夏の終わりー番外編:名古屋遠征

日付:1998/12/22

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その1

その2

その後


番外その1

その日私は結構疲れていた。昼頃に名古屋について、そのまま御飯をたべてお昼寝していた。前の日は風邪なので忘年会をさぼっていた。その風邪がこの日まで残っていたのかどうかはさだかではない。体調は良いような悪いような。。午後4時半にめざめると、むっくりと立ち上がり、今日の待ち合わせ場所に向かった。

 

さてここで今日の経緯について書いておこう。私が携帯(これは女性の名前である)に私の氏名を走り書きした紙を渡し「この名前で検索すれば私のホームページが見れますよ。はっつはっつはっ」と言ったのは9月の23日である。それからほどなくして本当にホームページ経由、携帯からメールが届いたのである。彼女は私の文章の山を一部読んで「大阪まで遠征するとはすごいですねー。今度名古屋でもやりませんか」と書いてきた。二つ返事で承諾した私は、人集めと、場所の予約をあっさりと元いた職場の友達であるところのbunに依頼したのである。そうして成立した合コンが今日、というわけだ。

 

いつも年末はこうだが、待ち合わせ場所のクリスタル広場は結構なこみようだ。この時期は忘年会であるとか、クリスマスを一人ですごさないぞ、相手を見つけるんだー、という気合いに満ちた合コンだか知らないがとにかく宴会が増える。そして名古屋に3箇所あるall-purpose待ち合わせ場所はとてもごったがえすことになる。

20分前についたが、予想通りといいながら、誰も来ていない。あまりにたくさん人がいるから、みつからないのかな、と思って一回りしてみたが同じ事だ。

しょうがないから近くにある本屋などに行って時間をつぶすことにした。いつものことながら待ち合わせ場所では様々な強迫観念におそわれる。年を取って大分そうした恐怖感は薄らいできたものの完全になくなったわけではない。とりあえず知らんぷりして本などに打ち込み忘れた振りをしようか。

 

さて約束の時間に近くなったので私は再びクリスタル広場に戻った。壁を背にしてぼーっとつたっているが、相手がいるわけでも、男の子達が現れるわけでもない。私はだんだんと不安におそわれてきた。まず最初の不安は「今日ちゃんと相手に場所と時間を間違えなくつたえただろうか」という奴である。しかしこの点に関しては結構自信があったし、間違えた場合のリカバリー策も考えてある。確認は電子メールで4日ほど前にしてあるし、今日は相手の携帯の電話番号も聞いてある。この携帯の電話番号がちゃんと通じることも確認してある。となれば、最悪のケースですれ違いとなったとしても何が起こったかは判明するわけだ。

問題は男の子のほうである。私は今日の実質的な幹事であるbunの携帯番号を忘れてきてしまっていることに気が付いた。となれば、彼と私の間で行き違いがあればそれまでだ。私は不満顔の女性に囲まれて一生懸命言い訳をしている自分の姿が目の前にちらつきはじめたのを感じていた。そしていかに私が合理的な理由を持ち出し、こうした強迫観念が意味のない物であることを自分に言い聞かせたところで、誰か参加者が現れるまでこの恐怖から逃れることはできないのである。

ぶつぶつ、、と思いながらつたっていると、HNYが現れた。彼は以前は合コンのときだけ、コンタクトを着用していたが最近は眼鏡をかけて現れる。私は"Hi,青年元気?"と挨拶をした。

彼は「誰もいないから間違えたかと思った」と言った。私も同じ強迫観念にさいなまれていたわけだが、二人が全く同じ間違えかたをする可能性はとても低かろう。これで怖ろしい可能性の半分は消えたことになる。

ほどなくしてbunも現れた。これで私はますますご機嫌になった。残りの二人が現れるのをまたずに、「じゃそこらへんを回ってきます」と言って歩き出した。なんといっても相手は3ヶ月前に一度会っただけで、その後メールのやりとりはしたが会話すらしていないのである。

