題名:映画評

五 郎の 入り口に戻る

日付:2003/7/21

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1080 円-Part7 (Part6へ)

ジェ シー・ジェームスの 暗殺-THE ASSASSINATION OF JESSE JAMES BY THE COWARD ROBERT FORD(2008/1/27)

仕方が無い事とはいいながら、邦題は原題の半分であり、肝心なところが抜けている。訳すと「臆病なロバート・フォードによるジェ シージェームスの暗殺」である。二人の名前がでてくる。

映 画が始まるとまず台詞がほとんど聞き取れないことに気がつく。南北戦争の後、犯罪者、あるいは民衆の人気を集める義族として名を馳せていたジェシー・ ジェームス。その会話の下品さ、南部なまりのすごさ、そして残忍さ。民衆が彼にどのようなイメージを抱いていたとしてその実態は犯罪者でしかあり得ない。

そ のジェームスに子供っぽいあこがれを抱くのが、臆病者のボブ。これが実に好演だ。幼稚な(某掲示板の用語で言えば「中2病患者」)2枚目を見事に演じてい る。そのボブがおっかけしているジェームスは追われる身。寝ているときでさえ拳銃を持ち、隣の人間が起き上がれば瞬時に声をかける。こんな生活をしていれ ば精神も病んでくる。そしてブラピはその精神の不安定さ、それ故のチャーミングさをきちんと演じている。

観ながら途中ちょっといらいらした のは確かだ。しかしブラピが殺されても話は終わらない。臆病なボブのその後が描かれる。ジェームスを後ろから撃った場面を800回も演じてみせたボブ。聴 衆はその姿にまばらな拍手を送る。それはボブにとって意外な事だったかもしれないが、古今東西裏切り者の運命は決まっている。

精神不安定な犯罪者。その犯罪者に憧れ、最後には裏切る中2病患者。彼らに勝手な賞賛や罵声をぶつける人々。そうした人間達の姿を 見ているうち、

「人間は偉そうなことを言っていても、所詮愚かなものだ」

ということに気がつかされる。そうした人間たちの姿を寡黙にまじめに描いた映画としてこの値段を付けようと思う。


ボーン・アルティメイタム-THE BOURNE ULTIMATUM(2007/11/9)
ジェイソン・ボーンシリーズ3作目。とはいっても前作の 筋はおぼろげにしか覚えちゃいない。というわけで、登場人物を「この人誰だっけ」と思い出すのに少 し時間がかかる。
しかしいくつかの箇所を除いてそんなよけいな事を考える必要がないほど面白い。手持ちのカメラでとったとおぼしき画面はやたらとぶれるし、なんだかレンズ の前に邪魔なものも映る。それでも何が起こっているか見て取るのが困難でないのはお見事。

話としては、自分が誰なのかを突き止めようとするマット・デイモン対とにかくデイモンを殺したいNSA supported by CIAといった図式。デイモンが「殺したい人たち」に近づいてきたところで、NSAの偉いさんが自ら出動する。おじさん。それはいかん。アクション映画で 悪の親玉が自らでるというのは

「主人公と悪の親玉が一対一で勝 負し、主人公が勝つと世の中が平和になる」

印なのだ。

しかしこの映画ではそうはならない。見事な肩すかしを食い、(映画の中でも述べられているが)悪の親玉は命を失うより恐ろし い運命がまっているのだ。
というわけでアクション映画としてよくできていると思うのだが、残念な点が2カ所。モロッコで悪のターミネーターにデイモンと女の子が追われるシーンがあ るのだが、ここがどうにも間延びしている。というかこの女の子との関係をあまり語らないところはいいと思うのだが、存在が中途半端なように思う。その戦い にケリがつき再びテンポが良くなる。これはいいかと期待してるとクライマックスの「昔を思い出しちゃったもんね」シーンがまた間延びだ。
というわけで残念ながら1800円つける気にはならないが、面白かったことに変わりはない。悪のターミネーターとも言うべきやたらと強い男たちがでてくる が、彼らについてくだくだしく説明せず、観客が自然と理解できるようにしているところなどとても好感がもてるのだけど。

