題名:カレーの道

五郎の入り口に戻る

日付:2004/9/28

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キュアメイドカフェのチャンピョンカツカレー(2004/9/26)-味:4.5 量:4 接客:3

ふとしたことからうちのサイトにリンクが張られていることを知る。このURLは下条さんのサイト。しかもこのページは、、その昔、電子工作オタクの町だった秋葉原はいつの間にかアニメやらコスプレなんたらが増殖する魔都となりつつあるらしい。下条氏はそうした場所の探訪記を書いているのだが、そこからリンクされるとは。確かに私は最近秋葉原に出没しているがそれはあくまでも電子部品を買いあさるため。これはどうしたことだろう。

URLをたどってページを観ればそこに書いてあったのは概略以下のような内容であった。

「秋葉原にあるメイド喫茶にTVチャンピョンで勝ったことから命名された”チャンピョンカレー”なるカレーがある。家庭持ちの身で果たしてこのカレーを食べに来ることができるかな?う゛はははははははあ」(意訳)

文章を読みしばらく考える。私の座右の銘は三十六計逃げるにしかず。右の頬を打たれれば左手に一目山に逃げ出す。しかしここで挑まれているのは聖なるカレーだ。私とカレーの間にあるのは魔都秋葉原。いや、メイドの格好をした小娘達に何ほどの事ができようか。カレーの道は修羅の道、孤独の道。ここで逃げ出すことなどできようか。

9月25日は一日子守をして過ごした。プールに行き昼ご飯を食べ、晩ご飯を食べお風呂に入れる。「明日は一日ご自由に」という言葉とともに何をするのか、と問われる。私は毅然として答える。秋葉原に部品を買いに行くのだがそれとともに私はカレーを食さねばならぬ。それは何だと問われるからかくかくしかじか、と答える。そのページを見せろと言われるので見せる。その後ろ姿を見ながら私は心配になる。いや、カレーの道を孤独に歩むのだ、と言ったところで

「カレーにかこつけてメイドが観たいのでしょう。このスケベオヤジ」

と言われたら、、いやもちろんそんなことは微塵も考えていないのだけど、でも怒られたら行けないしねえ。

えー、かような事情ですがいかがなものでしょうか、と背中を丸め様子をうかがう私の事を知ってか知らずか。しばしの後こちらを向き

「別にいいのだけど、この人って幸せなのかしらね?」

と問う。

「私はその質問に答えず、ただ秋葉原の方向を"きっ"と見つめた。そして密かに気合いを入れ明日への決意を固める。」

と自分でナレーションを入れたところ、うははははと笑われる。何がおかしい、私は魔都に足を踏み入れてまでカレーと対峙し挑戦を受けようとしているのだ。いや、男の人って馬鹿なことでムキになるのね、と。その後ろでは今日一日面倒を見てやったのにこちらを向いてケケケッケケと笑っている。ええい、とにかく行くのだ。

翌朝心底あきれられたような表情に見送られながら家を出る。映画を観た後、京浜東北線にのりかたこんと揺られる。秋葉原で降りると小雨である。傘をさしたほうがよいかよくないのか微妙な線なのだが、傘をささずに歩いていると濡れるのが気になる。とことこ歩くとここ数週間で何回もかよっている(作っているうちに必要なものが増えるからだ)部品屋で目的の部品を購入する。さて、これで思い残すことはない。Cure Maid Cafe'に向かおうではないか。そしてカレーを食おうではないか。

ネットで調べた地図を思い出しながら中央通りを歩き続ける。傘を差しているから周りの風景はあまり見えない。なのに、間もなくものすごい「風圧」を周囲から感じるようになる。いつからこのエリアはこんな店ばかりになったのだ。薄いパステルカラーでかかれた少女の絵ばかりそこら中に貼ってある。ううむ。これしきのことでびびってどうする。ただ進むのだ。ただカレーを目指して。

喜楽茶というカウンターのようなところで左に折れるとガチャポン屋にはいる。なにがしかの金を入れまわすとカプセルにはいったなんとかがでてくる機械がずらっとならんでいる。そこをつっきり一番奥にあるエレベーターにたどり着く。

