8月の邂逅

日付:2001/8/8

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その日の終わり

さて、東京タワーで思わず時間をとってしまった。12時をとおに過ぎているが昼をどこで食べよう。せっかく来たのだから東京らしい物が食べたいとAB氏は主張する。さて問題です。東京らしい食べ物とはなんでしょう。新幹線のアナウンスによれば東京名物とは雷おこしと草加せんべいであるが、両方とも食べたことがないし、昼飯として適当で無いことは間違いない。

「寿司か、、、それとももんじゃ焼きかなあ」

と誰かが言う。もんじゃ焼きと言えば月島(少なくとも私はそれしか知らない)では月島に行こうかと言ったところでST氏から電話がはいった。今品川に居ると言う。私がその電話に変わり

「では品川に行きますからそこに居てください」

と言う。

再び東京の街をドライブ。以前仕事で東京タワー発、品川行きのバスに何度も乗った物だが、今日は休日だからのんびりである。ST氏はどのような人か知っているか、と言えばSJ氏は合ったことがあるという。そんなことを話しているうちに品川に着く。問題はここからだ。はたしてST氏はどこにいるのか。そして我々はどうやればあの駅に近づくことができるのか。

実は私は知っていた。自分で運転したことはないが、タクシーで会社から客先に行った事は何度もあるからだ。しかしこの会社に勤めていたころ私は最高に幸せでなかった。出来れば忘れてしまいたい記憶なのだが、今はそんなことを言っている場合ではない。現実に車は品川駅の前を通り過ぎ離れていこうとしている。私は「そこを左」と言った。

そこから記憶の糸をたどりながら右だ左だという。しかし近くになったところで様子がすっかり変わっているのに気がつく。そこから同じ場所を数度は回っただろうか。数ヶ月いないだけでこんなにかわっちゃうんだもん。だから都会って嫌い。なんどか電話をし、ようやく車を止めると再び電話。こちらは青いステップワゴンですと言うと相手は

「ああ、見えます」と言う。さてどのような人が来るかと思っていたら現れたのは帽子をかぶったST氏だ。

SJ氏曰く「この前会ったときは室内でもベレー帽をかぶっていた」ということらしいが、この日は普通のCapである。ではでは、ということでメンバーがそろい車は心おきなく出発。しかし時間は既にして遅くなっており、ここから月島にいってもんじゃ焼きを食べればそれだけで宴会の時間になりそうな様子である。

野望を捨て昼飯は科学未来館で食べる事にしよう、と決定すると車は橋を渡り快調に進んでいく。そのうちナビ子ちゃんは我々が海の上に居ると主張しだした。つまり彼女の地図が入力されたときからここらへんの道路はすっかりかわってしまった、というわけだ。となるとあーだこーだと言いながら自らハンドルを切るしかない。

それでも地図と言うのは偉大な物で、しばらくの後我々は科学未来館にたどり着いた。異様な形をしたビルで、前面が湾曲し上の方が若干張り出ているその姿は科学特捜隊の基地を思わせる。

さて中にはいるとまず昼食である。レストランに入っていくと女性がにこやかに迎えてくれるのだが、何故かその髪は部分的に青く染まっている。私より年上であろうその女性はきちっとした制服らしき物を着用し笑顔を浮かべている。何もおかしいところはないだけに、その青さが異様な雰囲気を醸し出す。ついでにいえば我々のテーブルにあれこれの物を運んでくれたウェイトレスのアクセントが変わっていると思えば、ついている名札はどう見ても中国の名前のようだった。

腹が膨れるとようやく見学に入る。此処には色々妙なものがあるのだが、どれも今ひとつインパクトにかける気がする。開発者に聞く、とかいうビデオ上映があり、どっかでみた顔だと思えば私がいた大学の当時助教授、いま教授なのであった。小学生の頃は漫画を書くのが好きだったとあたかも夢多き少年が今や教授様になって夢を実現したなどという雰囲気でビデオは構成されている。そこに嘘があるとは思わないが私の言葉で表現すれば彼はただのとっちゃんぼうやである。おまけにおっさんはげたなあ。まああれから15年だからしょうがないけどね。