魔笛-Magic Flute(2007/10/26)
モー ツァルトが書いた最後のオペラ、「魔笛」の映画化。ちなみに私はこのオペラで使われている曲のいくつかは聞いた事があったが、通しで観たのは初めてであ る。おまけにオペラを途中寝ないで最後まで観たのも初めて。というわけでこれから書く事には映画としての感想以外に「オペラっつうのはこういうものだっぺ か」という驚きとかも含まれていると思うがあしからず。
見終わっての感想は「夢のような映画だな」というものである。ここで私が言う「夢」とは小 学生が「僕の夢」として述べる希望とか妄想の類いではなく、我々が寝ている間にみる方の「夢」だ。そのなかではつじつまの合わないこと、理不尽な「設定」 が当然のごとく扱われる。さっきまで存在していたストーリーが突然別の話になっても別に疑問は抱かない。
映画の冒頭序曲とともに、けばけばしい青 い軍服を着た軍隊の姿が映し出される。第一次大戦のようだが、こんな軍服着た国あったっけ、と思っているうちこれが架空の国を舞台にした話だと気がつく (ちなみに相手の国の軍服は赤だ。)調べれば元々魔笛は特定の時代、国を舞台とした物語ではないとのこと。であればどんな場面を設定するかに制作者の想像 力が問われるわけだ。とかなんとか書いているうちに、ある若者が毒ガスの危険にさらされ、いきなり歌いだす。
この映画の登場人物はみんなオペラの 人であり、映画の人ではない。みなそれなりに整った容姿なのだが、さすがに映画の人に比べると分が悪い。主人公とその相手役の女性はお互い「一目で恋に落 ちる」のだが、顔と相手の容姿に関する褒め言葉を考え合わせるとき「眼科に行け」という思いをぬぐいさることができない。オペラの人は歌も演技もできなく ちゃいけないから大変だねえ。
最初娘をさらわれた哀れな母親と思えた人が実はあまりよろしくない人だった。超絶技巧を要求する名曲、「夜の女王の アリア」がこれほど恐ろしい顔とともに歌われる曲というのは知らなかった。悪い人が途中で善人であることがわかる。女王とこの人の関係はなんなのだ。ごく 短いシーンが映し出されるが、それが観客に説明されることはない。でもって主人公と相手の女性が「恐ろしい試練」に立ち向かうのだが、そもそもこの試練は なんなのだ。この試練を乗り越えるとどうだというのだ。フリーメーソンの教義がどうだとかは観ている私にはわからない。ただそれは夢の出来事のよう。後で 考えれば「全然つじつまが合わないではないか」というタスクを背負うのは夢の中ではいつものこと。
とか考えているうち、つじつまの合わない話は見事な音楽とともに大団円を迎える。後で調べればこれも当時のお約束らしいが、その後に蛇足とも思えるシーン が二つついている。しかしこのパパゲーノというのはそもそも何なのだ。
三 人の女王の手下。どちらの側かもわからない三人の少年。三つの美徳。この3に対するこだわりもなんだか夢のようでいやだ。(これもフリーメーソンの教義が どうのこうのらしいが)かくてなんだかわからないまま画面と音楽に釘付けになって映画は終わる。エンドロールとともに再び流れる序曲が流れる。それが終わ るまで誰も席を立たなかった、というのは本当のところだ。機会があればオペラのほうも観てみるか。


キングダム〜見えざる敵 - The Kingdom (2007/10/14)
映画の冒頭、オープニングクレジットの間に世界最大の石油産出国サウジアラビアと世界最大の石油消費国米国の関係とその歴史が簡潔に描かれる。それを観て 「これは良い映画かもしれん」と心の中で少し身構える。
サ ウジアラビアの外国人居住区の中でテロが起こる。このテロというのが周到かつ巧妙に仕組まれたもの。観ている側にその悲惨さと衝撃がつたわってくる(子持 ちの親にはつらい)。同僚をそのテロで失ったジェイミー・フォックス率いるFBIのチームは「絶対入国を認めないだろう」という壁を強引にこじあけサウジ アラビアに向かう。4人のチームに与えられた時間は5日間。
彼らが無許可でサウジアラビアに行った事により、国務省はFBIの偉いさんに向かって 激怒する。それに対してFBIの偉いさんが静かに、しかししっかりと答える。ベトナムで捕虜となった経験のある男はそんなことでは微塵もひるまない。この シーンはこの映画でもっとも印象に残っているものの一つだ。
さて、サウジに行ったチームだが最初は全く自由を与えられない。そもそもイスラム教徒 の死体には触る事すら許されないetc.ところがここでのサウジ側の担当者がいい男なわけですよ。某掲示板の用語を使えば「死亡フラグ立ちまくり」なわけ だ。観ている側は「ああ、あんたその立場でそんなにいい人だと絶対最後まで生き残れないぞ」と思う。
さて、ここでいきなり話をすっとばし、映画のエンディングになる。(映画は丁寧かつ簡潔にその過程も描いてる。私の文章が飛ぶという意味だ)米国人は大活 躍し、テロを起こした連中はちゃんと成敗される。そしてFBIのチームは無事帰国する。
しかしFBiのメンバー、そして観ている私の顔は浮かないままだ。それどころか感じるのは達成感、爽快感ではなく「やりきれない気持ち」

