題名:帰宅

五郎の入り口に戻る

日付:2002/10/4


満月の夜に満面の笑みを浮かべ満々たる自信をただよわせながら満場の聴衆に向かい満足げに語り始める。満(ミツル)・花形は満点の打者であったと。をを、最後の等なかなかではないか。

などと満足に動かない頭で満ずくしの文を組み立てはみたがどうやらここらへんが限界のようだ。眠いよう。帰りたいよう。お腹がすいたよう。

(てくてく)

もうできた?おじさんおうちに帰っていい?何これ。全然できてないじゃない。君がつくったものに判子を押さないうちはおじさん帰れないんだからね。急いでね。

(てくてく)

励ましとも呪いともつかない言葉をかけるとしばらく自分の仕事を片づけようとするが全然進まない(今日中に終える必要などちっともないのだ)そうさ、義理立てして他人と一緒に残業することなどないのさ。次の瞬間あわてて自分を叱りつける。いかんいかん。なんという危険な事を。生きるも一緒、死ぬも一緒。自分の仕事が終われば他人を手伝え。それも終われば上司がお帰りになるまでは待機。日本の企業に付き物の精神は時代を超え世代をまたぎ受け継がれていくのだ。日本残業推進団。子供だましとも思えるこんな団体名がすらすらと頭に浮かぶのはその存在を半ば信じているからに他ならない。

いかん。こんな事を考えてると余計に疲れる。何か別の事を、、、しかしなあ、なんでこんなに時間がかかるかなあ。ほれほれ、っぽいでできるような事じゃないか。困ったものだなあ、全くいつもいつも。このまえだって、、(以前彼が「ほれほれ、っぽい」と作って来た資料を突っ返した事をはすでに頭の中にはない)


ああ、暇だ。また満で始まる文章でも考えてみようかな。マン マン トーマス・マン トーマス・マンって誰だっけ。あれ、何をしてたんだっけ。満といえば満月。満月と言えば

「この世をば我が世とぞ思ふ 望月の欠けたることのなしと思へば」

誰の歌だっけ。道長とか言ったか。時がたてば満ち欠けする月も満月の時は確かに丸い。というかそれが定義。してみれば言わんとするところはこの世は定義によって自分のものということか。それが望みか道長。この世が自分のものだとうれしいのか。自分を見つめ直せ。自分をもっと大切にするんだ。さあいっしょにあの満月に向かって走ろう。あはははっはっ。


あ?おじさん笑ってた?いやいやちょっと考え事を。何?できたって?よしよしちょっと見せてごらん。ほうほう。あれ?これだけ?続きは?

何「すすき」って。「続き」だよ、「続き」。どこをどう聞き違えたらそんなベタなボケがかませるの。おじさん疲れて心が狭くなってるし、おまけに結構根に持つタイプだからね。


立ち止まった瞬間そんな光景が頭に浮かぶ(イメージは一瞬のうちに現れそして消える)あれからもう一月。わーわーいいながら一緒に働いていた彼も自分の夢を見つけて旅立ってしまった。あの天然ボケを確かに覚えてはいるがもう新作を耳にすることもない。新しい職場でも仲良く元気にやっているかな。

気候は暑すぎず寒すぎず、家への歩みを少しゆるめ空を見上げる余裕もある。薄暗い空に光る月はやっぱり丸かった

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注釈

「こっそり月見雑文祭」参加作品である。縛りは以下の通り。

1. 始まり:満月の夜に
2. 文中に『すすき』『うさぎ』『団子』をいれること。(言葉の前に何をつけても可)

3.(おきかげ&けいさん提案)掛詞又は(文中に)月見に関した語の同音異義語を入れること。
例:「月=尽き=憑き」など
4. 締め:やっぱり丸かった。

とても苦労しました。かけないのだもの。なぜだろう、と考えて感想掲示板におきかげ&けいさんが書いていた言葉を見つけた。をを、かけなかったのはこのせいであったか。

「今回の雑文祭のお題はテーマとあわせて、あまりにまとまっていて、逆に工夫の余地がない気もしました。」

もちろんこれは言い訳である。もしお題に「戦艦ポチョムキン」が入っていたとしてもきっと私は書くのに苦労したに違いないのだ。

しかし某月某日某所で

「夏休みの宿題と一緒で、内容云々よりもとにかく提出することに意義がある」

と断言してしまったからにはひたすら書くのである。提出するのである。