題名:Osaka Bay Blues(4章)

五郎の入り口に戻る

日付:1998/1/10

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4章:それから

さてメンバを決めなくてはならない。というか人数が決まっていたので選択肢は少なかった。つまり私とCをいれればあとはほとんど一人なのである。しかもそれは私が何もしないうちに決まった。「に電話して話したらぜひ行きたいって言ってましたよ」とCが言ってきたのである。なるほどこれで人数はそろったわけだ

話はいきなりかわるが、私はさる女性社員であるところのSと一緒に働いている。公共の福祉に反する物と超機密事項以外の情報に関しては基本的にS含めたまわりの社員に情報を公開することにしている。したがって私はこの大阪ねえちゃん及び大阪合コンの一部始終をS社員に話していたのである。そうこうしているうちに私が所属する課の宴会があった。

この宴会で私がSと一緒に話しているところにN社員が来て「ちょっとお話が」と言った。なんだねと聞くと、「いやS社員がいるからちょっとまずいかも」というので「かまわんよ」というと彼は、「大坪さん、東京に出張にいったとき女の子をナンパしませんでした?」ときた。

話を聞いてみれば以下のような事情である。ようするにNと私の同期は私がTと一緒にしゃべっていた間中私の後ろの席にずーっと座ってときどき寝ながら私が一生懸命話をしているのを聞いていたのである。うーんなんてやつらだ。途中でなくてもせめて新幹線を下りるときにでも声をかけてくれればいいのに。彼らの証言によると私が8秒理論に従い間髪いれずに声をかけていたのを見て、私の同期が「おれでもあんなに早く声をかけねえぜ」と言ったそうである。そんなことはどうでもよろしい。

さてこの宴会の一件があってもなくても全ての話はS社員の知るところとなっているのである。このS社員は独自の情報ネットワークを持っている。仕事をハードにこなしながらも、いざというときの情報の伝達の早さというのは恐るべきものがある。 さてそのおそるべきネットワークで多分この大阪合コンの話は取り上げられていたのであろう。そして彼女達が話していたときだかどうだかしらないがKがその話を聞いていて「ぜひ参加したい」と言ってきたのである。

実のところ彼を加えると男が4人となって女性に対して一人あまることにある。しかし正直なところ私はメンバーにあと一人強力な人間を加える必要性を感じていたのである。CもDも実にいいやつであるが、合コンで見知らぬ女の子といきなり盛り上がるというのはそれとは全々別の話である。私は不安をぬぐいさることはできなかった。またTが「大坪さんの友達だったら心配ないと思うけど明るい人がいいな」といっていたのである。CとDは断じて暗い男ではない。しかしここで問題なのは実際に明るいか暗いかではなくて、合コンという極めて限られた時間と場所の状況で相手に対して「明るくて楽しい人」という印象を与えることができるかどうかである。 私はCとDと合コンで何度か一緒になったことがあるが、彼らが女の子と会話して盛り上がっているのを見た記憶がない。つまり彼らがそういう「明るい」という印象を与えることに長けているかどうか自信がなかったのである。

もうひとつの要素として、私の老化があげられる。私は昔から基本的に合コンは花火のようなものだと思っている。つまりどーんと上がって「きれいだねー」と言っておしまい「さあ帰ろう」である。とりあえずその場が楽しくて盛り上がればいいじゃないか(自分も含めて)という態度だったわけだ。こういう観点からすると男の人数を増やすというのは、自分があまる可能性を増大させることであり、受け入れ難い。しかし最近老化の進んだ私の口から合コン前にでる言葉としては「国家改造の礎たらんとす」とか「太平洋の防波堤たんらんとす」などという言葉であり、一見悟りを得たかのような言葉であった。

つまり自分があまろうがなんだろうが、大切なのは合コンをセットアップして、みんなを場所まで連れて行くことであり、若いものに道を開くことができればそれで良しとする態度である。こんな立派なことを言いながらいざ好みの女の子でも目の前に現われた日には「どけ馬鹿者」といって突進することは明白であるが、経験によればそういうことがおこる可能性はほとんど無視してもかまわないものであった。結論的に言えばかなりの確率で私の「偽の悟り」は「本当の悟り」のように見えるのである。

Kがはいることによって男の側に強力なメンバを加えることができる。(加えてこの男は大阪出身であり、話題にも事欠かない筈であった)マイナスの点として考えられる「男が余る」というのは私が余っていればいいことである。前述したように悟りを得たと称している大坪君にとってこれはなんでもないことだ。私があまって、あとのメンバが楽しくやってくれれば良い。こうなれば結論は明白である。

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注釈

:以前おなじ職場で働いていたが今は別の会社にいる男の子。Cと仲が良い。戻る

 

人数はそろったわけだ: 本文章を一通り書いた後にCに見せた所、ここの記述は誤りとわかった。合コンが成立する前にDがメンバになることは決っていたのである。戻る

 

情報の伝達の早さ:S社員が言った名言「GKに何かを話せば、そしてもしそれが話題性のあることであれば、5分後には部の中の女の子全員に伝わっていますよ」GKとはこのネットに参加している女の子のこと。ここで勘違いしないで欲しいのだが、別に私はこの情報ネットワークをいいとも悪いとも言っていない。日は東から登るといっているのと同じことだ。単なる事実である。

或る日私はこのネットワークの機能をテストしてみようと思った。GKに「実は僕AIDSなんです」と言ったら帰ってきた答えは「発病したんですか?」だった「そうだよ」と答えたら「結婚はしないんですか」といきなり突っ込まれた。彼女の説によると寿命がもうないので心残りのないように結婚したくなるものだそうである。「そうだね」と言ったら「Sはどうですか」と言われた。「Sには前にYを推薦されたよ」と言ったら「SとYとどっちがいいんですか」と言われた。「両方とも私にはもったいない女性ですと答えた」

結局それから5分どころか5日たっても私がAIDSだという話は聞けなかったので、あのネットワークはガセネタには反応しないのであろう。戻る

 

明るくて楽しい人:じまんじゃないが私はこういうことに関しては人並であるという自信をもっている。いままで実体と違う印象を与えた合コンがいくつあったことか。職場でいつも陰気な顔をしてタメ息(最近は「タメ息ではなくて深呼吸である」などとほざいているが)をついて下を向いて歩いているなどと合コンで会っただけの女の子達には想像がつくまい。戻る

 

国家改造の礎たらんとす:226事件当時の青年将校の口癖。結果的に彼らの意図と全く反対の方向に国家が改造されてしまったのは皮肉というべきか。。。。よくよく考えてみれば「彼らの意図」というものはきわめて曖昧だったことがわかる。彼らはとにかく「よりよい世の中」をつくろうと夢想していた。その意図は純粋だったかもしれない。しかし具体的な知恵が伴わなければ起こることは所詮ああいう風だったかもしれない。戻る

 

太平洋の防波堤たんらんとす:太平洋戦争末期に南海の孤島で全滅した連中のスローガン。防波堤があっても内側にいる連中がそれを利用できなければそれまでである。しかし本土が戦場になる前に戦争が終ったのだから良しとするべきなのだろうか。戻る