テ ロリストにとって最大の標的である国にしてこうした映画を作るのが米国の強いところだ。映画のトーンは冒頭の「説明」そのままであり、無駄な要素を省き最 後まで緊張感を持ったまま観客を釘付けにし、そして登場人物同様に観客を「やりきれない気持ち」にさせる。こう書いてくると当然1800円か、、とも思う のだが自分でもよくわからないままに一つランクを落としておく。名画と呼ぶには何かがかけているように思えるのだ。
この「足りない要素」がなにかわからないのでインターネットであちこちの映画評を見た。そこで見かけた言葉を勝手にアレンジすると
「扱っている題材の重さに映画がつぶされた」
ということなのだろうか。まじめにうまく作ってあるが、題材が重すぎたと。

幸せのレシピ-No Reservations(2007/9/30)
キャサリン・ゼタ=ジョーンズ はちょっと団子鼻だが、完璧に整った鼻よりもこういうコメディにはぴったりと思う。年相応に老けた、と 思うシーンもあるが、ちょっと両端があがった口とあいまってその姿をとてもチャーミングに見せる。
と いうわけでひたすらゼタ=ジョーンズがチャーミングな映画なのだが、彼女についての感想ばかり書いていてもしょうがないので、全体のストーリーを。セラ ピーにかかるように雇い主から命令されても、何故自分がセラピーにかかるか理解できない主人公(ちなみにこのセラピストはレディ・イン・ザ・ウォーターで犬に食われ た評論家である)きりきり働いていると、不慮の事故によりなくなった姉の子供を引き取ることになる。
こ こでの「不慮の事故」の描き方は簡潔で見事。この映画は肝心なことだけきっちり説明しすぎずに描いているのがよいと思う。でもって子供となかなか心がかよ わないし、生活のペースもつかめない。そうこうしているうちに店に新しいシェフがやってくるし、さあどうしましょう、というお話。この姉の子供もなかなか 見事な演技。派手な表情の変化はないが、一見茫洋とした表情のそこかしこに感情が見え隠れする。イタリアンのシェフは若き日のロバートレッドフォードをも う少しとんがらせたような顔。まあいいのではないでしょうか。
最後は誰もが予想している通りハッピーエンドである。その終わり方はどことなくレ ミーのおいしいレストランに似ているようでもあり、少し弱かったかな、という気もする。
しかし映画をみてハッピーな気分になりたい、という人にはこれ以上の映画はないとも思える。あとゼタ=ジョーンズを愛する人間ならば何をおいても観るべき だ。

オー シャンズ13 - Oceans 13 (2007/8/26) (1000円)
私 は平和な映画が好きなので、この値段を付ける。しかしたぶん「中身がないではないか」と文句をいう人のほうが多かろう。
話 は単純明快。いつもの仲間の一人がアル・パチーノ演じるホテル王にはめられ、そのショックで心筋梗塞になり死にかかる。これは一発落とし前をつけなくて は、というわけでいつもの人達があれこれやる。以上。
冗 談でなくそれ以外何もないのだ。途中で多少「予期せぬ困難」があるやに見受けられるが、すぐそうでないことがわかる。「絶対この計画のどこかが破綻し皆が 困るのだ」と身構えながら見るが全くの肩すかしをくらう。
こ のシリーズの常として最後には話が丸く収まる。しかしそれが今ひとつ物足りないのは、敵役であるアル・パチーノが全然強そうに見えないせいでもあろう。口 では"怖い仲間がたくさんいるんだよーん”とか言っているが具体的に「をを、これは怖い相手だ」というところが全然伝わってこないのだ。最初 の一場面を除いてやられっぱなしの「哀れな犠牲者」にしか見えない。
と いうわけで老人いじめともとられかねない内容だが、出演者は豪華だし、平和だし。とはいえ今回はジュリア・ロバーツもキャサリ ン・ゼタ=ジョーンズも でてこない。それどころか「美女」は一人もでてこない。(女性役は一人だけいるが)あとは、、、何も書くことがないな。

