日付:2002/11/19
狩人村からの帰り道、カメラを持ったおじさんに呼び止められ「この先に何かあるんですか?」と聞かれた。
ええ、平家狩人村というのがあります。いや、あっち(平家の里)とは違って平家云々というよりは、狩人の生活を再現してます。行く価値があるかって?私は面白いと思いましたが万人向きかどうかはわかりません。
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あるサイト(動物園 B級スポット大好き! ARAKAWA'S HOME PAGE)の掲示板で平家狩人村というのがあり、この秋を逃すと観ることができないかもしれない-つまり閉鎖されてしまうかもしれない、ということを知った。そうと知れば行かねばなるまい。電車をはるか遠くまで乗り継ぎ、そこからさらにバスで揺られること30分。湯西川という温泉街にたどり着く。こんな遠く(と私が思う場所に)結構立派な温泉街があることに驚く。バスの中で湯西川に平家の落人が住み着いた話を聞かされた。何でも源氏に破れ追われる身となった平家の人々は狩り等をして細々と暮らしていたのだそうな。インターネットで調べるとこういう平家落人が住み着いたという場所は全国に何カ所があるようだ。彼らもその逃避行が何百年か後に貴重な観光資源として有り難がたがられるとは思いもしなかったことであろう。
翌朝、朝食をとると民宿を後にする。湯西川の説明図には狩人村がかならず端の方に書かれている。説明図の縮尺をそのまま受け取ればそう遠くでは無いのだが、きっとこれは「とりあえず一枚の図に書いてみました」というやつだろう。民宿の人によれば歩いて20分ということだが30分以上はかかった。おまけに上り坂だったし。ついたときはよれよれである。
さて、と券売り場に行ってみれば誰もいない。そのうち近くで落ち葉を掃いていた人が来てくれた。入場料は800円だが、100円割引で700円という。この100円割引が何を意味するかは知らないが安いのは嬉しいことなので素直におつりを受け取る。
はいるとまず一号館と称する建物の中に狩猟風景が再現されている。獣の剥製がうじゃうじゃ展示されており、その中に「うぐいすの巣」もあるのだが、ただの藁と区別をつけるのは大変だ。イタチってこんなに小さいのかとか感心したりもするのだが、狩人らしきマネキンの目が皆一様にうつろなのはどうしてだろう。
その頭上からは場内を説明するナレーションがエンドレスで流れる。なんでも全て手作りで再現されたジオラマなのが特徴なのだそうな。この調子でいろんな建物が続いていく。ある建物に入った途端私は腰を抜かしそうになった。
まさに解体されんとしている熊の模型があり、その周りには動物の骨がやたらとぶらさがっている。写真ではフラッシュをたいているので明るく見えているが、暗がりの中いきなりこの光景に出くわすのは心臓に良くない。
こんな調子で巡り続ける。一番高いところには、何かが祭られているが、そのうちの一つはなんとも珍妙なものだ。(大山祇の神とか言うらしいが)
いやまあしかしこんな山奥で厳しい生活を続ける狩人であれば、この神にも祈りたかったのかもしれん。村長の家は結構大きく普通の家、という感じがするが、何故か千手観音が置かれており、そこにお賽銭が投げられている。
しかしこうした展示を観ていると、なんとなく狩人生活の厳しさというものが感じられるような。この世の栄華を極め公家化していた平家の人達も、獣をとり皮をはいでめだたぬように生活していたのだろうか、などと感慨にふけっているとその隣には竪穴式の住居がある。なんでも狩人の祖先とも言える縄文人の生活を再現したのだそうな。中にはいってみて驚いた。こういう展示でいろりと言えば赤い電球がついているだけと思ったのだが、本当に炭が燃えている。
その向こうにいる人形は「普通の」服を着ている。ここは一体何時代を模した建物なのだろう。横には
「縄文時代の竪穴住居 原始古代の生活を思いよせた物を復元しハニワ土器類などが昔を偲んでいる」(原文のママ)
という説明文とともに埴輪が飾ってあったりするのだが。
その後も蚕がかざってあったり興味深い展示が続くのだが圧巻は「集古館」であろう。地方都市の「郷土歴史館」などにいくと先祖伝来のがらくたとしか思えないようなものが並べられていたりして、そのたびに「これのどこが郷土の歴史なのだ」と心の中でつっこんでいた。ここも基本はそうなのだが、先ほどから流れているナレーションに曰く
「この地域の古い物を手当たり次第に収集し展示云々」
そして実際ここには手当たり次第に収集したとしか思えないような脈絡のないものが並べられている。秘伝書(弓)とかかれたエリアには書類が残っておらず、床にくっついてしまった紙だけがいくつか存在している。時計は壁から落ち皿には水がたまっている。
入り口近くには足踏みのヤマハオルガンが展示されており、「とにかく古い物」というポリシーの徹底を伺わせる。入り口近くには哀愁に満ちた顔をしたお姉さんのマネキンとスキー道具が並んでいてここは物置小屋ではないかという錯覚さえ覚える。
そこを出ると裏手の山の方に登っていく。ミニ動物園と称されるエリアにはいろいろな動物が居る。狐はこちらをちらっとみて奥に行ってしまった。たぬきはこちらをじっと観ている。自然植物園と書かれたエリアにはその名の通り自然のままに木が生えている。
これで終わりかと思えばそうではない。入り口近くの看板で「皮の店」となっているところは「不老長寿家内安全を守る夫婦木観音他」となっており、下に「未成年の方のご入場は禁止致します」と張り紙がしてある。では中に何があるかと言えばこんなのである。
一人で歩いているからもともと無言なのだが、気分的に少し無言になって私は進む。ナレーションによれば、とある建物の中にあるものが気に入れば売ってあげますよ、とうことなのだが、そこにあるのは誰がこれを買うのだろうと首を傾げるような代物ばかりでなんだかうれしくなる。
といったところで狩人村見物はおしまい。門を出るときおじさんが「ありがとうございましたー」と声をかけてくれた。
湯西川の中心に戻ると、今度はもっと大規模に晴れやかに展示されている平家の里を見物する。広い敷地の中にかやぶき屋根の建物が並ぶのはいいのだが、中には綺麗なおべべをきた姫様のマネキンやらがあり、とにかく壮麗である。これでは全然落人の里ではないではないか。公家化した平家にちなんだものか鹿おどしが「かっこん」と立てる音を聞いていると私の頭の中には妄想が広がる。
(源氏の追っ手)「貴様ら、平家の者ではないのか」
(狩人に身をやつした平家の残党)「何をおっしゃいますやら。私どもはただの狩人でごぜえますだ。」
そこにひびく鹿おどしの音。なぜ狩人がこんなものを。さては貴様ら。かくして正体のばれた平家の残党は皆殺しにされるのであった。うっぎゃあ。
ある建物では湯西川で毎年行われる平家なんとかのビデオが流され、村長が鎧を着てえいえいおー、などと言っている。こういう行事も観光振興の為には重要なのだろうが、ここまで落ち延びてきた平家の生活について考えさせてくれるのは狩人村の方である。しかし人がたくさん入っているのはこっち。ああ、世の中とはこうしたものか。
おまけ:狩人村の風景
民宿の人によれば;付け加えて言えば「電話すれば迎えに来てくれるはずですよ」とも教えてくれた。実際狩人村のバンが女性二人を乗せて送迎しているらしき光景も目にしている。つまりもっと楽にたどり着けたはずなのだが、そこはそれ。私は変わり者なのである。本文に戻る