2002年カレーの旅

日付:2002/4/1

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 夜汽車にのって | 札幌 | 


冒頭「料理はもう注文してある。+1000円で飲み放題だけどどうする」という問いかけがなされる。こういう場合鍵を握るのは女性だ。何度か飲み会をしている知り合いがいるのだが、そこに来る女性絶対に飲み放題を選択しない。結果的にはいつも高くつくのだが、彼女たちがその信念を変えることもないようだ。はたして本日の女性達や如何、と思っていると素直に飲み放題に決まった。そしてそれは大正解であり、最終的には女性達の方がたくさん飲んでいたかもしれない。

飲み物がくるまではちょっと緊張している時間である。壁際に奥からAC氏、RB氏、私。私の正面にはOG氏、隣はRM氏、TZ氏。

飲み物がきたところでかんぱーいとなった。合コンならここで自己紹介タイムにはいるところだが本日は別に合コンではないので、そうしたことは行われなかった。食べ物をつつき来ながらほれほれと話が進むと書きたいところだが、男性達は一様に箸が進まない。お腹の中には強烈な辛さを誇るカレーが詰め込まれているのだ。OG氏はさすがにカレーをものともしないようなのだが、昼飯をがっちり食べてしまったとのこと。空腹時であれば

「おお。うまそうなものが」

と思えるような料理が運ばれてきても

「またこってりとしたものが」

という声があがる。

そのうち「お仕事は何ですか」という話になり、RM氏とAC氏が同じ業界で働いている、ということが判明した。私には全く理解できないが共通の単語がいくつか左右に飛び交う。そのうち話は今話題の人、ムネオ君に移っていく。なんでもAC氏は後援会だかなんだかの受付をやったことがあるのだそうな。

そのうちいきなりAC氏が

「あっ。本当にサスペンダーしてる」という。何かと思えば彼女は私のサイトを事前に読んでいたのであった。「時計もベルトのところにつけてる」と言う。私はへらへらと笑った。だっていつもそうなんだもん。OG氏は「サスペンダーしていると肩がこりませんか」と言うがあまり気にしたこともない。過去十数年私はベルトをしたことがないのだ。

さて、実は本日の参加者は全員サイト持ちである。AC氏はオフの直前になって「自分はサイト持ちである」という事を告白したとのこと。OG氏に言わせるとそのサイトに乗っている似顔絵と実物は全く似ていないそうだ。そこから「どんなサイトを読んでいるの」という話になり、いくつかの名前が挙げられる。こういう話題になると

「私はあまり他のサイトを読んでいないのだなあ」

と実感させれる。その場で「○○というサイトね。なるほど覚えておきましょう」とかなんとか言って飲み会が終わった瞬間に忘れる、というのもいつものことなのだが。そこから各自のサイトのあり方について話がなされる。RB氏は

「ああ、こういう事が言いたいのだけど、言葉が見つからないってことありませんか」

という。私はあるある、そういうとき私は辞書に頼ります、とかなんとか言ったような気がするのだが、素面に戻った今考えると、元の言葉が思いつかなければ辞書も引きようがないではないか。思うに私はそうやって表現につまるとまよわず記述自体をすっ飛ばすか、あるいは自分の本意の方をまげてその表現をさける、というきわめていい加減な事をしているのかもしれない。OG氏が彼が好きな文章系のサイトについていくつか語る。そのサイト名は忘れたが一読すると「なんだこれは」と思うような文章をよく読むと、それがちゃんとした意図をもって書かれたものであることに気がつくという。夏に会った人たちもそうだったが、こうした話を聞くと、おもしろい文章を書く人、というのはそうした事柄についてちゃんと思いをはせているのだなあと感心する。私はと言えば、最近ようやく

「少しは考えて物を書かなければならぬのではないか」

と気づき始めたところだ。道は長い。

そのうち「KZさん。サイトを読んで思ったんですけど....モーニング娘。のファンなんですか?」

と聞く。瞬間それまで悠然と構えていた彼の目がきらっと光り、いや、結構アピールしていると思うんですけどね、と答える。彼はサイトでモーニング娘の写真を合成し不届きな写真を作っている輩に心からの怒りを表明していたのだ。たとえば私が愛するJodie Fosterのそうした写真を見たらどう思うだろうか。眉をひそめ、しかたないなあ、と思っておしまいではなかろうか。しかし彼のモーニング娘。に対する愛情はそんなものではなかった。

