五
郎の
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元旦である。明日は一日自由にすごしてよいのである。私がそう言うと、うちの母親が
”あんた、珍寺いかなくていいの?”
と言う。言われるまでもなく私は明日の予定についてあれこれ調べる。名古屋に来ているのだからこの近くで巡るのが筋という物であろう。とはいって も、まだ3が日という事実を忘れるわけにはいかない。年中無休に近いところでも年末年始はお休みである。岐阜まではるばるでかけて
”5日から営業します”
という張り紙だけみて帰ってくるのはいやである。
というわけで、小さめのスポットを二つ巡る事にする。2日の朝、ご飯をたべてのんびする。ほれほれしていると母が
”あんた、珍寺いかなくていいの?”
とプレッシャをかける。私は
”ではコーヒーを一杯いただいてからでかけます”
と答える。
母がいれてくれたコーヒーを飲み干すと、あれこれかついで外に出る。幸いなことにとても静かで暖かい日である。最寄りの駅から地下鉄に乗ると一度乗 り換え荒畑というところで降りる。ここからは歩きだ。商店の扉を覗いてみると5日から営業、3日の午後から営業という文字が目につく。しかし珍スポット巡 りの道 に年末年始は無い。巡れるときに巡るのだ。
白金というエリアにはいる。ここでiPhoneを取り出し現在位置と目的地の位置関係を確認する。もう少し南西のようだ。てくてく歩く。有限会社、 小さな株式会社の看板がいくつも目に入る。それぞれの看板の裏にはその人達しかわからない喜び、怒り、悲しみがあるのだろうなとぼんやり考える。
iPhoneの地図を何度か確認したところでこの光景にでくわす。
いや、説明されなければ”何?”と思うかもしれん。ちょっと曲面っぽいところと、とんがった何か以外何もおかしくない。私はそちらに向かって歩を進 める。消防署の分署が あることに気がつく。
その隣に第一の目的地があるのだ。まず”お尻”から写真を一枚。
白金という文字が青空をバックに光っている。そこから側面にまわっていく。
そろそろわかると思うが、この建物は犬である。正確には犬型の消防団詰所である。まずは正面に回ってみよう。
目と眉毛は体から浮き出ている。そこまではわかるのだが、その上方にもう一つうきでているのはなんなのだろう、と現地では思っていたが、下にあるの がマブタで、その上がまゆげということか。体には不届き者が落書きをしたとおぼしき後が残っている。この場所を知ったサ イトには、あさっての方向に設置された監視カメラが写っていたが、この日私は確認できなかった。口の中をみてみよう。
いや、そう書きたくなる気持ちはわかるけどね。この年になると
”もう少し面白い事書けよ”
と思ったりもする。先ほど見えていたのとは反対側に回る。となりにある消防署との間はとても狭い。
なぜビニールシートがかけてあるのだろう。
一通り写真を撮ると、あたりを見回す。
子供をつれてきていれば、しばらく遊ばせたいような公園である。公園の入り口から詰所を見返す。
最初からそういうものだ、と思えば何の違和感もないかもしれない。しかし公園と巨大犬の顔というのはなんともいえぬコンビネーションであることだな あ。
そもそもなぜここが犬なのか。謎はつきないが今は先を急ぐ。再びiPhoneの地図をみれば、元の駅に戻るより前進したほうがよさそうだ。というわ けでてくてく歩く。怠けきっていた体に適度な歩行が心地よい。歩いているうち欲がでて
”地下鉄代を節約してやろう”
と歩き続ける。途中大須というところを通る。その昔はPC関連の店が並んでいた場所だが、今や多国籍の料理屋が多いように思う。正月から結構な人出
だ。街は少しずつ、しかし確実に変化している。妙な感慨に耽りながら北に歩き続ける。栄から名鉄小牧線という電車に乗る。