五 郎の 入り口に戻る
西尾大仏を後にし次の目的地に向かう。そんなに遠い筈はないのだが、如何せん渋滞で車が動かない。日差しは容赦なく照りつけ、Tシャツ 一枚でも快適ではない。 エアコンはがんとして動こうとしない。
こういう時こそ無念無想だ。というか何かまともなことを考えようとしても気力ががわいてこない。無念無想とは違うような気がするが気に しないことにする。そのうち西尾駅が近づいてきた。地図を確認すると、目的地はそのすぐ近くだ。
何度目かの信号待ちの間に写真を撮る。道の両脇に立つ建物は新しく、何の特長もない。
そこからしばらく進み、左に曲がる。これらの「飲食店」はまだ経営しているのだろうか。
そこを右に曲がると目的地が見えてきた。
西尾劇場という名の映画館である。しかもここはまだ営業している。当初ここで映画を鑑賞しようと思っていた。しかし予想より往復に時間 がかか る。鑑賞は断念せざるをえないようだ。しかも駐車場がない。劇場の前に車を止められると思しき場所はあるのだが、駐車禁止のコーンが立っ ている。車を少し動かし、小さな神社らしきものの近くにとめる。カメラを持って外にでる。近くに猫が座っている。
遠い昔、ここは輝く映画館だったのだろうが今は人の気配がない(数分後に私は自分が間違っていた事を知ることに なるのだが)
手書きの看板も昔は普通だった。今は誰がこれを描いているのだろう。そもそもこの映画はどんなものなのか。去年の9月に公開されたらし いが、題名を聞いた事も無い。
向かって右手にはこのようなガレージがある。外から見ると窓がつぶれていて何かわからないが。
ここがチケット売り場。遠い昔ここに人が列をなして並んでいた事もあったのだろう。あるいは初めてのデートでここに来た人もいるかもし れない。学生証は、とか言われたり。少し中をのぞく。
しかし中を観られないのは残念だ、と考えているうちあることに気がつく。ここは映画館であるだけではなく、駄菓子屋でもある。であれば 「映 画はみないけど、駄菓子売ってください」もありではなかろうか。
そうに違いない。というわけで、先ほど見えた場所にはいっていく。入り口付近に女性が座っており「いらっしゃいませ」と言ってくれる。 写真をとってもよろしいでしょうか?と聞くと、どうぞと言ってもらえる。さっそく写真をばしゃばしゃ撮る。
まず目に入るのはこの絵。おそらくは往年の映画スターなのだろう。
「東映 61年の黄金番組!」
私が産まれる2年前。まだTVもインターネットもなく、娯楽と言えば映画だったのだろう、と頭では理解できるがこの本数にはただ圧倒さ
れる。
その下にはいろいろな物が並んでいる。
並んでいるのだが、既にからになった箱も多い。遠い昔、祖父、祖母の家に行った帰りに、こうしたおもちゃ屋に寄り何か買ってもらってい た。そんなことを思い出しながら観て行く。
一番奥にはこんなものがある。上には
「芝居・道具展示コーナー」
と書いてある。招き猫をどう芝居に使ったのかわからない。本来は2階に通じる階段ではなかったのだろうか。この近くには、劇場に通じて いる扉がある。中を覗くが、上映している様子は無い。おそらく他に客はいないのだろう。であれば上映をスキップするのが節電の観点から正 しい。都会のシ ネコンだと客がいなくても機械的に上映するかもしれないけどね。
おみやげに何か買って行こうとおもう。というわけで怪しげな色に塗られた戦闘機のおもちゃを買う。他にも「紙せっけん」があり、大分 迷ったのだが購入を見送った。
そのとき表に車が止まる気配がする。中から別の男性がでてきた。想像だが、座っていた女性の旦那さんがデイケアから帰ってきたのでなか ろうか。こんなに早く来るのはめずらしいね、などと話している。その脇を通って外にでる。
これが先ほど購入した「四式戦闘機」この奇妙な迷彩はなんなのだ。さらに垂直尾翼にある「1750I」とは。しかし今のように、ネット で検 索すれば写真やら資料がぞろぞろでてく る時代ではない。
「なんか適当に描いといて」
とか言われ頭を捻った結果がこの絵なのだろうか。
折角なので、映画館の周りを少し歩く。
「尊皇 めし ニコニコ食堂」
ああ、この文字のもつインパクトはなんだ。営業しているかどうか定かでない店が並んでいる。しか し人の気配はあるから、誰かが住んでいることは間違いない。かつて映画産 業が花形だったころ、この界隈などんな様子だったのだろう。そういえば、女の子と初めてデートした時、2本立てを立ち見で観たこともあっ たなあ。
そんなことを考えながら車に戻る。いつの日か、ここに来て映画を見てやろう。その時は電車でこなくちゃ。エンジンをかける。さて、これ
から長い長い帰り道だ。