fransisco間の8時間はとても長かった。San Fransisco-Washington D.C.の間は5時間である。これもまたとても長いのだろうか、と思っていたらあっというまについてしまった。ぐーすか寝ていたからだ。時差ぼけの神様に 感謝である。無事飛行機の車輪が地面についたことに感謝するが、この先に待っているものを考えればわーいわーいとはいかない。ここからなんとかしてホテル にたどり着かなくてはならないのだ。
飛行機から降りると、そこは地上ではなく、バスのような乗り物だった。近くでおじさんが携帯電話 でしゃべっている。そういえば米国に来てからというもの
「ペースメーカーに支障があるから携帯電話の電源を切れ」
と は言われたことがないような気がする。そのうちそのおじさんはなんだか怒りだした。I am very upsetとか言っている。何の理由もないのだが、電話の向こう側にいる男に同情したりする。私は仕事の場では怒るより怒られる方がはるかに多いからだ。
などと他人の運命を気にかけている場合 ではない。ここからホテルはどうやっていくのだ。いくつかの選択肢があるようだが、例によって一番安く面倒なものを選ぶ。まず地下鉄の駅までバスがでてい るようなのでそのチケットを買う。外にでてぼんやりと待っていたらそのうちバスが来た。それに乗り込み一安心、と外を眺める。そのうち雨がふってきた、と 思っている間に大雨になった。うげげげげ。その昔西海岸から東海岸に来ると必ず傘を持ってくることを忘れ、降りてから買う羽目になった。今回はそれほど雨 が少ないところから来たわけではないのでちゃんと傘を持っている。しかしそれは携帯用のとても小さい物だ。果たしてこの雨をしのげるものであろうか、など と心配しているとそのうちバス停に着く。そこから屋根のあるところまで歩いただけで結構ぬれてしまった。
ここから地下鉄に乗ることに なる。なんとか止んでくれないかなあと思い外を眺めるが快調に降り続いてくれる。観念して地下鉄に乗り続ける。そのうち乗り換えだ。ホームに降りると異様 に暗い。前にWashington D.C.に来たときも同じ印象を持ったが、まるで洞窟である。何を好んでこのように暗くしているのだろう。乗り換えるべきホームをなんとか探しだししばし 揺られる。 Dupont Circleというところで降りる。
さ て問題です。ここからホテルはどうやって行くのでしょう、などと考えている間 に、地下から地上に向かう長い長いエスカレーターに乗る。そのうち頭の上に壁がなくなる。大粒の雨が降ってくる。エスカレーターはごとごと動き続ける。な んとか知らんぷりをしようと思うが雨の量はそれを許さない。そもそもホテルはどこにあるのだ。傘は持っているが、鞄の一番奥底に沈んでいる筈だ。それを出 すにも少し屋根があるところを探さねば。あれやれこれや同時に考えつつ雨の中をうろうろする。地図を取り出し方角を確認しようとすると、地図が雨に濡れて よれよれになってしまう。地図をしまう。いまこれをなくすわけにはいかない。WWDCでもらった鞄を頭の上に載せ傘代わりにする。地図で観たときは地下鉄 の入り口をでてすぐのところにホテルがあったし、後で考えてみれば実際そうなのだが、それでもどこにあるかわからない。こちら、と決めて歩いていくとどう 気配が遠ざかっているように思う。なにかわからないが屋根のあるところに逃げ込み息を整える。観念して傘を掘り出し地図を広げる。えーっとここがなんとか 通 りで、なんとか通りのはずだから、あれ全然ちがってるじゃないか。というわけで今までとは違う方向に歩き出す。するとなんとなくローターリーのようなとこ ろにでる。これは幸い。ホテルはこのローターリーのどこかにあるはずなのだ。この通りじゃない、次の通りは違う。ええい、本当にここにあるのか、と不安に かられながら歩き続けると(後で考えればそんなに長い時間ではなかったが) 目の前にどーんとしたホテルが現れた。やれうれしや。
と にかく中にはいる。フロントに行き「予約はないよ」と言われることがそれまでの懸念事項であったが、とにかく屋根があるからうれしい。チェックインはなん なく完了し、自分の部屋に行く。San Fransiscoでとまったホテルより$50高いだけだが、広さはどうみても2倍あり、設備は5倍くらい整っている。部屋にインターネットの接続がきて いるから、メールをチェックするためにあちこちうろつき回る必要もない。おまけに部屋にバスタブがあるのだ。三つ目のホテルにしてようやくバスタブだ。い やんなんて素敵なの。
などとご機嫌になった私はご飯を食べるため再度外に出る。雨はまだ降っているが、荷物を部屋においてきたので気 楽である。例 によってチップを払う事に異様な恐怖感を持つ私は近くにあったスターバックスでサンドイッチを買い込むことにした。部屋にもどってそれを食べる。ああ、こ こは雨も降らないし、広いしなんて快適。というわけでご機嫌のうちに眠りにつく。そのまま朝までぐっすりとなれば話は美しいのだがもちろんそんなこと は起こらない。再び時差ぼけとの戦いが行われるのであった。

