題名:Polypus&JMS Live1999/12/19

五郎の入り口に戻る

日付:1999/12/21

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その日の終わり

しばらくそこらへんをぶらぶらしていた。そのうちハナちゃんが誰かと話しているのに気がついた。観れば、観客席の一番前、我々からみて左側の席でずっと我々の演奏を聴いていてくれた女性である。なんでもハナちゃんの一番近い友達で、和太鼓を演奏するのだそうな。彼女は私に「なんでステージの端から端までかけまわらなかったんですか」と聞いた。私は「ちょっと場所がせまかったから」とか答えた覚えがある。実際今日の場所は結構せまく、日本印度化計画の最初の動きの場所もちょっと確保に苦労した位なのであるが。

さて、彼女たちとひとしきり話すと、私は控え室に向かった。まず着替えたいからだが、他にも目的はある。今日のライブの様子は、ビデオテープを渡すと録画してもらえることになっている。種類はHi-8か、DVだが、私は両方頼んでおいた。なんといってもこうしたものは多すぎることはないのだ。

Hi-8のほうの録画係りはYD、DVの方はYDが所属しているもう一つのバンド、Lunar Queenのベース氏である。最初のミーティングで主催者が彼を紹介したとき、「彼は絵だけとって、音をとらない、という大変凝った事をやってくれる人です」と言っていた。そして彼は今日この後大変な活躍だったが、ビデオの録画関しても期待をうらぎらなかったのである。

控え室にはいってYDと彼が話しているところにいくと彼らが何かを言っている。なんでも彼が録画したDVのほうは最初の2曲録画できていないのである。なんでも「あれ、もうやっている、と思ってあわてて録画ボタンを押した」そうだが。しかしまあ私にしてみればそう大きな問題でもない。確かに両方とれているに越したことはないが、そうでなくても少なくともHi-8はちゃんととれているのである。そうこうしていると男の4人くらいの一団が、うちのバンドのメンバーに挨拶をしている。彼らがいたことは知っていたが、我々の知り合いとは知らなかった。未だに彼らが何者か私にはわからないが、挨拶の様子からしておそらく会社の若い者ではなかろうか。

私はYDと話していた。彼は「良かったですよ。」といった。私はまた例によって「いやいや。YDさんにそういっていただけると。。」と本気にしないが彼は

「いやお世辞とかじゃなくて。実はちょっと、、ちょっとだけ心配していたんですよ」

と真顔で言った。私はそのとき彼の今までの心情を思った。考えてみれば彼は我々を今回のこの機会に誘ってくれたわけであるが、それまで我々の演奏を一度も聴いたことがなかったのである。我々のバンドが、まるでプロのコンサートに迷い込んだ学芸会のように陥る可能性に彼はどれほど悩まされていたのであろうか。そんなことになったとすれば、それは第一に我々の責任だが、第2の責任は彼に行くのである。そう思えば、彼が私がドラムとボーカルをやっていたときにちらりと見せていたであろう不安感も、今日のリハーサルと本番の後で見せた「ほっ」とした表情も理解できようというものである。

さて、後はしばらくのんびりとビールをのみ、フライドポテトなど食べながら他のバンドの演奏を(私はあまりこの表現は使わないが、このときは本当にそうだったのだ)Enjoyする番だ。次にやったカプリコというバンドの曲は、昔のアニメの曲らしい。たぶん年代は近いのだろう。他のバンドのメンバーはいくつかの曲を知っているようだったが、私は不幸にして一曲も知らなかった。しかし演奏は見事だ。Voは小柄でキュートな女性だが、見事なフリと声で歌っていた。

この次はYDとSG−2所属の4xXである。彼らはフュージョンバンドであるが、その腕前の見事さは相変わらずだ。ポスターにのっているキャッチフレーズの前半「歌えないけど踊れるフュージョンバンド!」はだてではない。その中で今日初めて聞いた曲だと思うのだが、ちょっとスローなジャズ調の曲があった。この曲を聴きながら、いつも気楽に聞いているジャズというのがいかに難しい音楽であるかを考えていた。