ふらふらと歩いているとこのクリスタル広場に実にいろいろな人達がいることに気が付く。ふと気が付いたのだが、今日はなんだか若い連中が多い様な気がする。あるいはそれは単に私が年をとっただけだったのだろうか。

一回りして元の場所に近くなったとき、今日の相手の幹事であるところの「携帯」を見つけた。(正直言って自分が見つけたのか相手から声をかけられたのか覚えていない)前に会ったときは旅行の帰りということもあり、ラフな格好をしていた彼女だが、今日はセーターに長いコートで大分感じが変わって見える。髪を切ったんだね、、とか会話をしていると、相手の女性は全員そろっているということを知った。

そこから2mも離れていないところに男性は固まっている。遠目に見るとKMYは来たようだが、最後の一人、FNはまだ来ていない。携帯に「いやー、まだそろっていないんですよ」と言って謝った。その時携帯の後ろに立っている相手の女性達をみた私は内心「うげげげっ」と思った。

 

この「うげげげっ」は落胆の「うげげげっ」ではない。まず最初に相手はずいぶん綺麗な女の子達であることが見て取れた。次に彼女たちは結構(私の尺度によれば)しゃれた格好をしている。こちらは回りで雲雀がさえずるような田舎の工場に勤める男の子達だ。(私に関しては厳密に言えば「回りで雲雀がさえずる工場勤務」というのはここ3ヶ月はあてはまらないかもしれない。しかし、人間の本質なんてのはそう簡単に変わるものではない。)もし相手の女性達に「なーに、あのさえない男達」なんて思われたらどうしよう。実際そういう感じのリアクションを受けた合コンがなかったわけではないのである。今日の女性側の幹事の性格からして、その友達がそんなことを言わないだろ、という予想も付くのだが、しかし今日は妙に美人ぞろいだ。。短く言えば私は相手があまりに素敵な女性ばかりと見えたのでびびった、というところであろうか。

私がそんな恐怖にとらわれようがとらわれまいが時計をみればもう約束の時間を過ぎているのである。FNはどうしたんだろう?bunは「私まってますから、大坪さん達行ってもいいですよ」と言ってくれた。そこで「あんた、今日の場所を知っているか?」と聞くと、いや知らないと言う。なんだこれは。

しょうがないから待つことにした。遅れることおよそ10分。FNの姿が現れた。彼がお詫びと言い訳をするのを聞いている暇はない。私は「はーい。みなさん。こっちですよー」と今日の宴会場所である○○亭へと歩き出した。

このあたりは結構混雑している。女性は結構たったかと歩いてきたが、男性は遅れ気味だ。後ろが切れないように何度も振り返りながら、てけてけと歩き出した。

地上にでるとそこら中に豆電球がぶらさがっている。クリスマスのイルミネーションというやつだ。若い頃はこういう景色を見て何かを考えたものだが、今では「ああ。年末なのね」としか思わない。あるいは「豆電球ってなにか懐かしい響きのする言葉だな」とか。私は携帯と話しながら歩いていた。

今日予約した○○亭は今まで合コンで数え切れないほど使った場所だ。しかしいつも歩く度に「この道であっているのだろうか」という強迫観念におそわれる。今日もその話をしていたら携帯は「ああ。あそこのビルの一階でしょ。ここらへんはなわばりだから」と言った。なるほど。田舎の工場に勤める男の子達にとっては迷うような場所でも彼女たちにとってみれば、熟知したエリア、ということか。「今日は何時に(名古屋に)ついたの?」とか他愛も無いことを話しながら、一行はめでたく○○亭に到着した。

ここは入り口で靴を脱ぐので、毎度のことであるが、若干の混乱が生じる。少なくとも女性が靴を脱ぐのは基本的に時間がかかる。男の方にも最近は凝った靴をはいたやつがいるので、女性に負けずに時間がかかったりする。