それから語られた彼の言葉をここに繰り返すことはしまい。しかしその印象を私の言葉をもって表せば

「モーニング娘。は彼にとって神聖不可侵の神である」

というものなのだ。彼は「モーニング娘。はそこに存在していてくれるだけでいい」と断言し、彼女たちとの会話を妄想の中で作り上げ、文字にするなど許し難いと言う。ましてや不届きな写真など論外だ。それを聞いたAC氏が、実はモーニング娘。のあるメンバーとご近所さん(あるいは上司がだったか?)と語るとKZ氏は地団駄踏んで悔しがっている。

私は彼に尋ねる。「オフレポートを書くつもりなのですが、KZさんがモーニング娘のファンだという事を書いてもいいですか」間髪入れず彼は答える。「いいです」その表情はどこか誇らしげにさえうつる。彼が言うには20台前半の男性に、モーニング娘。に対してそうした愛情を抱く人は多いとのことだが、愛情とはかくも高まるものか。

などと話しているうちに、楽しい時間はいつか過ぎ店を追い出される時間となった。では2次会どうしましょう、という会話がしばらくなされる。なんとはなしのうちに「カラオケ」ということになる。OG氏が「あまり知らない」と言うと私はてっきり曲のことかと思い「いや、私もマイナーな歌しかうたいませんよ」と言う。しかし彼の真意は「あまり店をしらない」ということだったのだ。そこでAC氏が知っている店が近くにあるという。

なかなかの込みようだから果たして入れるか、と思ったのだがフロントで聞いてみるとOKとのこと。ここでRM氏は私用があるとかで一人その場を離れることとなった。後で聞けば大学時代の同級生の送別会をやっている、と電話がはいったとのこと。そうして会の途中であっても呼んでもらえるというのはうらやましいことだ。つい先日「仕事の関係ない友達-高校時代の同級生だ-のありがたさ」を実感した身であればなおさらそう感じる。

さて、部屋にはいると最初はなにやらをオーダーする。少しの食べ物と飲み放題のコースを頼むのだが、例によって食べ物の方にはほとんど手がでない。そうしたあれこれが落ち着き、さて誰が歌う?という段になって我々は新たな問題に直面した。すなわち

「誰も歌いたがっていないのか」

という強迫観念にとらわれたのだ。もしそれが真実とすればなぜ我々はここにいるのだろう。うけけっけけと考えているうちに一番最初に曲を入れたのはRB氏だった。曲は木綿のハンカチーフ。オリジナル指向のバンドに所属し、練習は仕事が終わってから午後の10時にスタート12時終わり、という彼女は見事に歌う。それでなくてもこの曲は私のような年代の人間に涙を浮かばせるものなのだ。ああ、太田ヒロミ(漢字忘れた)はかわいかったなあ。最近もあまりかわっていないとか言うけど本当かなあ。などと考えているうちにぱちぱちと拍手をする。

こうした初対面同士のカラオケで誰もが考えることは「果たして私が歌いたい歌はどのような反応を出席者に引き起こすのであろう」という疑問だ。夏のお月見ではそんな疑問もなんのその。某氏がいきなりアニメソングを歌っていたが、無理を承知で一般論を述べればおそらくそれは例外に属する事柄ではないか。本日最年長の私と最年少のKZ氏の年齢にはおよそ2倍の開きがあるのだ。20年たてばいかなアイドルでもおじさんおばさんとなりはてるではないか。はたして我々が好む歌に共通項というのはあるのか。

そんな私の疑念を払拭したのがKZ氏がリクエストしたHighway Starである。ああ、この名曲が今日この場所で聞けるとは。私は目に涙を浮かべんばかりであった。この曲への愛情の程度をはかる方法の一つに、前奏のところでいきなり

「あーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー(果てしなく音程があがっていく)」

というのをやってしまうか否かで見分ける、というものがある。というのはたった今発明した法螺なのだが、少なくともこの場で二人は-私とOG氏だが-このうなり声をあげていた。