私はいつも履歴書の「趣味」の欄にRock Bandと書いている。ある会社に面接に行ったときそこに目を留めたのか

「私はジャズが好きなんですが、ロックほど簡単でつまらないものはないと思って居るんですが」

と言われたことがある。それまでその面接では結構いじめられていたから、彼はきっと私をリラックスさせようとして言ったのだと思い、少しほっとしながら答えた。

「確かに自分が少しでも音楽をやると、ジャズの難しさがわかりますね」

今彼らの演奏を聴きながら、私は自分が答えたそのセリフを思い出していた。ジャズというのは、技量をもったメンバーがそれぞれのリズムとメロディを尊重しながら一つの音楽を作り上げていくものではないかと思う。十分な技量と、相手を尊重する余裕が必要とされる、確かにとても難しい音楽だ。

彼らの最後の曲は「青い炎」というアップテンポの曲でYDの言葉通り「各自の見せ所が一杯」である。合コンでもご一緒したSG−2というのは普段は非常に物静かな男であるが、バンドの時は純粋なギタリストの表情を見せる。彼は言葉を並べたり、叫んだりするのではなくて、ギターのメロディーで自分の心を歌っているのではないかと思う。この曲のソロのところでは眉間にしわをよせて大熱演だ。彼らのバンドのキャッチフレーズの後半は「必殺の営業スマイルが炸裂!」だが炸裂しているのは営業スマイルよりはミュージシャンの恍惚の表情である。私は彼の表情をカメラにおさめようとしたが、ちょっと距離が遠かったようだ。

さて、4xXが終わったところでかなりの人が入れ替わった。思えば最初から聞いていてくれた人の大半はカプリコか4xXの観客であったか。私が仮に人のバンドの演奏にいくとすればその前後だけいくであろうに、最初からきてついでに私たちの演奏まで聴いてくれるとはありがたい限りだ。

 

さて、ここでHOKの一族、それにCOW夫婦が帰った。我々は彼らを見送った。歩きながら聞くところによるとHOKのところの長女は日本印度化計画が大変気に入っていているそうである。彼女の将来が大変楽しみだ。Stoneのところの子供も父親からちゃんと才能を受け継いでいて大変のりがよろしい。我々の次の代を観ることが楽しみになるというのはありがたいことだ。

さて、戻ってみれば次の演奏は主催者バンドであるところのRascalである。彼らの名前はかわいいが、演奏は硬派のオリジナルロックだ。しかしいつもオリジナルを聞くたびにおもうことだが、人間は聞き慣れているメロディにより容易に適応するようである。彼らの曲を何度か聴けばどう思うかはわからない。しかし他のバンドのコピーの曲のほうにどうしても素直に反応する、というのは人間の性であろうか。

さて、我々は自分たちが受付の順番になるまでのわずかな間、一階にある「昭和食堂」という一杯飲み屋にいって軽く祝杯をあげることにした。本来から言えば、我々がやっている場所で食べ物、飲み物を注文して、店の売り上げに貢献するべきなのだが、どうにも食べ物のレパートリーが少ない。ここはやはり肉じゃがをばりばり食べたい気分である。

一階に下りてみると、ここは昭和食堂と銘打ってあるだけあり、壁には昔懐かしい木の壁が描かれ、今ではみることのない裸電球の街灯がついている。そこに流れるのは我々の年頃であれば涙を流すような懐かしのメロディだ。TKさんは行方不明になっていたが(後で近くの楽器店に行っていたことが判明した)他の我々はビールを傾け乾杯した。

考えてみれば演奏が終わった後に一杯飲むというのは初めてのことだ。いつも機材のかたずけに忙しいからである。今日もそれはあるのだが、まだだいぶ間がある。我々はあれこれ注文したり、飲んだりした。言葉が多く飛び交わないからといって、幸せでないわけではない。我々はみなにこにこしていた。そしてこうした時間というのは長いか短いかはしらない人生のなかでそうたくさんあることではない。

 

さて、そろそろ我々が受付をやる時間だ、というわけで、交代で上にあがることにした。演奏しているのはRolling StonesのコピーバンドことThe Little Babiesである。彼らのキャッチコピーは「労働者のための労働者バンド」であり、その名の通り硬骨な音を聞かせてくれる。そのバンドの中にあって、女性ボーカルは赤いチャイナドレスで色を添えている。そしてご機嫌になっている私はステージのよこからBrown Sugarに併せてつい大声で歌ってしまうのである。

さて、彼らの演奏が終わり、我々が受付をやる番になった。各自に3枚ずつ配られたチケットは単に切るだけ、1000円だして買ってくれる人には「どのバンドを見に来ましたか」と言って聞くことになっている。その半額は戻るからだ。観るとうちのバンドは有料入場者がダントツで多い。一瞬頭をひねったが、HOKの一族だけで5人は有料で入場してくれたのだからこうなっても当然なのかもしれない。

