映画評

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セプテンバー5:September 5(2025/2/23)

今日の一言:凄まじい緊張感

ミュンヘンオリンピックが開催された時、私は9歳だった。日本のバレーボール男子が金メダルをとり日本中が湧き立った。そして何か事件が起こったことも。

この映画が描くのは、その「何か事件」。世界初の衛星中継による生放送を実現したABCの現地スタッフ。長い1日が終わり、交代しようとしていた時銃声が聞こえる。何が起こっている?そこからスタッフたちの現実との戦いが始まる。

この映画には余分な要素が一切ない。政治t系にどちらに肩入れするとかそんな要素が入り込む隙間はない。時刻に追い立てられ、情報不足の中決断を下し行動しなければならない。その判断が誤りでも進まなければならない。そうした人間達の姿が凄まじい緊張感とともに描かれる。結果を知っている私たちであれば、偽りの安堵がもたらされた時に悲しみを感じる。

そして映画が終わって周りが明るくなると、自分の表情が主人公の最後の表情と同じになっていることに気が付く。思わず前のめりになって画面に釘付けになったのはUnited 93以来だ。


ルックバック(2024/7/6)

今日の一言(1回目):書かないと死んじゃうからだよ!

今日の一言(2回目):こんなんじゃだめだ!(気分的に描きかけの原稿を破り捨てながら)

いや、私は絵や漫画は描けない。売れない本を書き続けているのはなぜか?映画の最後のセリフに対する答えがこれ。

劇場内が明るくなり、観客が出口に向かう。還暦男が鼻をすすっているのは恥ずかしいと思う。しかし周りからも鼻を啜る音が聞こえてきたから少し安心した。

原作はおそらく最初の数pしか読んでいない。そしてそれは幸運だった。自分は漫画が上手と思っている少女と、彼女を先生と呼ぶ不登校の少女。あるきっかけからこの二人は一緒に漫画を描くようになる。そうした姿が一秒の隙もなく描かれる。しかしこの映像の美しさはどうしたことだろう。私はアニメの制作方法は全く知らないが、画面に釘付けになる。この映画を見た後だと、背景に3Dモデルを使うのは「手抜き」なのではないかとすら思えてくる。

途中まで平和なストーリーだが私は警戒を続ける。原作の作者は漫画の悪魔こと藤本タツキだ。回転寿司にアレを回すような男だ。絶対平穏にすむはずがない。

すると突然それは起こる。背景音と思っていたものが急に意味を持ち出す。瞬間が凍りつく。そして直面する現実。

once upon a time in Holloywoodのように、La La Landのようにそんなことがあったらよかったのにと思っても現実は動かない。そこに持ち込まれた場面をどのように見るか。藤野が雪道を歩く後ろ姿は「覚悟」を決めた人間のそれだ。

そして映画は冒頭のセリフで幕を閉じる。よし。書ける限りは書いてやる。書かないと死んじゃうから

2回目の鑑賞後に

「こんなじゃだめだ!(気持ち的に書きかけの原稿を破りながら)」と頭の中で何度も言った。デジタルデータなので破り捨てはしない。しかしそろそろ完成かなと思っていた本のダメさをつきつけられた。

これまで書いた本の多くがそうだったように、いくら考えて書いたところでほとんど誰も読んでくれないことはわかっている。しかし私は書いている。

この映画を見たものとして、中学生に負けないくらい書きたいと思うのだ。

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注釈