題名:❤︎の歌

五郎の入り口に戻る
日付:2022/2/20


2022/1/26

朝起きて1時間ほど外を歩く。コロナによるリモートワーク生活が始まってからの習慣。家に帰ると朝ごはんを作る。仕事は6時から始めるが、家族が起きるのは-正確に言えば起こすのは-6時半。実際に家族が動き始めるのはそれから15分以上後のこと。

家族がご飯をたべ、学校や職場に出かけていく。息子は大学受験直前なので家で勉強している。私は

「お父さんはちょっと会社に行ってくる」

と言って家を出る。向かうのは通勤で使う最寄り駅とは反対の方向。

毎日Apple Watchで消費カロリーを計測している。自分が太り過ぎと思った時から一日の目標カロリーを1000kcalに設定した。この値を達成しようと思えば朝の運動だけでは足りない。おまけに貧乏なので電車代を払いたくもない。というわけで寒空の下てくてくと歩き続ける。思えば先週の金曜日も同じ道を通ったな。

1月21日。「8時に薬を服用しろ」と指示されていた。窓口に来いと言われた時間は8時25分。普通に考えれば家で薬を服用し地下鉄で行けば問題ない。しかし私は歩く。だから病院まで歩く途中、8時になったところで路上で薬を飲む。そのためにペットボトルに入れた水まで用意していたのだ。首尾よく薬を服用し、さあこれで準備万態。

診察券を機械に放り込むと今日1日のスケジュールと行き先が印字される。最初は心臓エコー。今まで腹部のエコーは何度もやったことがあるが心臓エコーというのは初めて。言われるまま横になったり仰向けになったりする。横目でちらちら画面をみるが腹部エコーと同じでうにょんうにょんした映像が映し出されているだけでなんのことかさっぱりわからない。検査している方は時々ボタンを押している。見る人がみればこの映像から何かを読み取れるのだろう。

それが終わるとCT。狭い部屋で着替える。着替えは終わったがここからどうすればいいのか。検査室と思しき部屋へのドアはロックされており開かない。このままいつまでこの部屋にいるのかと不安に陥っていると、外から名前を呼ばれた。

部屋に入るとベッドに丸い巨大なものがついている。そこに横になる。造影剤を入れると体がかーっと熱くなりますと今日の予約をとるときに言われた。同じ言葉を検査技師の女性が繰り返す。腕に針がさされる。まだ熱くならないな。

そのうち別の検査技師の方が来てあれこれ説明してくれる。私が合図したら息をすって止めてください、練習してみましょう。はい息をすってー。そのまま止めてください。。。。。。。。。(そろそろ苦しいんですけど)

と思ったところで「吐いていいですよ」と言われる。検査で息を止めるのは慣れているが、これほど長く止めなければならんのか。不安になったところで検査技師の方が部屋から出て検査本番。何度か言われるまま息を止めるが、練習の時のように長く止めることはない。そのうち体が熱くなってきた。熱い領域が胸からだんだん広がって行く。これは面白い。血液が全身を流れるのが実感できる。熱は足まで広がり、そして消えた。うーん。残念。少し肌寒いこともあり、あの熱が名残惜しい。

といったところで検査は終了。着替えて帰っていいよと言われる。精算機に診察券を入れると窓口に行けと言われる。窓口に診察券を出すと金額を言われる。その額に内心仰天するが

「いや、心臓が吹っ飛んだらこんなものではすまないぞ」

と自分に言い聞かせ笑顔でお金を払う。てくてく歩いて帰り仕事に戻る。リモートワーク万歳。


というのが先週の金曜日に起こったこと。今日はその結果を聞きに行く。だから薬を飲む必要もない。きっと

「ちょっと気になる点はありますが、しばらく様子をみましょう」

とでも言われるのだ。その一方で

「そんな楽観的なことを考えているときっと裏切られるぞ」

とも考える。

受付に行くと部屋の番号を指定され、その前で座っていてくださいとのこと。ぼんやり座るがあまり油断するわけにもいかない。20分くらいおきに人が入れ替わり、表示された番号が変わる。自分の番号が表示されたら入らなければならない。さあ次が自分の番号だと思っていると、急ぎの診察らしい男性が一人はいる。しばらくして自分の番号が表示される。

ノックをして部屋にはいる。最初にこの病院を訪れた時応対してくれた先生が座っている。最初に彼女が発した「今日は」という言葉で事態はあまり好ましくないことを知る。

先生はCT画像を見ながら説明をする。心臓に血液を供給している血管が2本あります。右側は綺麗なのですが、左側のここがつまりかかっています。おそらくはコレステロールとかが溜まっていると思います。もし血栓ができてここがつまると心筋梗塞になってしまいます。私は「はあ」「はあ」と言いながら聞き続ける。

というわけで入院してカテーテル検査をします。「はあ」なるほど、入院か。それは一体いつ行われるのか?最初にここに来たのが十二月で検査をしたのが先週の金曜日の1月21日。だから1ヶ月くらい間が空くのだろうか。全く意味はないが、少し心の準備をする時間が欲しい。先生がPC上でスケジュールを確認し始めるので、私もパソコンをとりだし会社のスケジュールを確認する。すると