明朝と呼ぶべき時間になった。頭はぼけているが、朝だ。まず下に降りて朝ご飯を食べる。マフィンとか果物とか置いてあるだけ だが、なんと いっても無料がうれしい。部屋にもどってぼんやりした後さっそくカンファレンス会場とおぼしき場所に行く。Registration Deskができており、名前を言うと赤い、安っぽい袋にあれこれいれて渡された。その後 デ モが行われる部屋を見に行く。すると結構人がいる。その場を仕切っているとおぼしき女性が「あなたはここ。あなたはそっち」とか指示をしている。あの、今 日デモをやるOtsuboっていうんだけど、と話しかける。ああ、あなたはこちら、と 話を聞いて仰天した。もともとデモの方法を示したメールにはこう書いてあった。

「あなたのデモにプロジェクタ、スクリーン、 それにインターネット接続が使えます。説明時間は15分で、それが終わればまた別のグループに説明をします」

私 はこれを読んで喜んだ。主催者がプロジェクタを準備してくれるので、日本からかついでいかなくていいのだ。しかしこの「説明時間が15分で、その後別のグ ループに説明 」ってどういうことだ。デモを観る人たちをグループでまわらせるつもりなのだろうか。まあいいや。いつもの要領で適当に説明すればよかろう。とはいっても 説明に図が 必 要かもしれないので、かつて日本でプレゼンした時に使ったチャートのうち、2枚くらいをカラーでプリントアウトして持って行った。そういえばUISTの時 も、ソファーの上にねっころがっている写真をプリントアウトしていって結構助かったっけなあ。

などと考えていたのだが、説明を聞けば 正解は以下の 通りである。プロジェクタを使いたいと言った人間を3名集めて、小部屋を一つ割り当てる。そこでもって15分ずつ説明しろというのだ。デモの時間は2時間 なので、機材取り替えの時間をいれても2ラウンドできるでしょ、とか言っている。うぎゃあ。ということは15分のプレゼンを2日で4回やらねばならぬでは ないか。

このJavaDiaryを事細かに読み、しかもその内容を心にとめてくれている人がいたとすれば、私がプレゼンをする際に、 異常なほど練 習をするということがわかっているかもしれない。しかし今日はろくに準備していないプレゼンを英語でやらねばならない。同じ部屋でプレゼンをや る二人はオーストラリア人らしい。ここまでくるのに丸一日かかったけど、オーストラリア人にはつきものさ。なれたよ、とか言っている。気がよ さそうなおにいちゃんたちなのはありがたいが、とにかくしゃべる内容をなんとかしなくては。

というわけであわくって部屋に戻る。 WISS2004、2006で使ったプレゼンテーションのファイルを持ってきていたのは幸運だった。えっとえーっととあれこれ作り出す。唯一の救いは

「Max 15分。10分だともっといいわ」

と 言ったしきりのお姉さんの言葉である。どちらにしても私はそんなに長い間英語でしゃべることはできないのだ。デモというか、「一番自分に都合よくいった 例」だけは日本でちゃんと見つけておいたので、それを見せながらしゃべればまあ数分は持つだろう。一通りできあがると、ぶつぶつ英語で言ってみる。おそら くものすごい英語をしゃべっているのだろうが、とりあえず図と動くプログラムがあればなんとかなるだろう。丁度時間となったので下に降りる。

す る とこじんまりとした会場にそれなりに人が座っている。挨拶を始めたのはこのカンファレンスの創始者の一人であろう。この人の名前は文献で何度かみかけたこ とがあったが、実物はにこにこと愛想の良さそうなおじさんである。しかし頭の鋭さはそのしゃべりに現れる。どのようにこのカンファレンスをすることになっ たか、から今回開催するにあたって、スポンサーになってくれた企業への謝辞、委員への謝辞などが続くのだが実に分かりやすい。英語で聞いているので、 少しわけのわからないことを言われるとお手上げなのだが、時差ぼけの頭にすっと話が入ってくる。次に誰かが挨拶したのだが、この人の言葉は9割方 頭をくぐり抜ける。

といったところでまず「基調講演その一」が行われる。しゃべるのはMITの教授で

「みんな幼稚園での教育 はうまくいっているというが、それ以上の年の子供に対する教育は直す必要があると言う。であれば、幼稚園での教え方をもっと年上の子供にも適用してはどう か」

という出だしでもって快調に話を始める。この男の話も実にわかりやすかった(結構な早口でしゃべっているのだが)いくつかの国際 会議で経験したことだが、仮に発表が「いかがなものか」であっても、基調講演には聞く価値があるものが多い、とこの時点までは思っていた。

