題名:私のMacintosh

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34章:マーフィーの高笑

(わけの分からない方は前章から読んでくださいな)

泡を食い寝ぼけた頭であれこれいじりまわすが状況は変わらない。そのうちなんでもなかっんだよーんとシステムが立ち上がらないかと思うのだがそんなことにもならない。認めざるを得ないのは容易ならぬ事態に陥ったという事実だ。ここしばらく

「Norton Utilities(こういう時に役立つメンテナンスツール)を買わなくちゃいけないかなあ」

と思い、値段を観ては二の足を踏んでいたのがどうやらそんなことはいっていられないようだ。しょうがない。昼休みにでも買いに行くとするか。

さて、と思って外を観るとすごい雨である。正確に言うと雨+風である。台風の何号だかやらが来ているのだ。ほっておけばそのうち止まないかなあと思ってはみたものの天気図を観ると台風ははるか西にいるのだ。ということは待てば待つほど状況は悪くなる可能性が高い。そう信じ込んだ私は意を決して出勤することにした。しかし靴はいつものではなく、雨の時しかはかないスニーカーにした。なにもこのスニーカーが防水仕様になっているわけではない。いつもはいているスニーカーには穴が開いていて雨の時にはくと水がしみてくる。こちらには少なくとも穴は開いていない。

傘を持って外に出たがその風雨の強さは予想以上である。家から100mも歩かないうちにズボンはべったり。しかし雨天用スニーカーのおかげで足の裏だけはぬれていない。それが何になると思っているうちに足裏に異様な感触を感じだした。なんだかスリッパをはいているがごとくペタペタと音がするのである。一刻も早く屋根のあるところに行きたい状況だがしばし足をとめ靴を観る。すると驚くべきことに靴の踵部分が崩壊している。地面に接触する部分は大丈夫。しかしその上にあるべきゴム層がぼろぼろになりそこら中にちらばっているではないか。幸いなことに直接足に触れる部分もなんとか形を保っているがいつまで持つかははなはだ心許ない。

今こうして冷静に状況を振り返れば容易に「家に帰って靴を履き替えろ」という結論に達するのだが、半身びしょぬれとなった私はそんなことに思い至らない。ええい、とにかく進んでしまえと前進だ。会社の最寄り駅で降りてみると雨はほとんど止んでる。そう。古の法則に従い私は一番雨の激しいときに家を出たというわけである。ズボンも靴もぬれたまま、さらには「ぺたぺた」という音を響かせながらオフィスに向かう。

会社の中を歩き回るたびにゴムがぼろぼろと崩れそこら中にちらばる。考えてみればこのスニーカー10年前に買った奴だからなあ。スニーカー製造する人間だってまさか10年も持たせるとは考えていないだろう、と設計者の立場に同情しようとはするが状況ははなはだ芳しくない。これで靴とNorton Utilitiesを買いに外出せねばなぬことになったのだが、いつも暇な私には珍しくこの日は打ち合わせがびっしりと入っていたのである。おまけにiBookは午後12時から3時の間に取りにくるというからその間は外に出るわけにいかないし、、などと考えているうち午前の会議が早く終わった。これはlucky.ではさっそく、と外にでる。

風雨は朝家を出たとき以上に激しくなってきている。台風がすぐそこにいるから当然と言えば当然だが。せっかく乾いてきたズボンもまたびしょぬれだ。おまけに靴底はあとどれくらい持ってくれるものか見当もつかない。しかし裸足になったとしても私には進む以外の選択肢はないのである。しかし靴屋ってどこにあるんだ。雨はますます激しくなってくる。うろつくことしばしようやく見つけて駆け込む。

店の壁いっぱいに並んだ靴を眺めることしばらく。とにかく水がしみないやつ、ということで「これ」とお願いする。店のおやじは雨の中を別の店舗に行って指定したサイズの物をとってきてくれる。新しい靴にその場で履き替えると「古いのは捨てて置いてください」という。半ば崩壊したその靴を観てもプロの靴やたるおやじは顔色一つかえない。それからパソコン屋に行きNortin Utilitiesを買う。べたべたにぬれてしまったがとにかくこれで目的は達したわけだ。

さて、と一息つくと考える。iBookはいつとりに来てくれるのだろう。と思っていたらうれしいことに会議中に来てくれた。これを口実に会議からそっと抜け出す。おじさんは手際よく箱詰めしてくれる。ビニールに挟んで宙づりになったような体勢でiBookは引き取られていった。しかしなあ、今や多少難はあるけどまともに使えるのはこれだけなのだけど、あなたは修理に行ってしまうというのね。よよよよ。などと泣いてみたりあれやこれやをすませて家に帰ろうと思うとやはり雨はあがっている。ここはポジティブに考えよう。またぬれなくて良かったね、と。一番雨のひどい時に2回も外にでたのだ、とは考えないことだ。

