題名:巡り巡って

五郎の入り口に戻る

日付:2002/9/1


岩屋寺ー軍人墓地:愛知県(2002/8/14)

名古屋駅から名鉄にのって内海という駅を目指す。いつも電車に乗る際には愛用している「駅前探検倶楽部」というサイトでしらべたら異様に複雑な経路を指定されたのでびびったが、つまるところは終点まで載っていけばいいのである。考えてみれば今は海水浴シーズンでもあった。浮き袋をもったりいろいろ持った人が一緒に内海で降りる。師崎港行きのバスに乗り、十一屋というところで降りる。降りたのは私を含め3人。さて、ここからどうする。

インターネット上で探した情報では「ここから北東へ2km」としか書いていない。とはいっても南北にのびる海岸(西は海)沿いにあるバス停だから選択肢はそう多くない。北に向かうか東に向かうか。一緒におりた二人のおばさんは北に向かった。私は標識に「岩屋」と書いてあったのを信じて東に向かう。

しばらくは家があるがつぶれたと思われるカラオケ屋を最後にどちらを観ても田圃ばかりになる。どこにも岩屋寺などという看板はない。そのうちなにやら看板がでてきたと思えば別の名前の寺だ。知多半島にも44カ所なんとかがあり、その44番目だそうな。とはいっても名前が違うから関係ないのである。

そこからしばらくなんの標識もない道が続く。車は結構脇を通っていくが歩いているのは私だけである。そのうちまた寺の標識らしきものが見えてきた。今度も44シリーズのどれかだが名前は違うのである。それがすぎるとまた何の標識もなくなる。いったいどれだけ歩けばいいのか。そもそもこの道は正しいのか。2kmということは30分ほど歩くはずなのだが、そもそも自分が何時から歩き出したのか覚えていない。また寺の標識が。今度こそ、と思うがやっぱり違う寺の名前だ。

これは本格的に道を間違えたのではないか。北にいったふたりのおばさんの道が正しかったのか。いや、確かに標識にこっちが岩屋と書いてあったはずだ。それに今から戻って北に向かい直すなんてのは不可能と思える。私はすでにしてこの炎天下かなりの距離を歩いているのだ。とにかく前進。いまできることはそれだけだ。

そう思って歩いていると前方になにやら集落のようなものが見えてきた。それとともに「お寺でございます」と行った様子の屋根も。きっとあれが岩屋寺に違いない。もし違ったら泣いちゃうぞ。そう思いながらひたすら歩く。背中に背負っているデイパックのたぐいは肩にずっしりとのしかかる。いつもなら気にならない重さなのに。

集落に近づくとそれが集落と呼べるほどの立派な物ではないことに気がつく。それにあそこに見えた寺の屋根はどこにあるのだ。確か道の右側にあったはずだが、、と思ったそれは正面にあった。道の右側には

「岩屋寺駐車場」という看板が。寺の近くにある「知多半島44なんたら」というのぼりにはいじわるにも寺の名前が書いてないが、これが岩屋寺だと思って間違い有るまい。そのうち寺の名前が確認できた。確かにここは岩屋寺なのだ。

しかしこれでまだゲームオーバーではない。この寺自体が目標ではないのだ。この近くにあるはずだが、、とあるサイトでみた写真の背景にはコンクリートで固められた壁が映っていた。となるとあちらか。。

そう適当に見当をつけ、歩いていく。すると「たぬき寺」という門が見えた。屋根の上と横に狸がいる。

ここが目的とする場所に違いない。うっそうとしげった木をくぐるとなんだか普通の民家の裏庭にでてしまったような気がする。人の話し声もするが、すでにして思考能力が衰えている私は気にしない。進むとそれは確かにあった。

小さい、というのが第一印象である。しかし近寄って観るにつれ、じっと見入ってしまう。ほぼ人間の等身大のもの、台の上に載っている物、胸像でしかなく、地面の上に直接おかれたもの。種類はいろいろだが、それらは一体一体服装も顔も持っている物も異なった軍人の像であった。

ちょうど親戚のお墓参りに来ている人たちがおり、彼らの会話が聞くとはなしに耳に入ってくる。お花が添えられているのは数体の像。他はただ立っている。その顔を観ているといろいろな考えが頭に浮かぶ。この人達はみんな死んでしまったのだな。そしてこの人達に「敵」として殺された人もいたのだろうな。少しの会話の他は静かな静かな場所で蝉がなき日が照っている。彼らはもう殺したり殺されたりすることはない。

一つの像の下には何か字が掘られているがそれを確認することはできない。陸軍の人ばかりかと思えば海軍らしきセーラー服を着た人も後ろの方にいる。一人あまりしゃきっとしない姿勢で背を丸めた像がある。貧弱に見えるだけやけにリアルだ。足下に愛犬とおぼしき犬が座っているいる像がある。うちの愛犬アイちゃんだったら、こんなにきっちりと座らず、足下で丸くなって寝ている像になるだろうな。

しばらく彼らを見つめていた。そのうち歩き出す。戻ってみれば、岩屋寺から少し奥に入ったところだった。お寺の前の駄菓子屋でラムネを飲む。ラムネというのは、いつも売ってくれた人が栓を開けてくれたから開け方が分からずにとまどう。おばさんが教えてくれたとおりにやったら吹き出してしまった。

帰り道も同じ距離だし日差しの強さはそのままなのだが、どんな道か分かっているから心理的には楽である。こうなるといろんな雑念が頭にわいてくる。まもなくつぶれたカラオケ屋、それにバス停が見えてきた。あと30分はバスが来ないようだからお昼ご飯を食べる。扇風機が回るだけの食堂だが、さっきの状況に比べると天国のように涼しい。

バスに乗ると内海に戻る。さて、今度の目的地は三河三谷にある延命山大秘殿である。

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注釈