題名:巡り巡って

五郎の入り口に戻る

日付:2003/9/7


ユートピア加賀の郷:石川県(2003/8/13)

福井から特急電車に乗るがまたもや自由席は満席。四〇分ほどだから我慢我慢と思っているうちに加賀温泉駅に着く。ホームに降り立った瞬間からそれは見えていた。

今日の目的地ユートピア加賀の郷の大観音である。もう姿が見えているのだからこれほど心強いことはない。見えいていた方向にてくてく歩く。少し行くと看板があり更に心強くなるが上り坂にはうんざりする。そのうち大きな建物が見えてきた。

看板と建物は立派だがここは既に閉鎖されている。大観音を示す看板だけは比較的新しいように見え、観音だけが営業中であることを示している。たった一人で半ば廃墟と化した建物の間の通路を通って行く。あたりはとても静かで物音もしない。階段を上りながらふと気がつけばアゲハチョウの幼虫がもぞもぞ歩いている。蝶の幼虫が苦手な(子供の頃は平気だったのに)私は叫び声をかみ殺し先を急ぐ。

するとそのうち低いお経の声が聞こえてきた。先にチケット売り場がある。昔は入浴料込みで800円だったようだが今は「館内工事中につき」500円でいいとのこと。この「館内工事中」が何を意味するかはそのうちわかることになる。

お金を払うと先に進む。山門、二王像、本堂は大して面白くもない。左手に観音様とおぼしき像があるのだが

色がところどころはげているだけでなく親指がとれてしまっている。補修するにもお金がかかるものねえ。正面を見れば金色の大観音様と対面だ。

子供を抱いたそのお姿から子宝、安産に御利益があるというのも頷ける。そこに近づくまでにもう一つゲートがあり、回廊のようなところを進んでいく。そのうち前方からなにやら音が聞こえる。

何かと思えば建物のすぐ外に発動発電機が設置されており、そこから太い電源ケーブルが内部に引き込まれている。ううむ、これはどうしたことか。自前で発電機用意するより素直に北陸電力に電気代払った方が安いと思うのだけどな。一抹の不安と共に観音の内部にはいる。

内部は金ぴかであり、一階、二階にはなにやら仏像らしき物がうじゃうじゃ飾ってある。その先も螺旋階段で上れるようになっているのだが、壁には一枚三千円の観音パネルがびっしりと貼られている。まだすきまはあるもののその枚数は半端ではない。(観音自体でかいからね)3000円とはいえ、金をだして自分のパネルを貼ってもらう人がこれだけいるのか。

56mのところまで上れるのだが、ここ数日坂ばかり登ってきた気がしている私にとって階段はつらい。いや、これだけ苦労して一番上に行ってもあるのはろくなものではなかろう。そう思いつつ上り続ける。窓から吹き込む涼しい風が有り難い。

しばしの苦闘の後、最上部に達する。そこにいたのは布袋様3体であった。腹を出し、めでたい顔してへらへらと笑っている。思わず顔をけとばしたくなるのをぐっとこらえ、窓から見える風景の写真を一枚だけ撮ると階段を下りる。外に出ると次は三十三間堂だ。入り口のガラスが割れているが気にせず中に入る。するといきなり広い講堂のようなところに壮大なジオラマが展開されている。壁際には釈迦にちなんだ像があり、手前には仏教が発祥の地から、東へ東へと伝搬され、最終的に法隆寺にたどり着くまでの経過がジオラマで示されている。これにはなかなか感動した。しかし妙な事に気がつく。表の看板には

「全長40メートル将に世界最大のスクリーンが展開して、シンセサイザーによる荘重な音楽と、きらめく光彩の饗宴による"観音浄土"が出現いたします。」

とあるのだが、それが行われていないのは経費削減のためと理解しておこう。しかしその事実をさっぴいても場内が異様に暗いのである。

よく見ればジオラマ中に設置されたランプの多くは点灯されておらず、わずかについているランプにも臨時の配線とおぼしきものが張り巡らされている。さてはここも発動発電機からの電力にたよっているのか。

これは看板にあった写真。実際ははるかに暗い

などと考えながら端まで行くと壁をはさんで折り返し。すると今度は部屋いっぱいに千手観音が充満したエリアになる。とにかく上から下まで千手観音だらけ。反対側の壁は鏡になっており目にする物はとにかく全て千手観音である。ほえーっと阿呆のごとく感心してその場を後にする。ちなみに観音内、三十三間堂内部は撮影禁止。じゃあ外は撮影していいのだなと外からシャッターを押したら内部の鏡が写り込んじゃいました。

この広い場内でここまでに出会ったのは家族連れが一組、アベックが二組だけ。どこかに強盗が潜んでいて襲撃されても助けを求める事もできぬ。いや、行き倒れになっても誰も助けてくれぬだろう、などという妄想におそわれ始める。

いや、妄想ごときに負けてどうする、と歩き続けると次にでてくるのが世界最大と称する「大梵鐘」

とにかくきんきらきんである。ここには写っていないが、鐘は8体の羅刹天によって支えられている。ということはこの鐘は見せかけだけで鳴らないのだろう。つくための棒もあるのだが、もし棒を動かせば間違いなく壁に穴が空くだろう。

その先にもいくつか見逃しがたい小物がある。通路の行く手にこんな看板かがある。

「仏教の原点によって
自ら拓く幸福のリング(指輪)
十二支守護霊梵字があなたを加護します」

思うに梵字リングを売り込もうとしたものではないかと思う。こんなところにあるからには誰も買わなかったのだろうが、果たして一ついくらだったのだろう。その先には見た目に楽しい建物群がある。

瑠璃光殿、十二支堂、金色堂といい、中にはまたきんきらきんの何かがあったらしいが、

「只今改装中につき拝観できません」

とのこと。先ほど観音と三十三間堂に電力を供給していた発発(発動発電機の略)を思えば、電気代節約のために閉鎖しているのでは、とかんぐりたくもなる。

これで加賀寺ことユートピア加賀の郷の見物はほぼおしまい。がらんがらんの駐車場の先にはこんなものがある。

この看板が掛けられたときには今日見ていた施設がフル稼働した上にいろいろな展示があったことが見て取れる。ちなみに遊園地は裏手にあったが2年ほど前に閉鎖したとのこと。券売り場の近くを通ったとき

「26枚。子供一枚」

と売り場の女性が答えていた。もしかして今日の入場人数だろうか。みんなが結構暇をもてあますお盆でこの人のいり。とあるサイトによれば、この観音様は落雷の被害に悩まされていたとのこと。今度強烈なのが来たらはたして修理はしてもらえるのだろうか。

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注釈