さて全員がそろとうと席に案内された。この店には個室みたいなところから、座敷からカウンターそれに階段の下の席までがある。そして今日案内されたのはこの階段の下のあまりありがたくない席であった。過去一度だけここにすわったことがあって、それからここにくるたびに「階段の下に座らされる」恐怖感におびえていた。そして今日までそういうことはおこらなかったのだが、何故かまたぶつかってしまった。。。などとぶつぶつ言っていてもしょうがない。自分がとりあえず一番通路際に座ることとして、あとは適当に「はい。中にはいって、はいって」と言った。

すると幹事の携帯が寄ってきて、何かを言う。聞いてみたら「タバコを吸わない人は誰?」という。何のことだと思ったら、後に気管支と呼ばれるようになる女性が、のどの調子が悪いとのことで、隣でタバコを吸われたくないらしい。

少なくとも私の回りでは、喫煙者であっても「タバコを吸ってもかまいませんか」と聞く習慣はなんとなく定着しつつある。しかしながら、これに対して「いえ、ちょっと。。」と言える人は相当の勇気のある人だろう。私にはとても無理だ。結果としてこの「タバコを吸ってもいいですか」は、単なる「これからタバコをすいますよ」という宣言にしかならないのである。従って彼女も最初からタバコを吸わない人の隣にすわることを選択しようとしたのではないか。

私はちょっと首を曲げて考えて「今日来ているのは、多分合コンの場所では吸わないと思うよ」と言った。確かにあまり今日の参加メンバー(FNだけは合コンでご一緒するのは初めてだが)が合コンでタバコを吸っているのを見たことがないのである。その話が気管支に伝わると、彼女は安心したのか腰を下ろした。そして最終的に決まったのが以下の座席である。

楕円が男の子。長円が女の子である。私とFNの後ろはすぐ通路になっている。名前の由来については順次書いていく。

さて腰がすわると例によって例のごとくちょっと緊張して言葉が詰まる瞬間が訪れる。さて、どうしたものかと思っていると、店の人がきて「飲み物何にいたしましょう」と聞いた。

幹事であるところの携帯に希望を聞いてみると、飲み放題コースでいいという。(もっともそのまえに「ウーロン茶が飲み放題にはいっているかどうか」確認していたのであるが)というわけであっさりと飲み物を決めてしまうと、bunから始めて左回りに自己紹介を始めたのである。

 

この自己紹介ではそう多くの事が語られたわけではない。今日の女性の幹事は携帯。チアキを除いては全て携帯の職場の仲間だという。チアキは携帯の短大時代からのお友達なのだそうだ。最初ミニスカートとチアキが並んで座りだしたから合コンでときどきみかける「仲のいい女の子二人連れ」なのかと思ったら彼女たちは初対面のようだ。

さて。飲み物がとどいて「かんぱーい」とした後に歓談のお時間となった。女の子がふたり仲良く並んだあおりを食って、私の右にはFNが座っている。従って私がお話する相手といえば、左に座っている25歳しかないわけだ。

最初彼女は「ちょっと若い感じだな」と思った。そのうちあれこれ話しているうちに「ピンクレディーをリアルタイムで見たことがない。だって彼女たちがはやっていた頃はあたし幼児だったもん」というセリフが飛び出した。

ピンクレディーといえば、その少し前にはやったキャンディーズと共に私の中学時代の思いでのアイドルである。(当時はまだ芸能人の事について少しは関心を持っていたのだ)一番思い出に残っているのは、中学3年のときに修学旅行列車のなかで、友達が渚のシンドバッドの振り付けをやっていて(友達とは男だ)それを写真におさめたことであるが。

さて、ここから彼女と私の年齢差を計算すると、およそ10歳であることになる。そこからお互い干支の神経をすり減らすようなやりとりのあとに彼女と私の年齢差が12−2であることが判明した。そこから彼女は25歳という名前になったのである。

彼女は職場では携帯の弟子なのだそうである。どんな上司?と聞いたら「ずいぶんしっかりしていて、尊敬している。でもしっかりしていると思うと抜けてるところもあって、更に良い」という答えだった。私は彼女の目を見ながら話を聞いていたが、おそらくこの彼女の言葉は上司に情報が漏れ伝わることを予想しての外交文句ではなかろう。