さて、10分の後に次の二人がきて私の受付時間はおしまいだ。おりしも次のバンドが始まる。「今日だけは14才よ。サックス&シンセのスーパーユニットシスターズ!」がキャッチコピーのRoseMaryである。このバンドは女性3人なのであるが、なんといってもそのコスチュームは会場を揺り動かした。なんと彼女たちはセーラームーンの格好をしているのである。

どよめきの中、彼女たちの演奏が始まる。サックスが二人に打ち込みとなんと呼ぶのかしらないが、手でもって演奏するハモニカのようなものをもっている人が一人。彼女たちの演奏を聴いているとサックスというのは実に難しい楽器であることに気がつく。リードを使った木管楽器のなかでは私が知る限りサックスが一番音を出すのは簡単だ。(屋外においておくと風がふくだけで音が出る、という噂を聞いたこともある)しかし音をだすのと吹きこなすのは別の話だ。彼女たちは見事に演奏していたが、もう少し肺活量がおいつくともっといい音がでるのかもしれない。

さて大拍手のうちに彼女たちの演奏が終わる。本日のバンド(除くセッション)を締めくくるのはYD所属のもう一つのバンド、彼が言うところの「コスプレコミックバンド」のLUNA Queenである。ここは格好からして「コスプレコミックバンド」の名に恥じない。まずボーカルである女性二人はピンクレディーの格好をしている。そして男性(少なくともYD、ベースマン、それにドラマー)は上に上着をきているからわからないが、下にはすでにウルトラマンの格好を着込んでいるのである。

4xXの演奏が終わった後に控え室にいったら、YDが椅子に座って沈思黙考状態であった。彼が言うには、乏しい体力を蓄えているのだそうである。彼は数日前、急に気温が下がったときに風邪を引き、そしてそのウィルスは容赦なく彼の体力をうばっているらしい。演奏が始まれば曲にはいってしまうので大丈夫、ということだが、端から見ても彼はつらそうだ。Voの二人は何度かステージの上でYDにしゃべらせるが、彼は声をしぼりだすのもつらいような状況である。このバンドはVo二人が見事なしゃべりでもって会場をもりあげているが、演奏もなかなか大したものだ。そして我々の演奏の最初2曲をDVでとりそこねたベースマン氏が見事なギャグで大受けをとっていた。ちょっと間が空いたところで彼は叫んだ

「最高ですかー!」

大受けである。そのほかにも即興で演奏したカップスターのCMで使われていた曲も大当たり。最初妙なバンド(うちのバンドのことであるが)で始まり、途中で硬派にしまった今日のコンサートは、最後にセーラームーンとウルトラマン、それにピンクレディーにより異常な盛り上がりをみせてはじめていた。

さて、大きな拍手とともにLuna Queenが終了である。私はこれまでステージの横でご機嫌に踊ったり大声をはりあげたりしていたが、そろそろあらたな心配事に立ち向かう必要に気がついていた。セッションの3番目は我々なのである。

 

まず最初のセッションバンドが演奏を始める。ギタリストはYD、そしてドラムはうちのMNさんである。彼は大変多忙な業務の間、この曲のコピーも怠ってはいない。リハーサルの時から完璧であったが、本番の演奏はさらにすばらしかった。後でYDに聞いたところでは、このセッションバンドAではドラマーを除いてみなこの曲を一度はやったことがあるらしい。彼だけが初挑戦だったのだが、途中で私がいったトイレのなかでもドラマーの奏でるバスドラの音は快調に響いてくる。

この日が終わった後にHOKが「今度あの曲をやろう」と言ったくらいの見事な演奏は終わりをつげた。次のセッションバンドは、女性が前にずらっとならぶモーニング娘である。

硬派だった一曲目とうってかわり、今度は大変はなやかである。先ほどセーラームーンの格好をして登場したRose Maryの皆様は赤い服に着替えて登場だ。Luna QueenのVoがしゃべるところによれば彼女たちはマライアキャリーを意識しているらしい。セッションバンドのためだけに衣装を用意するとはなんというすばらしい芸にかける根性であろうか。