「二月一日とか一月三十一日とかどうですか」

と言われる。来週ではないか。そんなに早いのかとびっくりしながら確認する。ちょうど会社の予定が空いている。「私は大丈夫です」と言うと、では検査自体は二泊三日、もしすぐ処置することになれば3泊になります。もっとも一旦帰っていただきカンファレンスをしてまた2泊くらいですかね、と相手はこちらに口を挟む隙を与えず喋り続ける。

今の時期なので、入院する方にはPCR検査をお願いしています。その後入院説明を受けて下さい。私は「はあ」と言ってその場を去る。自分がどんな顔をしていたか見てみたいものだ。ちなみにこの先生は私と一切視線を合わせない。私はその理由を勝手に推測する。この先生は男性でも女性でも思わず見入るほどのものすごい美人。かくして患者に散々顔を魅入られ、結果として視線を合わせたくなくなったのではなかろうか。

などと呑気なことを考えている場合ではない。「入院」するのだ。「様子をみましょう」と言われ無罪放免になるものと決めてかかっていた私はまだ現実を受け止められない。半ば唖然としながら指示されたとおり受付の前にぼんやり座る。ここは循環器科と精神科の受付エリア。そうか、精神科にきている人もここに座っているのだな。

私には看護師と事務員、それに医者の区別がよくつかないが、その中の誰かが来てこれからやることを説明してくれる。礼をいって立ち上がる。まずはPCR検査。

先ほどの受付近くにパイプ椅子が並んでいることには前から気がついていた。そこがPCR検査を待つ人の場所らしい。行ってみると私の前に一人座っている。しかしその人はただ椅子として使っていただけらしく、しばしの後どこかへ立ち去る。看護師が声をかけてくれ、部屋に案内される。

仰々しく透明なビニールに覆われた場所がありその中に座れと言われる。マスク外さないと検査できないよねとマスクを外すと

「外さなくていいです。鼻だけ出してください」

と言われる。さっきまで隣にいた看護師の人はビニールの向こうに行き、手袋ごしにあれこれやっている。さきまで同じ空間にいたというのにこの隔離措置に何の意味があるのか。そんなことを考えながらぼんやり座っているとこちらに顔を寄せろと言われる。ニュースなどで何度も見た長い棒が目の前にある。奥までいれるのでちょっと痛いですよと言われる。鼻に長いものを入れられるのは胃カメラ以来だなと思う。そのうち棒がぐりぐりしだす。この程度の違和感なら耐えられる。ふふ余裕だぜと思うがいつまでもぐりぐりしている。そろそろ抜いてくれませんかねえと思ったところでおしまいとなる。

次には一階に降りて入院説明。指定された場所に行くと椅子があり何人かが座っている。受付に書類を出すと座って待て、ついでに書類を記入しろと言われ。入院は初めてですか?という質問がある。実は病院に一晩泊まったことは2回あるのだが、いずれも救急車で有無を言わさず搬送だった。そして両回とも頭のてっぺんから爪先まで検査したが問題がなかった。あれを入院と呼ぶのだろうか。面倒なので、「なし」にしてしまう。

それを提出し、ぼんやり座っていると声がかかり「まず事務の説明をします」と言われる。かくかくしかじか。五人部屋なら追加料金はありませんが、四人部屋だと五千円ちょっと。個室だと2万5千円高くなりますがどうしますかと聞かれる。安いのでお願いしますと言う。1日五千円などとても払えない。一通り説明が終わると、また廊下で待てと言われる。

ぼんやりしているとまた名前を呼ばれる。今度は看護師さんが説明してくれる。時期が時期なので面会はできません。カテーテル検査が終わったら奥様に連絡が行きます。本来だと検査の間中誰かに病院で待機してもらうのですけどね、と言われる。そんな恐ろしいことを。検査の間中奥様が傍で座っており「いつまでかかるんだ」とイライラなどしている光景を想像するだけで心拍数が上昇する。今にも血栓が動脈を塞ぐのではないかという妄想に取り憑かれる。コロナで苦しんだ人には申し訳ないが、この時だけはコロナに感謝した。奥様の他にもう一人連絡先を挙げてくださいと言われる。息子の名前を告げる。彼は当日ずっと家で勉強しているはず。しかももう18。立派な成人の年齢。思えば立派になったなあ。他に興味深かったのは「入院面談時サポート 療養支援計画書」なる書類。床ずれのケアを行いますとか退院時に家庭への復帰支援を行いますとかあれこれ書いてある。二日間の検査入院でもこうしたものをちゃんと作るのだな。

などと感心している間に説明が終わり、じゃあ今日はお会計して帰ってくださいということになる。精神的にはいろいろあった日だったが会計額は400円足らずだった。少なくとも金銭的ダメージは避けられた。

帰りはおとなしく電車に乗る。行き道を歩いている時は気にも留めなかったが、結果を聞くと今にも細くなった冠動脈に血栓が詰まりそう。そういえば胸のあたりが苦しいような。とはいえこうした心配が馬鹿馬鹿しいと頭では理解している。そもそも心電図に異常があると指摘されたのは一年以上前なのだ。

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注釈