などと話していると、一人おいて右に座っている携帯の耳がダンボになっている様子が見て取れる。というわけで「別に何も隠れて悪口を言っているわけじゃないんだよーん」という事を示すために、彼女も巻き込んでみんなでお話をし始めた。なんでも昨日の晩は彼女たちの職場で泊まりの忘年会で飲んで、帰ったのは今日の昼頃だという。そのわりには彼女たちは元気いっぱいに見えるのは何故だろう。

なんでも彼女たちの職場では宴会で「かぶりもの」を登場させるのだそうである。ちょんまげとか、坊主頭とか。。あるいはドーランを使用して、某消費者金融のCMにでてくるあやしげな生物をやったりしているのだそうである。今日参加している男の子達と同じ課にいたときも、毎月いくらかつみたてて、結構豪勢な忘年会を開催していたものである。(もちろん泊まりなどという大規模なものではないが)我々のまわりは結構もりあがっていたが、全体のもりあがりは、とても「かぶりもの」などが登場するようなものでなかったことは言うまでもない。

そこから聞いた話というのが「25歳が途中で寝てしまって、男に長い間よっかかっていた」であった。25歳に言わせると「これは大変顰蹙をかってしまって、あとで男の人に怒られた」ということであったが、私とFNは内心思っていたし、少しは口にもだした。25歳と携帯は全く聞き入れてくれなかったが、私たちが考えていたことというのはこうである。

「その男はてれかくしから、ちょっと文句を言って見せたかも知れないが、内心絶対よろこんでいた」

可愛い女の子によっかかられて寝られて、喜ばない男がいれば、そいつはホモか、あるいは同じ宴会に別の意中の女性が参加している場合だ。

さてさてそうこう話しているうちに、また私は25歳と話すことになった。彼女たちの職場にはなんと独身男性が大変少ないという。その瞬間私は今日なぜこうも可愛くてきさくな性格の女性ばかりが合コンに参加してくれたか理解できたような気がした。これが理不尽な話しかそうでないかは私が判断するところではない。しかし認めなければならない事実として、世の中に男性と女性は偏在して存在しているのである。

我々がいた職場は男性数十人に女性が一人いるような場所だ。こういう場所では、女性は異常に男性を見る目だけが肥えていき、下手をすれば必要以上に婚期がおくれる。そして前途有望な独身男性は、堆積していき、パイルの下のほうにある男性はそのまま発酵してしまうのである。

考えて見れば、今日の合コンは、男性が少ない職場の女の子と、女性がすくない職場の男の子が見事に会合した機会かもしれない。しかしながら、それとこれとは別な話だ。この合コンの結果から何かがうまれるかうまれないかは、神と天と、参加者の下心のみの知るところである。

そこでいきなり店内が暗くなった。この店恒例の花火タイムである。この花火を見るのは何度目だろう。花火が行われるのは私の後ろだ、ということはほとんどの参加者からすれば、私の横に広い図体は花火を見る上で邪魔になる。私はてけてけと移動すると携帯の横に座り込んだ。そして携帯とぼそぼそ話していた。

太鼓の音と共に花火タイムは終わり、私は立ち上がった。さてどこに座ろう。一通り25歳と話したので、今度はひさしぶりに会う男の子達に挨拶に行こうかと考えた。初対面の可愛い女性とお知り合いになることも大変重要だが、一人名古屋から離れたところで、靴磨きをしている私にとっては、男の子の友達と旧交をあたためることも同じくらい重要なことなのである。

そう思ってグラスを片手に、bunのほうに歩いていった。「おい。青年。元気か?」と声をかけると、彼は、いきなりとうとうと、「いや、大坪さん。こちらに座って」と語りだした。

彼がいうには、先ほどから、bunの隣に座っていたチアキからさんざん私がどのような人間であるかの質問をうけていたという。「おっつこれは、興味をもたれているか?」と思い鼻の下をでろーんとのばして座り込んで話しを聞けば、どうもそんなに色っぽい話しでもないようだ。