ある階にはソニー、HONDA、そして大学が開発したロボットが映し出され、歩く姿が順繰りに映し出される。SJ氏曰く

「あそこに先行者及びそのGIFアニメを付け加えるべきだ。真面目な開発者が激怒するぞ」

他にも白と黒の玉がごろごろ転がりIPパケットのルーティングを説明している展示とやらもあるのだが、説明がどこにも見あたらない。ごろごろごろごろ転がる玉は確かに印象的なのだが、数人の係員がつきっきりで玉詰まりを直したりしているのもこれまた事実である。宣伝にあった人体の輪切り模型は確かにある。本物の人間を輪切りにしたものかと思えばこれがただの模型なのであった。下半身局部をみて

「これは男の模型か、女性の模型か」

などと調べようとしたが、中学生がやりそうなことであると気づきやめた。

そんなこんなで科学未来館の見学はお開き。車に乗るとAB氏が泊まっている浅草のホテルへと向かう。ホテルに車をおくと地下鉄で銀座へ。朝から歩きづめであるので、普段ほとんど移動しない私はすでにしてよれよれである。そんな中これから会う人たちへの想像などが語られる。

「そもそも幹事であるHB氏に会ったことがある人はいるのであろうか」

「そもそも面識も無い人同士でどのようにしゃべればいいのであろうか」

「○○氏はサイトの感じからしてこのような人ではなかろうか」

これらの想像には楽しみと不安が混ざり合っていると思う。それがどのような形で現実の物となるかはあと少しで解ることである。

銀座で地下鉄を降りると有楽町までは歩きである。途中ほとんど地下鉄の中を通っていくので涼しい。先頭を切って歩いて居るのは私。土地勘など全然ないのだが、ST氏が持っていた地図からしてこちらであろうと見当をつけ歩く。しかし己の間抜けさに思いを馳せ

「これは大幅に間違ったか」

と不安になったところで目的地であるマリオンについた。

時間はまだ30分もある。いくらなんでも早すぎるからどうしたもんだか、と思うとST氏は電池を買いたいらしい。科学未来館で購入した

「吸盤がついていて壁を上り下りするロボット」

に動力を補給したいらしいのだ。ついでにいえば彼は地下鉄の中そのロボットをむき出しでもちあるいていた。ロボット人形をもったりカメラをぶら下げたりして先を一心不乱に急ぐ30男の集団。そんな光景はこの都会では珍しくない物なのかもしれない。

けっきょく有楽町駅のキオスクで電池を購入すると待ち合わせ場所に戻ることとする。まだまだ時間は早いのだがもう誰か来ているかもしれないし、足が疲れたので待ち合わせ場所で座っていればいいだろうという考えだ。また幹事であるとろこのHB氏は案内のメールからしてあれこれ気を使ってくれる人のようだからすでにして来ているかもしれない。

さて、ここが指定された時計の下であるがなんとしたものやら、と辺りを見回す。私はこのビルを見るたびゴジラがあんぎゃーと叫んで火などを吐く気がする。古来有楽町はゴジラのお気に入りの街だったようだし、復活後のゴジラは確かこのビルを訪れたはずだ、などと考えているとSJ氏が誰かに挨拶をし出した。本日唯一の夫婦での参加であるJO氏である。彼はにこやかに笑顔を浮かべると

「どうも。Jです」

と挨拶をする。彼の笑顔はこの後の宴会でも目にすることになるのだが、妙に私の印象に残った。素敵な感じの奥様の印象も合わさって、翌日私は何度も

「おお。あれはJO夫妻ではないか。いや、こんなところにこんな時間に居るはずはない。」

という妄想にとらわれるようになる。さて、こちらに立っているのはAB氏、ST氏、そして私である。AB氏が

「さて誰が誰でしょう」と問いを発するがJO氏の「さっぱりわかりません」はもっともな答えだ。私から自己紹介を簡単にする。

その後も談笑は進み人が続々と集まってくるようだが、私はもうガソリン切れである。誰かが石の椅子のような物から立ったのをみつけるとそこにへたりこんだ。もう一歩も動きたくない状態である。

