題名:❤︎の歌

五郎の入り口に戻る
日付:2022/2/20


それまで

話は二千二十年の人間ドックまで遡る。それまで心電図というのは

「はい、上半身脱いで寝てください。電極張りつけますね、ちょっと冷たいですよー(しばし時間が経過)はい終わりました」

というものだった。思い出せないほど遠い昔「左心室優勢像?」とかいうコメントがついたことを覚えているが、異常といえばそれだけ。

というわけで今日もしゃんしゃんで終わったなあとぼんやり次の検査を待つ。そこへ看護師さんが飛んでくる。

「胸が苦しかったり、痛かったりしませんか?」

私は「はぁ?」と思いながらも、特に異常はありませんがと答える。なんでも心電図が「心筋梗塞後の人の波形」だったのだそうな。いやーちょっと前にジョギングすると胸が苦しくなることがありましたが、最近はそれもなくなったのですが、と答える。

相手が納得したのかどうなのかわからないが、そのまま検査は継続された。1ヶ月後に結果が帰ってくると要検査を告げる紙が3枚入っている。血液中の肝臓関連の数値が思わしくない。心電図の異常、それに便潜血である。最後のは十年以上つきあっている大腸炎で、一年前に大腸内視鏡の検査をしてもらったが特に処置を必要とする異常はなかった。だから無視するとして問題は肝臓だ。この人間ドックだけでなく、献血をした後の検査でも数値が異常。これは何かおかしいのではないか。そう思って横浜市北部病院に行く。2番目の子供を妊娠していた妻がお世話になったところであり、あれだけ大きな病院であれば何かあっても「ここではわからないから大きな病院に行ってね」と言われることもなかろう。

血液検査をしてもらった結果は「正常値に戻っており問題ない」。酒を飲みすぎる人はこの数値が悪くなるらしいのだが、もともと酒はあまり飲まないし、コロナになってからというもの一滴も飲んでいない。先生曰く

「他にもこの数値が悪くなる原因があって、”原因不明”というものです」

とのこと。

”原因不明”じゃあしょうがない。まあ無事でよかった。そういえば心電図がどうのもあったが、あれもきっと原因不明で今は治っているのだろうと決めつける。

というわけで今年の人間ドック。完全に推定だがここはそれなりに費用がかかるクリニックではないのか。来ている人たちはカジュアルな髪型や服装をしていても「高収入」という文字が背後に煌めいている。会社の補助がでており、個人の負担はないから私はここに来ることができるが。

などと考えながらも去年と同じ要領で検査が進む。そして心電図。ふと機械の画面を見ると異常という文字が。あれあれ。

心電図の検査自体は終わったが、この後人間ドックの検査を継続していいかどうか確認しますとのことで、しばらく待たされる。それほどの異常なのか。ぼんやりしていると検査を継続する旨告げられる。

1ヶ月ほどして結果が返ってくる。今年は要検査が2枚。便潜血は無視するとしてこの心電図はちょっと気になる。というわけで会議が入らない日を選び再度横浜市北部病院に行く。平日だが、テレワークなので私が数時間いなくてもバレないだろう。家族には

「今日は珍しく出勤」

とだけ伝える。当日-2021年12月1日の日記にはこう書いてある。

・採血、心電図、その他一つ。それから2時間待たされる。

・結果は「再検査」どうも心臓に血液を供給する血管がつまっているらしい。

・1月まで大人しく暮らすか。

最初に先生と話して検査項目を決める。その後言われた通りあちこち巡る。検査が終わると再度先生と話す。

「ちょっと気になるところはありますが、このまま様子見でいいでしょう」

と言われるものと思っていたがその予想は外れる。確かに心電図が少しおかしい。造影剤をいれてCT検査しましょう。そうやって確認しておけば安心ですからと言われる。この「安心ですから」という言葉を私はずっと覚えていた。つまり「大丈夫と思うが念の為」にCT検索を行うのだと勝手に考えていたのだ。おそらく先生はこの時そうではないことがわかっていたのではないか、と今になって思うのだが。

血液の他の数値を見る限り既に血管が詰まって心臓に障害があるような状態ではないとのこと。かくして年明けの一月に検査の予定が組まれる。日記では「大人しく暮らすか」とか書いているが、この症状は一年前からでているのだから急に悪化することもなかろう、と普通の生活を続ける。

一年前にでていた症状とは何か?テレワーク生活が始まったのは2020年の三月。最初は「通勤時間がないから楽だねえ」と思っていたがどうも運動量が足りない。一日ぼんやりしてしまう。これはいけない、と朝歩くことにした。ところが歩き始めてしばらくすると時々胸が苦しくなる。当時の日記にはこんなことが書いてある。


2020年3月16日

・朝ポケモンを捕まえる。帰る頃胸が苦しくなる。肺炎かと思ったが、どうやら別のような気がする。経過観察。

2020年3月30日

・今日は胸が痛くならない。

2020年4月25日

・朝起きて46分歩く。しかし途中で胸が苦しくなり帰る。これは困った。

2020年5月8日

・80分歩く。ちょっと肌寒い。少し胸が痛くなる。


歩いてしばらくすると胸の辺りに違和感を感じる。しばらく休んだり、ゆっくり歩いたりすると痛みは消える。そうだよ、これは肺炎なんだよ、と謎の決めつけをする。しかし四月二十五日はその違和感が消えなかった。これは無視できない問題かと思ったが、五月八日の記録を最後に苦しさが消える。そうだよ。気温が低いから冷たい空気を吸って肺だか気管支が痛くなったんだ。その証拠に気温が上がったら痛みが消えたじゃないか。

ところが気のせいでも気温のせいでもなかった。2回の人間ドックと本日の診察でも異常との判定。はてはて、と思っているうち入院することになってしまった。

 前の章 | 次の章 


注釈