今日何故このような宴会が催されることになったか。ひいてはなぜ私と携帯が知り合いになったかは、実は今日の参加者には内緒にしていたのである。同じN○○の子会社だから、全N○○の労働組合の大会で知り合ったんだよーん、とかなんとかでたらめを言おうかな、と内心楽しみにしていたのである。(実際25歳にはそういうほら話を言ったような気もするが)

ところがぎっちょん。チアキだけは、事前にそういうなれそめの話を全部聞いていたのである。従って彼女にしてみれば「えっつ。そんな風に出会って、空港でどじを繰り返している男ってどんなやつよ」といったところだったのかもしれない。となれば確かに「大坪ってどんな奴?」とbunに聞きたくもなるわけだ。

さて、多少鼻の下は縮まったものの、私はチアキの横に腰を落ちつけてしゃべりだした。彼女が何故チアキというか。彼女と話している間にポケットなんとかいうバンドのボーカルのチアキとかいう女性と飲んでいるとこんな感じなのだろうか、と思い出したからである。

その話を彼女にすると、「そういう風に言われたのは始めて。いつも職場では「ちびまるこ」と呼ばれている。アニメの主人公で呼ばれるのと、チアキとどちらがいいか判断に苦しむ」と言った。要するに彼女はなんとなくそういう印象を人にあたえるFunkyな女性なのである。

さて彼女は短大時代からの携帯の友達だから、もう10年近くにわたるおつきあいだ。お互い相手の行動はなんとなく理解できる仲だ、と言っていた。なんでも彼女の母親には家に遊びにくる携帯は「まあ。携帯さんは落ち着いていて」と大変うけがよいらしい。それだけ仲がよければ私との知り合ったきっかけを全部知っていても不思議はない。

さてチアキはキャラクターはFunkyで、結構(今日の参加者はみなそうだが)可愛いのである。私は例によって例のごとく「あなたもてるでしょ」とからみだした。

彼女の反応は(予想通りというべきか)「いえいえ、そんなこと」であった。そこで私は(これも予定の行動だが)得意の「「あたしもてないの」という言葉は「絶対」信じてはいけない」という信条を振り回してさらにからみだした。曰く「あなたは、自分にアプローチしてきた男性のうち、意にそまない相手を数にいれていないだけじゃないんですか?」というやつだ。

こうやって自分でしらふに戻って書いていても「なんだ、このからむ酔っぱらいは」という感じだが、彼女は(内心あきれていたかもしれないが)ちょっと面白い話をしてくれた。

なんでも先日こうした合コンだか宴会だかが、あって、そこで「生理的にうけつけない」(彼女がこの表現を使ったかどうか定かではない。しかし多分彼女が言っていたことはこういうことだろう)相手から、執拗に迫られたのだそうである。

彼女は帰りの電車のなかで、ほとんど涙目になって、「なんでこんな目に遭わねばならぬか」と身の不幸を嘆いていたそうだ。そして彼女の言葉によれば「あんな悲惨な経験を、男性からもてた一例にいれるというのは、自分がかわいそうすぎる」そうである。なるほどもっともだ。しかし結局彼女が私が主張した理論を否定しているわけではない、ということにも注意しておく必要がある。

これは想像だが、男性の立場であれば、それがどんなに自分が生理的にうけつけない女性からのアプローチであったとしても「もてた」数のうちに入れるのではないか。北杜夫の「どくとるマンボウ航海記」という本に、作者がヨーロッパのどこかの飲み屋で、中年のおばさんに迫られて悲鳴を上げるシーンが記載されている。おそらく作者は多少のユーモアを交えながら、こうしたエピソードもあった、と言いたかったのだろうが、私などが見ればそれはどことなく「こんなにもてたんだよ」とい自慢の雰囲気を感じるし、全く誰からも相手にされなかったよりは良かろう、などと思ったりする。