そこから三々五々人が集まってくるのが解る。そしてわずかに稼働している私の理性というか社会的常識は立ち上がってぺこぺこと頭をさげ、挨拶をすべきであると告げている。しかし腰はさっぱりと動かない。いやー、怠けるのって素敵。

さて、そこに本日の幹事とおぼしき二人の登場だ。バラを口にくわえたAI氏にHB氏である。AI氏は約束を守ったのだ。その瞬間一同はいきなり彩りを増したように思える。

それをぼんやりと見ていた私の記憶はここからとぎれとぎれになる。であるからして脈絡が無くても覚えている事を書いていこう。しばらくたって我々は動き出した。途中TA氏と話す。彼は東急ハンズの大きな紙袋を持っているのだ。それは何だと聞くと、javaのマスコットの帽子だと言う。ひとしきり説明した後に彼はそれをかぶりだした。後ろから見ると座布団を頭にくくりつけているように見える。通り過ぎる見知らぬ女性が

「なにあれ?」

と驚愕の言葉を口にするが彼は気にしない。何でもXMLの集まりで4人そろってこの帽子をかぶって踊ったのだそうな。

目的とするビルに到達するとエレベーターに乗り込む。本日の趣旨からして今日宴が行われる場所はOpen airの屋上なのだ。案内された座席に着くと隣に結構にぎやかな一団がいることに気がつく。もっともそんなことを気にしたのはほんの一瞬であったが。飲み放題食い放題であるからして、最初にビールと食べ物を取りに行く。店の人が鉄板に火を付けてくれ、(正確に言えば下からあぶるコンロのようなものに火を付けてくれ)どかーんと乾杯をしたことは覚えている。左隣に座っているのはAB氏、右隣に座っているのはTK氏。

ビールはまたたくまに空になる。ふと気がつくとHB氏がピッチャーをもって後ろに立っている。それを置くつもりかと思えば、なんと氏はそれをついで回っているのであった。ああ、幹事魂はここに燃えている。最初にあった時からその顔を見るたびに「ミックジャガー」という言葉が私の脳裏に踊るAI氏も皆の間をビールをついで回ってる。翌日知ったことだが、彼は初めて会う人のWeb Siteを熟読し、予習を欠かしたたことがないという。私がStanfordにいたことを知っていたこと、そしてこれは後の話になるが

「合コンといえば大坪さんですよ。なんたって新幹線の中でナンパして、大阪まで行って合コンしたんですから」

とかいう彼のセリフは私を驚愕させるとともに喜ばせた。独身女性が読むと呪いがかかるとか大抵の人は読まないとか開き直ろうとしては見るが、自分が書いた文章を読んでもらえることは大変うれしいことなのである。

ここから記憶はさらにとぎれとぎれだ。KP氏がNebraskaに行くと言う。私の頭の中でNebraskaと言えばFootball以外何もないところだ。そんなことを騒いでいると目の前の鉄板の上ではどんどん物がやけていく。火力を調節できないのかと下に潜り込んだ人(今から考えればTN氏だったのだろうか)は火を消してしまった。彼は何かの魔法を用いて火を再点火しようとするのだが、そのうち誰かが店員を呼んできてくれて事なきを得たような気がする。誰かが先行者について語ると別の誰かがいきなりノートパソコンで「先行者の歌」を再生してみせる。私は何故かそれをJO氏の奥様に向けて見せる。

今から考えて解ることだが、この日私は大変ご機嫌で会った。その日一日歩き回った末のビールがうれしかったのか、あるいはその日初めて会った人たちのと会話が楽しかったのかは記憶の彼方に消えてしまい取り戻しようもない。しかし事実として言えるのは、その日私はしこたまビールを飲むばかりでほとんど食べなかったということである。これが酔いが回る条件でなくてなんであろうか。

2時間もその場にいたと言うのに覚えている事を全てつなぎ合わせても15分にも満たない。残りの1時間45分私は一体何をしていたのであろうか。しかし私の記憶が残っていようがいまいが時間はすぎ、我々はその場を後にすることになった。エレベータを降りたところでJO氏夫妻が別れを告げる。他に誰が帰ったかさっぱり解らないのだが、かなりの人数が2次会であるカラオケに向かうことになる。