やがて開いた扉に乗り込むと「風圧」が最大に達したことを知る。壁一面に

「冬コミの準備はお早めに」

「萌え袋」

などと記した紙が貼ってある。意味はわからないが、そこから感じるこの圧力はなんだ。

エレベーターの扉が開くとようやく目的地到着である。待っている人が何人かいる。名前を書くとひたすら待ちモード。非常階段のようなところで少しずつ降ってくる雨にうたれる。店内は一見普通の喫茶店のように見える。客も男性だけではなく、女性同士、男女カップルなどいろいろだ。ウェイトレスの制服も白いふりふりのエプロンの下に黒い服、ということでアンナミラーズに比べればはるかに普通とも言える。それらを確認し私は少しほっとする。

しかしながら壁に掛かっている写真をよく見るとそのうちの何枚かはメイドの格好をしたリカちゃん人形であることに気がつく。そして女性同士の客の中にはウェイトレスと同じような格好をした人もいるし、格好が地味でも「夏コミ」がどうしたこうした、と私が知らない言葉を声高にしゃべっていたりする。

周囲のそうした様子に気がつくにつれ、一旦和らいだかに思えた風圧が高まっているのを感じる。客の回転はとてものろく、出ていく客はほんの少しだ。そして次々と入ってくる男達の顔つき。服装。甲高い声。雨にちょっと濡れ、風圧に耐えながら40親父は考える。私はここで何をしているのだ。そうだ。カレーだ。カレーを食べに来たのだ。カレーカレーと心の中で唱える。ふと坊主やら牧師だか神父だかが一心不乱に祈りを捧げている場面(たぶん映画か何かでみたのだろう)が脳裏に浮かぶ。狭い場所で直立不動のまま私もひたすら唱える。カレーカレー。

どれくらい立っていたのか知らぬがとうとう私の番が来た。ウェイトレスが席に案内してくれる。メニューをみれば「チャンピョンカツカレー(キャベツつき)」の文字が。やがてオーダーを取りに来た女性は

「本日のケーキは。。」

と説明しだすが私はそれをさえぎり「チャンピョンカレー」と言う。お飲み物は、と聞かれるがただ首を横に振る。この女性は一応こちらの顔をみて話してくれた。こういうウェイトレスは日本では希だからこれがメイドということなのだろうか。

オーダーしてしまうと暇である。店内をぼんやり見回すとまたもやリカちゃん人形の写真が目に入る。あれさえなければ音楽はジャズだし、落ち着いた感じなのだが、、と思っているうちにカレーが来た。

本来であればここでカレーの写真を出すべきなのだが、生憎ここは「店内撮影禁止」である。であるから私としては言葉で記述するしかない。横長の皿にカレーが盛られ、その上にキャベツととても薄く切られたトンカツが載っている。このカレーを持ってきたウェイトレスは一応こちらの顔を見ていたが反応は全く機械的だった。ロボットでももっと感情を出すと思うがこれがこの国における普通のウェイトレスなのだろう。格好とか「メイド」という言葉とは関係なく個人の資質ということでございましょうか。

ではいただきます、という事で食べ出す。まずはキャベツ。ぱくぱくと食べ終わりました。次にカツとカレーを一緒に食べる。カレーの味は特に変わったところはないが奥深い、というなかなかの力業。カツはカラッと揚げられており、細く切られているためカレーと一緒にたべるのにちょうど良い。なるほどTVでチャンピョンになるだけの事はある。そのご機嫌さは知覧亭カツカレーに近い気がするが強いて言えばちょっとカツの脂身が多いかな。

などと考えている間に食べ終わってしまった。下条氏のページでは「皿が深く結構量がある」とのことだったが、なんということはない。いつのまにか2時を回っており私が空腹だったためかもしれぬ。さて、食べ終わればもうこんな場所に用はない。カレーと対峙している時だけ私は周りの環境を忘れて居たのだが、それでも隣の席から「スターウォーズがどうの。ライトセーバーがどうの」という甲高い声が響いてきているのに気がついていた。

800円だから横濱カレーミュージアムに比べれば良心的な値段だろう。とこれだけ大変な思いをして

「実はびびって行ってないのではないか。ネットで情報だけ集め文章をでっちあげたのではないか」

と思われては悔しいので、カードをもらってきた。

スタンプカードを作りますか?と聞かれるが首を強く横に振る。場所さえ普通だったらまた来たい、と思うようなカレーだがおそらく二度と来ることはないだろう。再びものすごい風圧のエレベーターに乗ると一階まで我慢。さあ、ここから抜けだそう。扉が開くと早足で歩き出す。

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注釈