五
郎の
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探査機はやぶさ展示: 東京都 相模原市(2010/7/11)
2010年7月11日。日曜日なのに私は午前5時に目覚める。早過ぎる。それは分かっている。しかし一旦目覚めると2度寝はできない。気にかかるこ とがありすぎるのだ。PCを立ち上げ直しWindowsの画面を見る。つまり仕事をするモードにはいったということ。しばらくかちゃかちゃと やっているうち子どもが目を覚ます。PCを貸せ、と言われる。ううむ。仕事はここまでか。
朝飯を食べ”今日どうしよう”と相談する。意外にも奥様が
”はやぶさの展示をやっていないのか”
と聞く。ではさっそく調べましょうと返事をする。最近 大きなニュースになったのは、カプセルの展示らしい。これは夏休みに行われるとのこと。では今何をやっているかと調べればどうやらJaxaの施設見学と、 その近くにある博物館でプラネタリウムを見ることができるようだ。
かくかくしかじかと報告すると承認が得られる。休日の決まりごとを終えるとさっそく出発だ。初めて行く場所だからカーナビに住所を入力する。
ことこと走りだす。理由はわからないが娘がずっと泣いている。おそらく本人にも理由がわからないのではないかと思う。しかたがないからほおってお く。雨の日曜日、道は結構混んでいる。車はのろのろ進む。娘が静かになったと思ったら平和な顔をして寝ていた。息子もぐーすか寝ている。
かなりの時間が経ったあと相模原市という看板を見る。さて、もう少しだと思っていると、ちょっと変わった建物が見える。そこを曲がると目的地が見え てきた。入り口はいかめしく車ではいっていいものかどうか迷う。しかし歩道には
”見学できます”
とのぼりがでている。車で門をくぐり、右手に見える駐車場と思しきスペースに止める。事前調査では
”駐車場:若干”
となっていたのでもう空きはないだろうと覚悟していたが、まだ数台は止められそうである。車を止め寝ている子供をおこし、守衛さんのところに向か う。
4名ですか、と声をかけてくれる。そうです、と答えるとJaxaのシールを2枚くれた。
お父さん は何やらに記帳する。名前と人数、それに住所を市区まで書けばよいらしい。人数分の首にかけるものを渡され、簡単な説明を受ける。今日は食堂、生協はやっ ていないのでロケットと展示室を見てください、と言われる。そう言っている間にも人がぽつぽつやってくる。
人が戻ってくる方を逆にたどっていく。すると目の前にどーんとした建物が見える。
あまりにも立派で、この中にはいっていいものかどうか迷う。右手を見るとロケットが見える。
子供たちはこの時点でもう大喜びである。はやぶさ打ち上げたのこれ?と聞く。お父さんが説明の看板を読み”どうやらそのようだよ”と答えるがもう聞 いちゃいない。”はやぶさ はやぶさ”と連呼している。子供たちがなぜこうも”はやぶさ”と連呼するかと言えば、お父さんがしょっちゅうニコニコ動画を見 ていたからなのだよね。君たち、せっかくの機会だからちゃんとロケットを見なさい。ほれ、あの先っぽに衛星を折りたたみ、積みこんで宇宙に行ったら放り出 すのだよ、という。息子はそうかー、と感心しているが娘の方は聞いちゃいない。
というわけで先程みえた建物のほうに進む。入り口にはこんな重々しい看板がかかっている。
そうか、ここは大学でもあるのか、と感心する。本当にここでいいのか、と不安になるが中から人が出てくるから間違いなかろう。意を決して入ってみ る。そう広くもない展示室だが、結構な人出だ。
中央に大きなはやぶさの模型が展示されている。ニコニコ動画についていたコメントを信じればこれはハリボテ模型ではなく、地上で試験に使ったものを 展示用にしたものとのこと。子供たちに”これ本物?”と聞かれそう答えるが、まだ理解できるとは思えない。
展示台のところにスイッチがありイオンエンジンの噴射口にある明かりを点灯することができる。こういうところには得てして子どもが行列をつくるもの だが、そこまで混んではいない。息子はしかつめらしい顔をして何度も点灯したり消灯したりしている。
周りの展示を見る。H-IIとH-IIBの模型が並んでいる。H-1から比べるとずいぶん大きくなったなあと感慨にふける。新入社員として研修を受 けたとき、H-II シリーズの今後の発展についてちらっと聞いたような気がするが、LE-7を2台搭載するH-IIBの話まで聞いたかどうかは記憶がない。意外なことに奥様 が結構な興味をもって展示を観ている。へー、こんなに衛星って打ち上げてるんだ。21世紀になってから大気圏に突入した”おおすみ”の模型も飾ってある。 これ本物の大きさ?と聞かれるからよく説明を読めば1/2模型とのことだった。
その奥にはペンシルロケットが展示してある。こんなに小さくて宇宙に行ける の?と奥様が尋ねる。私は多分宇宙にはいっていないんじゃないかな。でも物事最初はここからだよ、と答える。あたかも自分が何か作ったかのようにしゃべっ ているが、もちろん私は何もしていない。
息子の方はパネル式のクイズとかやってご機嫌だが、娘は展示物には興味がないようだ。しかし彼女は”スタンプ押し”という楽しみを見つけて熱中して いる。そろそろプラネタリウムに行こうかと促しても”まだスタンプ押してない”と最後まで主張していたのは娘だった。
