題名:何故英語をしゃべらざるを得なくなったか

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日付:1998/5/5


1章:最初の英会話教室まで

日本人が英語に対して抱いている感情というのは結構興味深い物がある。

かなり多くの人が「英語がしゃべれないと恥ずかしい」と思っている。よくよく考えるとこれはどうしてなのだろう?「スワヒリ語がしゃべれなくて恥ずかしい」とは思わないだろうに。

確かに英語は習ってはいるが、読み書きの訓練ばかりで、聞く、話すの練習はしていないのだから、「英語で会話ができない」のは「スワヒリ語で会話ができない」のと同じくらいあたりまえで、別に恥と思うことではないように思うのだが。

 

とはいえ私も同じく、英語に対しては強迫観念のようなものを抱いている。(所詮人間の感情など合理的なものではないのだ)「英語を勉強しなくちゃ」となんとなく思ったのは大学にはいってすぐのことだった。

大学にはいろいろなサークルがあり、、、ESSなる英語を勉強するサークルがあることを知った。かといって、いきなりESS にはいったりはしなかった。私の偏見によればESSというのはちょっと変わった感じの人の集まりだったし、何よりも「英語なんて自分で勉強する物だ」などと偉そうな理屈を唱えていたのである。あたかも「その気になったらいつでも勉強するよ」といわんばかりに。

 

ESSに入る、という過激な(これが少なくとも当時の私にとっては「過激な」方法だったのだ。)方法をとらずに「無理なく自分のペース」で虫のいい目標を達成したい、とは誰もが思うことだろう。英会話教室の宣伝文句にも「無理なく自分のペースで」という言葉は満ちあふれている、ということはこの言葉は私だけでなく多くの人にアピールする、ということだ。

思えば大学1年の時に、当時住んでいた学生アパートの掲示板に「リンガホンの教材売ります」という広告を観たとき、私は少し「無理なく自分のペースで努力」してみよう、と「その気」になったのかもしれない。

言い値は12000円で、すなおに相手に「じゃあこの値段で」と言ったら、相手は「もっと安くてもいいですよ」といって、10000円で購入することになった。そして当然のことながらこのカセットの山は最初の10分だけ聞かれて速やかに部屋の隅に転がることとなった。ろくな動機も必要性も無いのに、ほとんど聞き取れない言葉を長々と聞くなんてことが「無理」でなくてなんであろう。

 

次に遭遇したのは「映画の鑑賞券があたりました」と言われてのこのこ出ていくと、「パソコンと英語がいっしょに学べる画期的なシステム」を売り込まれる、というキャッチセールスであった。

一番最初は「レーザーディスクの画像とパソコン画面が重なる画期的なシステム」の宣伝を聞かされる。次には「どんなにパソコンなどの情報機器が発達してもFace-to-faceのコミュニケーションがいかに大切であるが」という話題にうつり、いつのまにか「英語の教材の説明」になる。そして最後には必ず「いっしょにがんばりましょう」と言って相手は手をさしのべてくる。(実は弟に来た勧誘の電話にも私が出て、只券を2枚とってきたので、彼らの手口をよく観察できたのである)

彼らは質問されるまで決してそれに「いくらかかるか」という事は言わない。効能を強調し、値段を後回しにするのはセールスの基本だろう。最初に「数十万円」と言ってしまえば誰もその後など聞くまい。

こちらが「うにゃうにゃ」言って、交渉が進まないようだと、離れて見ていた上級者が「加勢に」かけつける、という念の入りようである。あまりしつこいので黙っていたら「社会人なめるんじゃねえよ」と相手に喧嘩腰でどなられたりしたが、結局そのあやしげなシステムを購入することもなかった。

 

さてキャッチセールスは逃れた物の、なんとなく「勉強しなきゃ」という頭はあったのだろう。次に購入したのは「FEN専用ラジオ」であった。FENとはFar East Networkの略で、確か在日米軍向けのラジオ放送なのである。当時SonyがFENしか聞けないラジオを「FENしか聞かん。FENしか聞けん」というコピーと共に売り出していたので、購入してしばらく聞いてみた。。。。しかしながら「何を言っているかわからない」ものを長々と聞き続けるほど私は殊勝な心がけを持ってはいないのである。いつの間にかこのラジオも部屋の隅に転がることになった。電池を替えた覚えがないから、最初についていた電池がつきるまで聞かなかったのだろう。

 

さてそういう私も就職を前にして、またもやかかってきた「英会話の勧誘」にはなんだか知らないが乗る気になった。この電話は最初「コンピュータを学びませんか?」ということだったのだが「そんなものは必要ない」と言ったら、次には「英会話を学びませんか」ということになった。そして何故かしらないが「無料の」英語能力診断を受けて、申し込みまでしたのである。ちなみにNative speaker of Englishと話したのはこの「英語能力診断」の時が最初だったかもしれない。なんだかんだと「趣味は?旅行?どこが良かった?」と話していた覚えがある。彼女の診断結果は"He is Basic"だった。

さてこんなに簡単にOKしたのは、最初「英語の勉強だったら援助するよ」と両親が言っていた(と私が思っていた)ことによるのかもしれない。おまけに当時は愚かにも「就職すればお金がはいり、英会話くらい習える」と思っていたのである。