かくして私はこの日のカラオケが近年まれに見るほど楽しかった事を認めるのになんの躊躇もしない。いきおい「膝ドラム」にも熱がこもるという物。しかし鶏クラスの学習能力を持つ私であっても、少しは去年の夏から成長したことを密かに誇りにしているのである。あのときはあまりにばしばしと膝をたたきすぎ手のひらから出血までしてしまった。今日はそんなことはないもんね。

などとこうして改めて文章にしてみると確かに自分は楽しかったのだが果たして他の出席者はどのように感じていたのか、という疑念にとらわれる。こればかりは「皆様も楽しんでいただけましたように」と札幌スープカレーの神様にお祈りを捧げるしかない。

そういえば入るときか入った直後にKZ氏は「音域が会わないからモーニング娘。は歌わない」とかなんとか言っていた気がする。彼にしてみれば神聖な歌を苦しい音域で歌うことなど不遜もはなはだしい、ということなのやもしれぬ。などと考えながら次の曲は、と観れば「Loveマシーン」である。リクエストしたのはRB氏。「へっへっへ、けがしてやるー」とかなんとか言っている。その曲が流れている間、私は自ら合いの手を入れながらKZ氏を観察していた。

私の想像するところによれば彼はジレンマに直面していたのだと思う。このLoveマシーンという曲はモーニング娘。を彼ほど愛していない私にとっても名曲と思える。そしてRB氏はその名曲を見事に歌い上げる。それに思わず唱和したくなるのが人の気持ちというもの。しかしこの神聖な歌を歌うことが許されるのだろうか。神の名前をみだりに呼ぶことは許されるだろうか。ふと気がつけばKZ氏は小声でLove マシーンを歌っている。曲への、モーニング娘への愛。それに神聖犯さざるべき曲を歌うことの苦悩。それらがいりまじった表情は私の表現能力を超えるし、もちろん国語辞典も助けてはくれないだろう。

そんなこんなでカラオケは実に楽しくすぎていった。途中終電がなくなるとかでAC氏が別れを告げた。本来であれば、丁寧に礼を述べるべき場面なのだが、私がリクエストしたDon't wanna miss a thingがちょうど始まったところなのである。目だけで挨拶をし、私は歌い続ける。I could spend my life in this sweet ....

そのうち私とOG氏で一緒にホテルカリフォルニアを歌おう、ということになる。この曲は大変な名曲なのだが、歌うときには注意が必要だ。私にとっては

「ちょっと大変だけどでないことはない」

高音域で延々と曲が続く。最初は「なんとかならあな」と思っているが、最後にはのどが破裂しそうになる。しかし二人で歌えばそれも安心。それに歌詞が終わってもこの曲は終わらないのだ。

たらたーたーたらりーたらりらりーたらりらら(どどどん)

この曲を愛する人であれば、誰しもこの前奏および後奏を歌いたい、という願望に抗することはできないであろう。ちゃららちゃららちゃらららららちゃらら、ちゃらりちゃらりちゃらちゃーん(どんどん)というパターンが続きフェードアウトするかと思えばもう一度さびの歌がでてきた。ここを歌う人はほとんどいないのではないか、というのはOG氏の意見である。

何度目かのトイレから帰ってくると時間だという。我々はその場所を後にし、歩き出した。理論的には私のホテルまで歩いていくこともできるそうだが、なんといっても旅行者。ここは素直にタクシーにのることにする。後部座席に乗り込みホテルのカードを見せるが運転手は老眼らしく、めがねを取りだしている。その間私は見送ってくれる3人に向かって万歳やらなにやらやっている。ほどなくタクシーは動きだし、楽しい会もお開きとなった。

先ほど歩いていたときカキザキ氏曰く、北海道は天気がいきなりかわると。快晴でも翌朝には60cmの雪が降り積もっているかもしれない。暴風が吹き荒れるかもしれない。私はご機嫌の気分の中考え続ける。明日がいい日でありますように。このおだやかな天気が続きますように。

翌日私は北海道庁を見学し、「開拓の村」とかいうところに行った。一面の雪景色の中、昔の建物が復元されている。とても興味深い内容なのだろうが、いかんせん私には寒すぎる。そこを早々に引き上げると暖かい空港ビルのなかでひたすら時間をつぶす。

羽田空港に着いたのは午後11時過ぎ。空気が暖かい。こちらはもう春だ。

 

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注釈