後ろでSG−2やStoneがギターをかなで、歌はにぎやかに進んでいく。私はこの歌だが好きだ。名曲だと思っている。しかし華やかな女性ボーカルを眺めながら「いったいこの曲をうちのバンドでどうやれっていうんだ」とも思っていたのだが。

大歓声のうちに彼女たちが終わると今度は私たちである。上着だけカンフー着に着替えた私は再び人前にたつとご機嫌に腰などふってみる。主催者が「リハで聞いたんですが、忌野を意識しているんですか」と言ってくれた。実はこの曲に限っては清志郎風に歌おうと、決めてあったのである。とはいっても「最初に解説しないと、何この変な歌い方って思われるぞ」とバンドのメンバーから言われていたのだが、主催者にそういってもらえて解説の必要もなくなった。カウントとともに演奏開始である。

一応の歌詞を覚えようとしたのだが、カンニングペーパーはちゃんと持っている。そして最後のちょっと構成が難しいところも「1,2,3」とか一応書いてはある。最初のほうは快調に歌っていたが、最後になるにつれ、私はまた「うむ。歌い出しはここでいいだろうか」という恐怖感に襲われてきた。そして最後のセリフ「wo-wo-Pretty Woman」と言ったのだが、まだ演奏は続いていた。つまるところ私は一人だけ早く終わってしまったのである。しかし演奏は終わってしまったからしょうがない。たぶん後ろではみな顔を見合わせていたと思うのだが、私は黙って頭をさげた。そしてギターに向かって、いや、すんません、と言った。もう少しちゃんと聞き込んでおけばよかった、と思っても後の祭りである。今私にできることはてきぱきと片づけて次のバンドに場所をゆずることしかない。

控え室に戻ると、ベースマンSAWが「まだ全部演奏してないんとちゃうかな」と言った。私は「歌詞はあれでおしまいなんだ」と言った。要するに私がどっかで間違えて早く終わりすぎたのである。他のメンバーにすまない気持ちといくばくかの自己嫌悪は私をちょっとブルーにさせたが、まあ「おめでたい席」に免じて許してもらおう。

さて、最後のセッションバンドの曲は、「バンバンバン」である。最初この曲名を聞いたとき私の頭の中に浮かんだのはサザンオールスターズのそれであったし、主催者は挨拶のなかで、ドリフターズの「ばばんばばんばんばん」と言ったが本当はザ・スパイダーズの曲である。Voをとるのは主催者だ。これは実に見事な歌い方で、フリから歌い方から実に「慣れている」という感じがする。そして大拍手とともにこの場はお開きとなった。

 

さて客席に戻ると合コンでごいっしょした日本シリーズことYDの彼女と、腰痛仲間が来ている。私は彼女たちを最初見つけたときに(全く失礼な話だが)誰だかわからなかった。特に腰痛仲間はRose Maryの一人と大変顔が似ているので、「あれ、もう着替えたのかな」と思っていたし、日本シリーズは合コンの時は長かった髪を短くきってイメージが変わっていたからだ。しかし気がつかなかった一番の原因は日本シリーズはともんかく、腰痛仲間がまさか来るとは思っていなかったからなのだが。彼女たちは最初から今までずっと聞いていてくれたらしい。感謝感激雨霰である。最初から最後まで聞くといえば、ステージの真ん前にもある一団が最初から最後までいた。我々の演奏の時もいたので「あれは誰かの知り合いか?」とぼそぼそ話し合っていたがどうやら最後までいたところをみると、実に熱心な観客だったらしい。

さて、それからしばらくたってから会場を元にもどしたり、機材を運びおろしたり、いろいろした。それが終わるとあとは打ち上げである。我々は一角にすわりこんでへばっていた。気持ちはご機嫌。演奏に肉体労働も加わって体は疲労している。酒も結構入っているはずなのだが、こういうご機嫌の時は気分が悪くなるどころか、酔いも感じない。椅子にぐったりと座り込んでいるのに何故か顔はにやけているのだから、知らない人がみたら危ない集団なのかもしれない。

これからミーティングの後に打ち上げがあるのだが、どうやら私にとってはもう時間切れのようだ。みんなに「では失礼」というと私は会場を後にした。ご機嫌な気分と「何故Pretty Womanを間違えてしまったか」という後悔の念とともに新幹線にとびのり横浜に向かった。アパートについたのは日付が変わるちょうどその頃だった。そしてもうしばらくはのどの調子や風邪を怖れる必要はない。私は安らなか眠りについた。

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注釈