し ばし休憩の後に最初の発表である。アジア人の男女がプレゼンをするのだが、「まず最初にこの機会を与えてくれたことを感謝します」とか長々やり出す。それ を聞いて私はいやな予感にとらわれる。だいたい前置きが長いプレゼンに、ろくな物はないのだ。そのうちその予感が的中したことをしる。一生懸命聞き取ろう とするのだ が、何を言っているのかさっぱりわからない。その次もなんだかよくわからない。これはいかがなものか、とか考えているうち何番目かにでてきたトルコ人の教 授のプレゼンは恐ろしかった。プレゼン資 料には字がとにかくベタで並んでいる。字が小さいとか多すぎるとかそういう問題ではなく、改行すらない文字の列が画面いっぱいにならんでおり、どうやらそ れをそのまま読んでいる気がする。話の内容自体はあるいは面白いことなのかもしれないが、こんな恐ろしいプレゼン資料は初めて観た。いったい何をどうした らこういうことをやろうという気になるのだ。

などと内心憤怒の炎を燃やしていたが、そんなことを言っている場合ではないこと に気がつく。このセッションが終われば私の出番ではないか。小さな部屋とはいえ聞いてくれた人が私に対して

「いったい何をどうしたら (以下略)」

と 思うかもしれん。というわけでプレゼンの構成を考え直す。デモを「普通の使い方」と「変わった使い方」の2回やろうかと思っていたが、一回にする。「つま らないならせめて短くしろ」とは私がダメ映画を観る時にいつも感じることだ。どうせダメプレゼンなら短くしたいではないか。

と いったところで午前のセッションが終わる。私は荷物を持ちまっすぐデモの部屋に向かう。他の二人は音楽系のデモらしくなにやら機材が机の上にならんでい る。その隙間に私のPCをおかせてもらう。デモは12時からだが、時間になったからといってすぐに人がはいるわけでもない。ちょろっと覗いてそのまま帰っ ていく人も多い。しかし何人か人が座る。もう少しまてば人が来るかもしれない、という思いと既に座っている人を待たせてはいけない、という思いが交錯す る。後者が前者に打ち勝ったところで

Hi, My name is Goro Otsubo.

とプレゼンを始め る。午前中のセッションで しゃべっている途中にやたら"OK"を入れる人がいた。どうやらそのプレゼンを聞いているうちにこちらにも伝染してしまったらしい。スライドが切り替わる ところでやたらとOKと言う。自分で言っていても耳障りだと思うが、なんせ緊張しつつしゃべっているからとまらない。とかなんとかやっているうち無事プレ ゼンは終わった。質問がいくつかあったと思う。これはFireFoxのプラグインかなにかにしてはどうか、と言われる。なるほど。確かに最近だとそういう 事も考えられるわけだな。ろくに考えもせず乗りで

「それはいい考えだね。そのことをちょっと考えてみよう」

とか 返答をする。

とい うわけでめでたく最初のプレゼンは終了。できにあまり満足もしていないし、達成感もないが、とりあえず一回は終わった。というわけで他の人間がプレゼンし ている間lunch boxをとりに行く。WWDCでもさんざん食べさせられたが、正体のよくわからないサンドイッチ、ポテトチップスの袋、それになんとかがはいっている。胃 がひっくり返ったままだからあまり食欲がない。コーラを飲み、サンドイッチを半分だけかじる。

3人目が終わると私の番である。しかし 人がいない。デモルームを覗いてみるとあまり人がいない。皆暇そうにしている。そもそもポスターの前に誰もいないところも多い。それどころか 論文集をみて「これはおもしろそう」と思ったのだが、ポスターが見つからなかった物があるように思う。

とかなんとかやっているうちに二人座ってくれる。さて問題です。もっと待ちましょうか、それともこの二人を待たせては悪いから始め てしまいましょうか。しばらく逡巡したの ちMy name is ,,とプレゼンを始める。相手が二人しかいないと向こうだって緊張して聞かざるを得まい。途中で気がついたのだが、相手がたとえ二人だろうとちゃんとこち らの話を聞いてくれている限りにおいて何の問題もないように思う。かえって気軽にしゃべれるだけ快調にも感じる。というわけで結構ご機嫌のうちにプレゼン を終え る。考えてみればポスター発表ってこうやって少人数にちょこ ちょこ説明するものだったよな。

というわけで一日目はご機嫌のうちにおしまいとなる。さて、あと2回プレゼンだ。まだ気を抜くわけに はいかない。 午後はちょっと会議を抜け出して、地下鉄に乗る。そこでどこに行ったかは別の文章に書くことにしよう。最後のセッションには戻ってきてちゃんと話を聞く。 夕方はこれまたただ飯が食べられるのだが、量と質を問うてはいけない。半分終わった開放感でぐっすり眠れる、とはもちろんならない。例によって夜中に目が 覚めあれこれする。


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注釈