ところがいざ両親に「かくかくしかじか。お金援助してね」と言ったら、帰ってきたのは「自分で勉強しなさい。お金はださないよ」という答えだった。これで私は極端に及び腰になった。おまけによくよく自分の給料と(予想)必要経費を考えるとそんなに余裕がある生活になりそうにないこともわかった。

従っていったん契約したのだが、「クーリングオフ」の期間を利用してキャンセルをした。この時のキャンセルの仕方はあまりフェアであったとは言えない。セールスレディに「無料診断たって、いくらかかったと思ってるの」とさんざん文句を言われ、、、私はよれよれになった。合法的とは言ってもこちらにも道義的にはちょっと非があるのだから。

こうして私は貴重な経験を得ることになった。他人のあてにならない財布を見込んで契約するなど愚の骨頂である。それに「どんなに高くついても経験は常に安い」というではないか。

平板な学生生活の最後を飾ったのは、ヨーロッパへの卒業旅行である。最初についたのは英国であり、最初にちゃんとしゃべった言葉は

"I would like to check in"であった。

それから海峡を飛行機で渡って、、、考えてみたら他のヨーロッパの言語は一言も知らない、と泡を食う暇もなく、なんとかなることを発見した。ただなんとかなると言って英語がしゃべれることにはならないのである。現地のユースホステルで聞いた話では、全く(本当に全く)英語がしゃべれない人達でもなんとか旅行をしているそうで。

フランスに向かう列車の中で、日本のことについて研究しているとかいう女性と同じコンパートメントになって少し話した。お互いへたくそな英語が飛び交う会話であったが、当時の私にとってとても貴重な経験だったのだろう。何を話したかまでだいたい覚えている。

そしてその旅行が終わった直後(正確には飛行機が日本についてから3時間まで)は私は「これは英語を勉強しなくてはいけない。英語を勉強すれば世界中のいろいろな人とお話ができる」というまことに立派な意欲に燃えていたのである。もっともこれもその後たびたび経験したことであるが、この立派な意欲の有効期間はおよそ12時間なのである。

 

さていろいろな事があったが、結論は明白である。暇なはずの学生時代において、英語能力の向上に役立つ事を何もしなかったのである。

 

そうこうしているうちに、私は会社で働くことになった。緊張しまくって出社していたある日、"TOEIC"を受験することになった。

それまでListeningを含む英語の試験をうけたことがなかった私は、試験が終わったときによれよれであった。Reading, Writingはいいとして、Listeningはちんぷんかんぷんである。何がいやといって、訳の分からないことを長時間聞かなくてはいけないことほどいやなことはあまりたくさんない。おまけに自分に実害がなければ、目を開いたまま寝ていればいいのだが、試験となるとそうもいかない。ちんぷんかんぷんであっても、とりあえず頭と耳を動かしていなくてはならないのである。

試験が終わって、私は隣に座っている男に「全然できなかったよ」と言った。隣の男は「いや。僕もぜんぜんだ」と答えた。

その時隣に座っていたのは、実は帰国子女で、一説には日本語より英語のほうが得意、と言われている男だということを知ったのはそれから大分たってからのことである。かくの通り人の言うことを真に受けるというのは愚かなことである。

 

さて今回のTOEICの目的のひとつは、これからおこなわれる新入社員向けの英会話教室のクラス分けであった。返ってきた点数を観れば、580点である。当時の私はこれが高い点数なのか低い点数なのかわからなかった。(ちなみにくだんの男の点数は900を超えていたそうで、この点数が高いものであることくらいは当時の自分にも理解ができた)

クラス分けを観れば、一応一番難しい(はずの)クラスである。もっともこの時の教育担当が「あまりクラス分けは気にしないでください。本当に点数が高い人には、英会話教室をご遠慮願ってますし、あとのクラスはほとんど点数の差がありませんから」ということだったが。

 

さてほどなくして、私が最初に受けることになった英会話教室が始まった。

 

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注釈

英語を勉強しなくちゃ:思えば私も「英語をマスターしたい人達」(トピック一覧)の一人であったのだ。本文に戻る

 

只券を2枚:首尾良く2枚只件を手に入れたのはいいのだが、その作品はなんと「レンズマン」というアニメであり、、、結局観に行かなかった。本文に戻る

 

セールスの基本:トピック一覧)この話をある女性にしたとき、「そういえばあたしんところもそうやっていた」と言った。彼女のところはちゃんとした「ワープロ教室」だったが。本文に戻る

 

人の言うことを真に受けるというのは愚かなことである:トピック一覧)おそらくこれも私の数多い信条に加えてもいいだろう。世の中狭い物で、ある時、知り合いの女性が、大学時代に所属していたサークルに、この男も所属していたことがわかった。当時はワイン色のベストをきて、ストップウォッチなど握って時間を計っていたそうだが。本文に戻る

 

Listeningを含む英語の試験:正確に言うとこれは2度目である。高校の時に、米国から留学生が来ていた。そしてある英語の試験において、この留学生が問題文を読んで、それに答える、という問題があったのである。

私はこのときの光景をよく覚えている。まずとなりのクラスで、いきなり「爆笑」が怒ったので何かと思った。次に留学生が私たちの部屋にはいってくる。彼女が問題文を読む。一言も理解できない。読み終わって一呼吸おいて大爆笑が起こる。あまりにわからないので、笑うしかない状態なのである。そして次の教室からもしばらくして爆笑が聞こえてきたのである。本文に戻る