おっと忘れていた。話の筋に多少関係することだが、ジョージ・クルーニーとブラッド・ピットの当世2大2枚目が「お涙ちょうだい番組」を放心したように眺 め涙を流す場面。あれだけは傑作だった。想像だが米国ではあそこで場内爆笑なのではなかろうか。

ボルべール<帰郷> - Volver (2007/7/31)
完全に女性の映画である。男性は映画の進行上必要最小限しか登場しない。ちなみに平日の昼間に観たので(なぜそんな時に見ているのかは別として)観客も年 齢を有る程度重ねた女性ばかりでした。
主人公たるペネロペ・クルスの娘が、あるきっかけで父親を殺してしまった。さて、どうしましょう。オーナーが捨てた隣のレストランの冷凍庫に隠しましょ う。ところがなぜかそのレストランが繁盛を始める。さて、いつ冷凍庫の中身を「始末」したものやら。
と いうお話に数年前に火事でなくなった主人公の母親やら姉やら友達やらがからんでくる。か弱く、そして力強く。ラテンののりベタベタのスペイン女達が最初か ら最後までスクリーンの中で生きる姿を見せる。後で調べれば今まで何度かペネロペ・クルスをスクリーン上で観たことがあるのだが(バ ニラ・スカイとかサハラと か)まるで初めて観た女優であるかのように感じる。それだけこの映画での彼女が光っているということなのだろうが。
私は男なので想像で言うのだが、スクリーンの中の女達はやはり女の視点から描かれているように思う。例えば母と娘が料理をしながらこんな会話をかわす
「あんたそんなに胸あったっけ?」
「あったわよ。10代の頃から」
「何かした?」
「するわけないでしょ」
遠慮もない、男性的な欲望とは何の縁もゆかりもないこうした会話は女性同士ならではのものだと思う。あと主人公がオシッコするところをモロにそっけなく写 すとか(別にボカシがはいるような映像がでるわけではないよ)
か くして見終わった後では日本向け宣伝コピーの「女達は流した血から花さかす」がなるほど、と思えてくる。途中主人公が歌を歌う場面だけは効果的だったかど うか判断できないが、全般的に話はテンポ良く進む。そして見終わってみれば印象に残っているのは「謎とその種明かし」ではなく、か弱く、力強く生き続ける 女達の姿だったのだ。

ハ リー・ポッターと不死鳥の騎士団 - Harry Potter and the Order of the Phoenix(2007/7/29)
全7作のハリーポッターも中日を過ぎて残り3作。寮の対抗戦で勝った負けたとやってい た子供時代は過ぎ去りいつのまにか話は大人のそれになりつつある。
一作目、二作目と監督が同じで、あとは毎回違う監督が撮っているよ うだ。個人的には今度の人はなかなかよい仕事をしたのではないかと思う。おそらくは膨大な原作の中身を整理し、ちゃんと2時間強で上演される一本の映画と してまとめあげ ている。最初「なんでハリーはこんなにいらだっているんだ」と思うが、映画の後半でちゃんとその説明はされる。
他に勝因をあげるとす れば、どう考えても演技が下手なハーマイオニーにあまりセリフをしゃべらせなかったことではなかろうか。代わりに結構しゃべってくれるのが今回初登場とな るエキセントリッ クな金髪の少女。彼女はオーディションで選ばれたらしいが、とてもはまり役ではなかろうか。あとハリーのガールフレンドのアジア人ってもうちょっと 可愛くなかったっけ。とまあ容姿に関する好みは別として彼女とハリーの「ラブシーン」は良いできだと思う。それまでキンキンいらだっていたハリーがその事 をロンとハーマイオニーに語るところだけは表情がゆるむ。
お話としてはレイフ・ファインズことヴォルデモート(最初「これ誰 だっけ」と首をひねった)があれこれしてくる。それなのに魔法省はホグワーツに対する異常な管理を試み、規則遵守の手下を送り込んでくる。はてどうしたも のやら、というもの。この「規則遵守のイヤミなババア」が実に憎たらしく、素晴らしい。女性版スタンリー・トゥイッチといったところか。
と はいうものの途中「悪くは無いが退屈」という感想をもったのも確かである。派手な要素をとにかく詰め込んだお子ちゃま向けのおとぎ話から大人への入り口 に立つ少年少女達の物語に移行するのはさぞ難しかろう。好意的に考えればそうした「難しさ」故のダルさかな(自分で書いていてよくわからんが)とも思え る。
これ以上縮めるのは無理かもしれんが、2時間以内に納めればもっと評価があがったかも。とはいえ、3作、4作とダレ気味だったが(同じ監督がやるなら)6 作目以降も見てみようか、という気にはなる。