HB氏は手に地図のプリントアウト、それにマーカーで印をつけたものを持っている。2次会のカラオケもちゃんと予約しているとのこと。参加を募った掲示板で

「2次会の幹事はよろしく」

と誰かに投げかけていた気もするが、氏の心遣いにより、店から店へとさまようこともなく我々は一室に案内された。最初に歌ったのはTA氏では無かったか。しかしそこから記憶はしばらくとぎれる。

HB氏がSweet 19 bluesとかいうアムロなにがしの歌を、またPrinces Princesの歌を歌ったことだけは確からしい。何故かと言えば女性は彼女しかいなかったから。しかし他に誰が何を歌ったのかさっぱり私には解らない。アニメソング、やたろと古い歌、それがが飛び交う中私はいつものごとく曲に合わせ膝をひっぱたいてご機嫌であった。名前も知らない歌であっても、それが薄っぺらい表面だけの曲であるのか、それともどこか心を揺さぶる歌であるかであるかは区別がつくものであるなぁなどと考えながら。

ふと我に帰る。目をあけ視線をおろすと膝が血に染まっている。なんだこれは、と思い左手を見れば手相の筋のところから出血している。私はしばらくその手を見つめる。

たとえば今私がそんな状態に陥ったとすれば、まず手を拭い、ズボンについた血をふき取ろうとし(多分血は簡単に落ちないと思うが)照れ隠しの笑いをして、

「えへへへ。あまりはりきっちゃあいけないな」

とかなんとか誰も聞いていないセリフをはいた後おとなしく音楽に聴き入るのではなかろうか。しかし酔っぱらいの五郎ちゃんはそんなことをしない。私の記憶が確かならば、手の血をおしぼりか何かでぬぐい取るとまたばしばしと膝を叩き出したのではなかろうか。

 

こうして書いていると、私が子供のころ父が語ってくれた言葉が脳裏によみがえる。街を歩いていると植木がひっくり返されている。これはどうしたことか、と問う私に父はこう答えた

「全くよっぱらいってのはしょうがないなあ」

そうした乱暴狼藉を働きながらごきげんで居られるのが泥酔した人間というものである。まったくしょうがない。その日私はご機嫌のうちにカラオケを終えた。しかしかすんだ意識の中にも全ての人間が歌ったわけでは無いことを認識はしていた。これだけ嗜好がばらばらの人間が集まると皆が歌うということは無理なのかなあ。

さて、それが終わると精算タイム&明日の打ち合わせタイムである。JR関内駅の改札に集合と言うことに簡単に決まる。では何時か?誰かが

「10時」といい別の誰かが

「10時半」と言う。私はそれは早すぎる。11時でよいではないかと言ったのか思っただけなのかは定かではない。とにかく11時と決まる。帰り道HB氏がバンドエイドをくれる。手のひらに張れと言うのだ。酔っぱらった私はそれを一度道の上に落とすが拾い上げて手に張る。これは実に偉大なシロモノで、その日風呂にはいって手のひらを握ったり開いたり何度したかわからないくらいにもかかわらず翌日までちゃんと手のひらにくっついていた。

品川で乗り換え、私が降りるべき駅の一つ先まで行く特急最終電車に乗り込む。私が目覚め、周りの雰囲気が異様だなあとか思いながら電車を降りたのはお約束通り終点であった。もはやタクシーを使う以外に戻る方法はない。長い長い列に並ぶ。後ろにいる女性の一団は会話からさっするに看護婦さん達らしい。思えば看護婦さんと合コンそれにBBQなどやったことがあったなあ。最初のはいまいちだったが、一度しか会わなかった別の彼女たちはいい子だったなあ。そんな埒も開かないことを考えながら酔っぱらいの五郎ちゃんはご機嫌気分である。

家につくとタクシーの料金は4000円を超えていた。ほとんど水風呂とも言えるような風呂で体温を下げると安らかな眠りにつく。今日は楽しかったなどと考えながら。

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注釈

 何をしていた:とはいってもここに書いたこと以外にJO夫妻、LU氏、KP氏、TK氏、AB氏と話していたこと、またその内容の少なくとも一部は覚えている。初対面の酔っぱらいと話をしてくれた方々に感謝である。本文に戻る