というわけで、車をだし道をはさんだところにある博物館へ。車を乗り入れると結構な台数が止まっている。こちら、と誘導されたほうに行くと、未舗装 の駐車場が広がっている。雨が降り始めたので子供と一緒に走る。入り口をくぐる。駐車場も入館も無料なのがうれしい。プラネタリウムは日に何度かやってい るようだ。時間をみれば12:30。13:30からの回のチケットを買う。子供たちは”プラネタリウムって何?”と繰り返し聴く。映画みたいなもんだ よ、と答えるがこの時点では大人もよくわかっていない。”おかえり はやぶさ”という題名がついているのだが、それが説明なのか映画のようなものなのかわ からないのだ。
ではその前にご飯を食べましょう、ということで矢印のさすまま”喫茶室”を目指す。どうやら2Fにあるようだ。中にはいると家族連れがたくさんなに やら食べている。ここは文字通りの喫茶室で、主たる目的は食べる場所を提供すること。他には飲み物、食べ物の自動販売機が置かれている。さて、どうしたも のか。
車をだしてどこかに食べにいくか、あるいはここで食べるか。残り時間を考えさんざん迷った末、ここで食べることにした。家族 は席をみつけお父さんは列に並び続ける。お金を入れてから食べ物の調理が終わるまでと短くて110秒、長いと3分くらいかかる。みんな家族連れだからひと つ買えばおしまい、というわけ ではない。ひたすら待ち続けるしかない。
ようやく自分の番がくる。私に貸せられた使命は”おにぎりを2箱、タイヤキを一箱買うこと”である。しかし後ろにはまだたくさん人がならんでいる。 とりあえずおにぎり、タイヤキを一箱ずつ購入し、おにぎりもう一箱は並び直そう。なんとなくそういう判断に至る。子供に箱を二つ渡すとお父さんはまた列に 並び直しである。
ようやく全部の食事を買い終わると席について食べることができる。タイヤキは思っていたよりおいしい。焼きおにぎりは温まり具合にむらがある。しか しそんな細かいことにこだわってはいられない。息子はなにやらしかめっつらをしているが今食べられるものはこれしかないのだ。
というわけで食事はめでたくおしまい。まだ時間があるな、と思いながらプラネタリウムのほうに歩き出す。途中にある”Museum Shop"に息子がはりつく。携帯型の顕微鏡兼望遠鏡を感心しながら覗き込んでいる。トイレにいっていた女性たちがもどると再びプラネタリウムの方へ。す ると結構な人数が並んでいることに気がつく。あわてて我々も並ぶ。
13:20になり入り口の扉があく。中にはいると今まで慣れ親しんだプラネタリウムとは違う構造であることに気がつく。私が幼少のころから通ってい たのは、機械が中央にあり周りを座席が取り囲んでいる形式だったのだが、ここは一般の映画館のように一方向に座席が向いている。投影される面は浅い半球 形で前方に置かれている。
この配置だとどこがよい席かわからない。空いている場所に座る。座席のリクライニングなど試しているうちに女性の声が響く。始まるとトイレに行きに くくなるから今のうちにどうぞ、というわけだ。まだ待っているとその女性の声が解説を始める。
生まれてこの方何度プラネタリウムというものに行ったかわからないが、女性の声で説明されるのは初めてだ。男性の声が深く脳裏に刻まれているせいも あるが、低くて落ち着いた男性の声の方が好ましい気がする。その昔JALがやっていた”ジェットストリーム”とかね。
とかなんとか私が考えている間も解説は淡々と続く。ここらへんでは地上の明かりがあるので、星空はこんなふうにしか見えません。でも高原にいくとこ んなふうになります、と星がワーッと増える。
ここで観客が”をを”とどよめきの声を上げるのがお約束なのだが、この日はそこまで星が増えたわけではない。天の川も”言われてみればそんなものが みえるような”といった見え方だ。北斗七星から始まり、南の空低くでているさそり座、そして夏の大三角形に説明は進む。七夕直後であるから織姫、彦星を説 明するのはいいが、はくちょう座のところで
”デネぶ”
と”ぶ”を強調し子供の笑いをとるのもお約束ではないか、などと考えているうち話題ははやぶさに移る。
その説明を観ているうちに複雑な思いにとらわれる。例えばはやぶさ大気圏再突入時に隣で行われたパブリックビューイングの様子が映し出される。ここ の職員が撮影したものだから権利云々はクリアということなのだろう。またカプセルが隣に持ち込まれた時の様子が映し出される。相模原市の職員がなにやら横 断幕などだし、その前でProject Managerがぎこちない笑顔を作っている。
著作権だのなんだのに配慮すればこういう映像しか作りようがない。しかし”はやぶさ”の物語に関する限り、著作権的に限りなくアウトなニコニコ 動画に存在している動画のほうが遥かに面白いし、分かりやすい。はやぶさが燃え尽きる瞬間を撮した映像では、NHKのものが一番綺麗だった。豊富な資金に ものを言わせたハイビジョンカメラは伊達ではない。しかしその映像はNHKのニュース(及び著作権的にアウトなアップロードされた動画)でしか使うことが できない。これが大人の事情というやつだが。
とかなんとか考えているうちにプラネタリウムはおしまい。子供は”おもしろかった。一ヶ月に一回はこよう”とか言っている。世の中には興味深いもの がいろいろとある。少しでもそうしたことを知ってもらえればと思っているのだが。
そこからは長い長い帰り道。道路は渋滞しているが、事故を起こさなければいつかは家に着く。途中2件も追突事故に出くわした。運転は慎重に。
おまけ:
”はやぶさ”関係の記事でこの”リポビタンD"という商品名をよく見かけるのだが、どういう由来かわからない。