ラブソングができるまで-Music and Lyrics(2007/4/30)
ヒューグラントとドリュー・バリモアのラブコメ。まあそれはいいだろ う。問題は監督があの「トゥー・ウィークス・ノーティス」 を撮った男である、という事実だ。これは全く期待できない。とはいっても他に上映しているのはお子様向けととても重そうな映画だし、バベルを見て気分を悪 くすることは避けたい。まあこれにするか。
と いうわけで見たのだが、これが予想が外れた。面白いのである。冒頭80年代のミュージック・ビデオの「真面目に再現したパロディ版」で笑わせて貰う。若い 人にはわからないかもしれないけど、昔はあれを真面目にやっていたのだよ。(日本では平井某という人が同じような事をしていたようだが)
で もって続くストーリーは型どおりのラブコメであるからして驚いたり感動はしない。また中盤ちょっと話がだれ時計を見たくなる(見なかったが)
し かし決して文芸大作ではないが、ラブコメとしてちゃんと真面目に作ってあると思う。特に登場人物がそれぞれの力を発揮しているのがよい。ヒュー・グラント はActors Studuioのインタビューで見せたようなちょっと皮肉屋で、気取っているわけではないけど、それなりにちゃんと生きている男の顔を見せる。そして Love Actuallyで開眼した「腰ふりダンス」で踊りまくる。最後にステージ上で最近の若い女性アイドルと競演するのだが、そこでかっこよく歩いたりするこ となく、80年代風に腰を振るのが偉い。それでこそおじさんだ。ドリュー・バリモアは大変キュート。チャーリーズ・エンジェルでみたときは「なんだ、この 太った姉ちゃん」と思ったが、この映画での彼女はすばらしい。特に「自分の過去をふみにじった男」に対して、何も言えず笑顔を作ってしまうところは、女性 の悲しさ、愛おしさを表していて思わず目を伏せたくなった。脇役としてヒュー・グラントのマネージャー役が目立たないながらも要所でしっかりと演技をす る。あと3rd Rock from the sunのお姉さんもバリモアのお姉さんとして登場するが、この人結構巨大なのだな。
か くして予想が裏切られなかなかご機嫌になって映画館を後にしたわけだ。同じ監督だがTwo weeks noticeとは大違い。成長したのかあるいは余計な横やりがはいらなかったせいなのか。などとあれこれ考えるのでした。