さてその後、彼女とはなんだか映画の話をしていた気がする。この内容についてはよく覚えていない。おそらくはTitanicの話題から「あれは俺は女の子の映画だと思う」といって次にCinema Paradisoが「あれは男の子の映画だと思う」と私が言った。それにたいし、チアキが「あたしの中に男の子みたいな部分もあって、その男の子の部分が気に入る映画もある」とかなんとかそういう事を言ったことを覚えている。映画の見方にもいろいろあるもんだ。私の中には女の子の部分は少ないか存在していないようだ。

また彼女はSaving Private Ryanについても話してくれた。私が大変感動した、と話すと、彼女は「一人で見に行ったもんだから、感動する場面で、まわりからおやじが”ひとりできてんの”とか話しかけてきて、感動するどころではなかった」だそうである。確かに映画館で一人で見ている女性をみつけることは大変難しい。だいたい女性は男性とくるか、あるいは女性同士で観にくる。その理由についてあまり深く考察したことがなかったが、彼女が直面したような問題を避けるため、というのもあるのかもしれない。

 

さてそうこうわめきちらしている間に、「そろそろお時間ですが」と店の人がくる時間になった。忘年会シーズンでもあり、今日は時間にはとてもシビアだ。

私はbunにカードを渡して「これではらっといて」といい、勘定をすませると、「はーい。ではみなさまとりあえずここはお開きですよー。外にでましょー」と言った。

するとHNYが「えっ?何も決めずに出るの?」と言った。私は彼と何度も合コンに行った経験から、彼がこの短いセンテンスに盛り込みたかった意図をこう解釈した。

「まさか2次会がないなんてことはないよね。まだ相手の連絡先も聞いていないんだから。でもここで何も次の予定をきめずに外にでてしまうと、いつものパターンでなし崩し的に解散になっちゃうんじゃない?そんなのはNot Acceptableだ。従ってこの場でちゃんと2次会の予定を決めてから動こうよ」

さて彼の意図を勝手にこう邪推した私であるが、その言葉に耳をかさず「とりあえず出ましょ」とか何とか言ってさっさと席をたってしまった。私は会議でも何でも終わりがはっきりせずだらだらと続くのは大嫌いだ。しかしこの場合は彼の(私が勝手に邪推した)意見のほうが正しかった気がする。確かに多少終わりがのびようがなんだろうが、ちゃんと2次会の予定について交渉しておくべきだったのだ。こうした「妙ないさぎのよさ」は私がよくやることだが、確かに実生活においてあまり正のほうに働くことばかりとはいえないようだ。

などという反省は今このときになって言えること。私は何も考えずにみなをせきたてて表に出た。さてこれからが2次会の交渉である。

次の章


注釈

今日の経緯:更にくわしい経緯については、「夏の終わり」本編の14章からを参照のこと。長い長い記述だが、私と彼女の出会いが偶然の産物であっても、怪しげなものではないことは解ってもらえると思う。本文に戻る

 

大阪まで遠征:2度に渡る大阪遠征は、このホームページに掲載してある。一度目は「Osaya Bay Blues」、2度目はHappydays8章である。本文に戻る

 

気合いに満ちた合コン:この件に関しては、今をさること5年前に行われた合コンで考察している。Happydays15章を参照のこと。本文に戻る

 

「あたしもてないの」という言葉は「絶対」信じてはいけない:(トピック一覧)この理論に関する詳細な考察は、トピック一覧経由、「夏の終わり」の本編に記載してある。本文に戻る

 

どくとるマンボウ航海記:(参考文献参照)私の幼少時代からの愛読書のうちのひとつ。本文に戻る

 

Titanic:(参考文献参照)このホームページがどれだけ長い間いきのびるか定かではない。しかしもし10年、20年後にこの文章を読む人がいれば、Titanicというのは1998年において、これほど話のねたになる映画であったことを理解してほしい。本文に戻る

 

Cinema Paradiso:(参考文献参照)私はことあるごとにこの映画を「男の子の映画」とわめきちらしているが、女の子でもこの映画のファンは多い。本文に戻る

 

Saving Private Ryan:(参考文献参照)この映画もこれからあちこちで引用することになるのではないか。本文に戻る