家に帰るとさっそくNorton先生の出番である。ぐいんぐいんと診断が始まるとまたあの懐かしい音が聞こえてくる。ディスクのどこかがすれているような規則的な音だ。そのうちNorton 先生は「媒体の検査」という項目でぴたっとお止まりになった。どうやら媒体自体がいかれているようだ。

ええい、しょうがない、と本来データをためておくだけに使用していたハードディスクにOS Xインストールする。Twin Power MacにつけているCD-ROMはApple純正のものではない。そのせいかどうか知らないが、CD-ROMからの起動がうまくいかない。お亡くなりになったハードディスク上のシステムが立ち上がろうとするのだ。ちゃんと立ち上がってくれれば何も文句は言わないがさてハードディスクの絵が出るぞ、というところで必ず固まってくれる。最後にはそのハードディスクの電源を切ってしまい、ようやくインストールに成功する。こうして文字にするとあっという間だがこれはとても時間を要する作業なのである。昨日iBookから移動させたばかりのデータもまた移動である。そんなことを繰り返しているとどれが最新やら、どのファイルを移動させる必要があったのか解らなくなってくる。ええい、とにかく消してしまわなければなんとかなるだろう、とハードディスクの中は出所の解らないフォルダでいっぱいになる。おっと自作プログラムの画面を小さくするのもまたやらなくちゃ、ということはまた100M以上のサイズの開発ツールをインストールして、、

などとよたよたになりながらなんとかTwin Power Macは動くようになり、出発直前までサイトを更新することができた。

「来週の水曜日(24?)まで更新をお休みします。

なぜとは聞かないでください。探さないでください。」

とサイトに書くと旅行に出発。それからまるまる一週間、私はインターネットに全く接続しない日々を送った。禁断症状がでるとかそうしたことは無かったが、帰る日が近づくにつれなんとなくとんでもないメールが山のように届いている、という妄想にさいなまれるようになる。あるいは何かおもしろいメールが届いていないかなあと考えたりする。

おうちに帰るとさっそくメールチェック。膨大な量のメールをダウンロードする途中でいきなりプログラムが停止した。ぶつぶつ言いながら再起動。狭い画面のなかであれこれ操作するのは快適ではないが文句を言っている場合ではない。幸いなことにぎょえっとなるようなメールは来ていないようだ。高望みとは言いながらゆかいなメールも来ていないようだ。

さて、翌日は会社である。一週間ぶりに机に近づいてみるとなにやら見たことのある箱が置いてある。ええっ。これはiBookだろうか。こんなに早く修理から帰ってくるわけはない。するとなにやら不備があってそのまま送り返されてきたのかあるいは「ご連絡いただいた現象は再現しませんでした」と突っ返されたのか。

どきどきして中を開けてみるとあっさり修理が終わりました。部品をあれこれ交換したらばっちりっすよーとか書いてある。修理に出したのが火曜日だがAppleからの出荷は木曜日にされたようだ。わずか二日。こんなことであればもっと早く修理にだせばよかった、、と思いながら久しぶりにiBookを立ち上げる。ハードディスクの中のデータも無事、ということは最小限のファイルだけ復元すればよかろう。をを。画面が綺麗になっている。そりゃほこりとかゴミとかひどかったもんあなと思っているうち、あることに気がついた。

最初にiBookを買うとき私は「英語キーボード」を選択した。しかし今ついているのは紛れもなく日本語キーボードなのである。単なる間違いだろうがこれからまたつっかえしたら今度こそ何週間後に帰ってくるか解らない。とりあえずちゃんと動いているようだしこれでよしとしよう。と思ったら外付けキーボードを使ったときにキートップに印字されている文字と、実際に入力される文字がずれることがわかった。まあいいや。細かい事は気にしない。

かくしてiBookは再びメインマシンの座に戻り、Twin Power Macは巨大なデータをあれこれ入れておく場所として活躍することとなった。お亡くなりになったハードディスクは別のディスクと交換。今回でこりたから大切なデータは2重に持つようにした。しかしこういう「安全のための2重手間」を惜しまないのもここしばらくのことなのだろうな。そのうち「まあいいや」とか思った瞬間またあの男はほほえむのだろう。にっこりと。 

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注釈