題名:HappyDays-53章

五郎の入り口に戻る

 

日付:1998/6/13


53章:大正生命初顔会わせ:最後の審判

 

その日、私は適当に休養をとって名古屋駅のななちゃん人形前にむかった。

久しぶりの夕立が上がるのを待っていたら出発は遅れた。なぜ傘を持って早めにでなかったか?だいたい私は傘をもって歩くのは嫌いだし、夕立だからすぐやむだろうという観測からである。-そしてその予測は正しかった。

名古屋駅に向かいながら(今日は美人の子とよく会うな)と思った。たとえば最初のバスで乗り合わせた女の子はたぶん高校生位だろうが、とてもきれいだった。。。。そして私は(この事実はこれからの合コンに対してなにかを示唆するものだろうか?)などと迷信じみたことを考えていた。

待ち合わせ場所であるナナちゃん人形下に来てみるとまだ誰もいない。COWは最初から遅れると連絡をうけていたので気にしないが、ほかの連中はどうしてしまったのだろう?不安にとらわれながら立っていると、つてである大正生命が見つかった。

彼女に会うのは3度目のはずだ。しかしながら前の2回はどうかしていたのかもしれない。。そんなに酔ってはいなかったはずだが。。。と多少いやな予感にとらわれ始めた。しかしそんなことは考えてもしょうがないし、彼女が電話で話した限りでは話しやすい相手であることも間違いない。したがって「あとのメンツはどうしたんでしょうね」とにこやかに談笑を続けていたのである。

そのうち彼女が別の方を見て手を振り始めた。私は彼女の視線の先を見たときに、一つの可能性が失われたことを知った。いわゆる普通の女の子である。容貌は標準だろう。しかしながら彼女はあまりに「普通の女の子」すぎる。

しかしながらあと一人未知の相手がいる限りにはまだ希望が残ることになる。

二人目の、後に「沈黙」と呼ばれるようになる女性と適当に挨拶した。ほどなくTRちゃんが到着した。彼は律儀なので遅刻するかと心配だったらしいが時間前に到着した。

彼と談笑しながら私は半分上の空だった。あと一人。。あと一人。。。それがもし外れれば。。。それでも私は幹事だ。文句をいうことはできない。。。しかしもし外れだったら今日野球の試合後に疲れた体で来てくれるTRとCOWになんと言えばいいのだろう。。。。

 

10分ほど待った後に、最後の女性が現れた。私はさりげなく後ろをむいて崩れ落ちそうになる体を支えるのに必死だった。

数分のショックがあった後に自分に言い聞かせた。まだ彼女達とは何も話していない。ぱっと見だけで判断するのは理性的な態度ではない。。。。そうに違いない。。。。

 

「では」ということで、5人で宴会場に向かい始めた。私は途中で握り拳をにぎって自分に気合いを入れた。TRが「大坪さん気合いがはいってますね」と言った。私は「こうやって気合いをいれないと自分が崩れてしまいそうだ」と言った。彼は笑った。

宴会場所での配置は以下のようだった。これは単に男女互い違いを心がけただけである。

最後にきた女の子が「声優」である。なぜ「声優」か?彼女の声がとてもかわいいからである。しゃべり方はちょっと「かわいい」を通り越して「首をしめても許されるかもしれない」だったが。ちなみにCOWの彼女に対する評価は「城之内早苗×2in one person」であった。

さて崩れ落ちる内面とはうらはらに幹事である私はとにかく場を盛り上げる必要があるのである。おきまりの自己紹介から、これまたおきまりの最初のイントロの会話などをが進んでいった。

声優と大正生命は文字通り大正生命勤務なので、保険の裏表などについて話が弾んでいる間はよかった。もっとも「沈黙」はこの1次会を通じて5声くらいしかしゃべっていないが。「沈黙」にあまり沈黙されてもこまるので、なんとか話題がふれないかな?と考えているうちに話題は変な方向に進みだした。

 

話題は活発になった。ただし大正生命と声優の間だけである。彼女たちは自分達の会社に関する話題を延々としゃべっていた。主な内容は「不満」である。そういう話を聞かされてほかの人間がどう考えるかなどいっさいお構いなしといった風情である。そのうち声優が「サービス残業が多い」と文句を言いだした。彼女の主張は以下の通りである。

「ひどいときなんか7時まではたらかされてさ。残業手当もつかないのに、月に10時間もサービスではたらくのよ。もうブチ切れそう!」

”ブチきれそう”なのはとなりで彼女の不満を聞いている私とTRの神経である。こういった「自分の会社がいかに悲惨か?」を自慢しあう"My Miserable Life Contest" は日本で普通に行われることであるが、私は正直いって嫌いである。しかしながら隣で彼女の「不満」を聞いている間に「そんなんで文句いってたら世話ねーや。俺達なんてな。。。」と言い出そうと何度思ったことか。私は自分に「ここで"My Miserable Life Contest"を始めてはいけない」と言い聞かせるのに必死であった。

 

彼女たちの会社の内輪話に頭を抱えていると、前に座っている大正生命が「大坪さん。たくさん合コンにでているんだから、いろんな話を聞いているでしょう。これくらいで頭を抱えないで」と言った。たくさんの合コンにでてはいる。しかし一つの救いもなく、会社の愚痴を女の子同士でしゃべっているのに2時間つきあわされるのは生まれて初めてだ。

何度か大正生命に話をふったが、そのボールはこちらに帰らずに、なぜか声優の方に投げ換えされる。そしてまた二人の間で猛烈なキャッチボールが展開される。この状況で頭を抱える以外に何ができるというのだろう。

 

もう相当長い間我慢したからそろそろお開きの時間だろうと思って時計を見たらまだ30分時間が残っていることに気がついた。あとこの責め苦を30分聞かねばならぬのか?

私は我慢しよう。これはすべて自分がまいた種だ。合コンののむなしさに目覚めて、「もう合コンはやらない」などと断言しておきながら、「合コンやりましょう」などと人の2次会ではしゃぎまくっていた罰だ。しかしながらCOWとTRになんと申し訳をしたらいいのだろう。二人ともどちらかと言えば無理をして来てもらった相手であるというのに。。。。

 

さて最後のデザートが運ばれると間髪をいれずに「清算お願いします」と言った。カードでの清算が終わるとこれまた電撃的に「ではお開きにしましょう」と言った。2次会に行くことなど私の眼中にはなかった。しかしながらまだこれで終わったわけではないことを私は思い出していた。大正生命には女の子が多いに違いない。。などとスケベ心を出して、「2ー3回やってください」と言った相手に対して、「何度でもやります」と大声で答えていたのは誰だっけ?

とにかく店をでて「では名古屋駅」と言って有無をいわせず歩き出した。とにかく私は早く名古屋駅について解散にしてしまいたかった。しかしながら名古屋駅まであと500mと近づいたところでCOWが「これからどうするの?」と2回聞いた。この男は2次会を行うことを欲している!私には理解ができないが、しかしながら参加者の意向を無視するわけにもいかない。立ち止まって「ではどうしましょう。ご要望は」と女性に聞いた。。。

 

反応は予想通りだった。こういう場合の返答としては「なんでもいいです」というのが一番困る返事とよく言われるが、その返事すらかえってこなかった。女の子同士でいつまでもごそごそしゃべっているだけである。それでも2度目の懇願でなんとか「カラオケ」という希望を聞き出してカラオケ屋に向かった。大正生命は「うさをはらしに行くか!」と言っていた。こちらはこれでまたがっかりである。彼女たちの強烈なキャッチボールに延々つきあわされたあげく、「憂さ晴らしが必要」と言われては自分の存在価値に疑問をもってしまっても誰も非難はできないと思う。。

 

30分待ちなので、例によってゲームセンタで時間つぶしをした。中では男女は完全に分かれていた。別に話すことなどなにもない。カラオケにいって一時間歌ったが、これまた「残り時間があと何分もある」と言ったような状況だった。もっとも声優はそれなりに上手に歌ったが。一曲変わった曲を歌っていたので「なんて曲?」と聞いたら「せーらむーん」とかわいい言い方で答えた。彼女が15の女性であれば「かわいい」と思うところだろう。。。しかしながら私は自分の髪の毛が黒から茶色に、そして白く変わって行くのを感じていた。

こうした「自分の葬式に参列している状態」のなかでいろいろ考えた。この合コンに比べれば過去一年間にやった「最低」と思っていた合コンでも「大成功」に感じられる。生まれてこの方やった合コンの回数はおそらく30回を超えているだろうが、これより悲惨な合コンがあっただろうか?なかったような気もする。。。なぜこんなことになってしまったのだろう。。合コンとは不確定要素を含んだ一種の賭であることを今更のように思い出した。はずれることもあるから賭というのだよ 。。。今までに経験した大当たりの反対の例がいま目の前にある。。。。この事実こそがなにかを語っていないか?私が大学時代最後にやった合コンは大学時代でやった合コンのうち一番悲惨なものではなかったか?

 

瞑想にふけっている大坪くんの耳にインターフォンの呼び出し音がはいった。答えたCOWが「あと4分」と言った。そしてその4分間は1時間にも感じられた。

にっこり笑って立ち上がると「それでは」といって名古屋駅に向かった。彼女たちは名鉄だったのでそこでさようならだ。向かい合って、「どうもありがとうございました。。。。」と言った。人間のできていない私は、たとえ社交辞令であったとしても「また今度なにかやりましょうね」とは言えなかった。

 

男だけになって心底ほっとした。。。COWとTRにすまないと思う気持ちでいっぱいだったが、彼らは優しいので決して私を非難するような言葉は吐かなかった。こういう友達をもてると言うことは幸せなことに違いない。。。。

這々の体で寮に帰ると泥のように眠った。今日のことを忘れてしまいたいと思っても忘れるわけにいかないことはわかっている。しかしとにかく今は休養が必要なのである。

 

翌日会社でHNYに会った。金曜日はどうもありがとうというと「大坪さん、冷めてるな、と思った」と言った。あの相手にいまさら燃えろというほうが無理だ。しかしながら今となってはあれほどステイシーに徹した合コンであっても夢のように楽しかった思い出となっている。。。

 

夜には健康体操に電話をした。予約の確認というやつである。彼女はあいにく風呂にはいっていた。20分後に電話すると言って電話を切った。 数分後に電話がなった。

正直言って私は大正生命から電話がかかってくる際にはとりあえず今日は居留守を使うことに決めていたのである。なんと言われてもかまわないが、今日電話をとって話してしまったら、自分でも何を言うかわからない気がした。。。しかしこれはひょっとしたら健康体操かもしれない。。しばらく迷ったすえに電話をとった。

 

相手は大正生命だった。彼女の話はかなり丁寧にまわりくどい表現を使っていたが、「会社の愚痴だらけだったのはまずかった」ことと、「またお願いします」ということはわかった。

約束した以上は守るように努力するのが私の信条である。とりあえず「お互い要望をまとめる」ことで話をつけた。SBYには十分警告した上で参加を判断させることにしよう。。。そして彼女が今度は別な人材をつれてくることを期待しよう。。。彼女は「大坪さんにはもう決まった人がいるんじゃないですか」と何度も聞いた。もう何も答える気力もない。「さあどうでしょうね。」と答えた。

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注釈

迷信じみたこと:(トピック一覧)この迷信じみた考えは、この後「強迫観念」へと進化してしまう。本文に戻る

 

My Miserable Life Contest:(トピック一覧)米国のMTVで本当にこういう番組をやっていた。本文に戻る

 

猛烈なキャッチボール:会話はキャッチボール(トピック一覧)、というのは私の信条である。本文に戻る

 

自分の葬式に参列している状態:(トピック一覧)これは元は第2時大戦で、零戦においかけまわされているバッファローのパイロットのセリフである。確かに自分の背中の装甲板に機銃の弾丸ががんがんあたっている状況というのはうれしくないものかもしれない。本文に戻る

 

はずれることもあるから賭というのだよ :(トピック一覧)レッドストームライジング下巻(参考文献一覧)からのパクリ。この台詞は非常に便利である。実際「賭」はよく外れる。本文に戻る

 

約束した以上は守るように努力する:このリターンマッチは結局実現し、この後も大正生命とはおつきあいが続くことになる。HappyDays56章参照のこと。本文に戻る