ハッピーフィート-Happy Feet(2007/3/24)
過 酷な子育てをする皇帝ペンギン。ある父親は「一瞬だけ」卵を足から離してしまった。そして生まれた子供は生まれながらにして見事なタップダンスを踊る。し かし恋の歌を歌うことができない。それ故群れから追放された彼は深刻になりつつある「魚不足」の原因をつきとめようとするのだった。
何 よりも映像 と音楽、踊りに圧倒された。ふわふわの毛をCGで作り上げるのは難しいはずなのだが、生まれた直後のペンギンは思わずさわりたくなるような「ふわふわ」 さ。登場する動物は基本的に「そのまま」で、映画向けにデフォルトされた姿ではない(少しはいじっているのだろうけど)。しかしちゃんとキャラクターとし て見えてくるのが見事。またペンギンの視点からみるとアシカや漁船がこのようにどう猛で巨大な存在に見えるのか、と驚く。
また群舞も 素晴らしい。 米国制作のCG映画を見るたび「なんて米国人は昔の歌でキャラクターを踊らせたがるんだ」と考えていたが、この映画のそれは見事の一言。ブギ・ワンダーラ ンドとかSomebody to loveなどの名曲をペンギンが歌い上げるところ、それに最後のシーンなどは見ているこちらまで思わずからだが動く。
ア カデミー賞受賞も宜成るかな、である。ではなんで1800円にしないのか、と問われればよくわからん。ストーリーもちゃんと考えられており、最後は「なる ほど」といった形で丸く収まる。じゃあ何が足りないのだろう、、と考えても答えはでまい。DVDで見るより劇場で見ることをおすすめします。あの画面いっ ぱいに広がる群舞は小さな画面では力が半減するだろう。
また吹き替えでなく、字幕で見ることができたのも幸運だった。皇帝ペンギンと は異なるアクセントでしゃべる(ラテンののりか?)小さなペンギンの言葉。それにHALのような声でしゃべるペンギンなど英語でなければ分かりづらい点も いくつかあったから。

デ ジャブ-Deja Vu (2007/3/17)

例によって監督よりも主演男優よりも 名前が大きく出るジェ リー・ブラッカイマー製作である。

ニューオリンズの川を運行するフェリー上で爆弾が爆発。500人以上が亡くな る。その捜査に乗り出したデンゼル・ワシントンが言う。

「一度でいいから犯罪が起こる前に犯人を逮捕したい」

そ れは実際にテロが起こってしまった後に多くの人が思ったことだろう。

と いうわけでこの映画には捜査に便利な「科学的には反則」が持ち込まれるわけだが、それは「子供だまし」と思えるほど映画の筋を破壊してはいない。その機械 を扱うのは「Friendsにでてきたエキセントリックなルームメート」。ちょい役と思ったが、あちこちで顔をみるということは結構売れているのだろう か。その反則があるが故の

「現在と過去が重なりあったカーチェイス」

とか い つもの大味ブラッカ イマー作品とは少し違った工夫も取り入れられてい る。少しネタバレを書くが、犯人がイスラム教信者じゃないのも余計な要素を持ち込まない、という意味では良いことなのだろう。というわけで例によって感動 とかはしないけれどさすがに「大味なりに作りなれた作品」という感じがする。ちょっとだらだらすると2時間半を超えそうな 内容だが、2時 間ちょっとで最後は綺麗に落ちる。(細かい事はいいっこなしで)というわけで事前に全く期待していなかった割にはご機嫌になって映画館を後にしたのでし た。


世界最速のインディアン-The World's fastest Indian (2007/2/12)
この映画を見ていると、夢だけをもった老人というのは強いなあと思 う。
映 画が始まってしばらく、これはどこの物語だろう、と考え続ける。なんだか米国とは少し違うような。。英国かな?と思っていたらニュージーランドだった。一 人で暮らしているアンソニーホプキンスはインディアンというバイクの改造型でスピードを出すことに執念を燃やしている。米国に行きスピードに挑戦すると口 にしてはいるが、自分でもその夢が叶うとは思っていない。しかし狭心症の発作を起こしたところから彼はその夢に向かって突き進み出す。その有様、米国の レース場までなんとかたどり着き、レースに出ようと苦闘し人々と語り合う姿はどことなくス トレート・ストーリーを思い出させる。レースにでられない、と言われてもおとなしく引き下がるなんてことは考えてもいない。ただひた すら前に進もうとするその姿を見ているとうれしくなってしまう。
あ るコメントによれば「この映画には善人しかでてこない」とのこと。確かにそうだと思うが、それはこの老人のキャラクターがなせる技だと思う。明るく、バイ クと夢以外何も持っていない。金を持っていない相手をだましても何の得にもならない。そして相手は老人。今のうちに取り入って有名になってからたかろう、 などと長期計画が成り立つ相手でもない。となれば、応援するしかないではないか。この映画ではホプキンスもてまくりだが、それも宜成るかなである。
ア ンソニー・ホプキンスはさすがに老けた。しかしその老け方はこの映画にぴったりだ。冷酷な殺人鬼から夢をもった老人まで。さすがに演技の幅が広い。実際の 話はこれほどストレートではないそうだが、映画の演出として許される範囲だろう。よし、おれも引退したらこれくらい馬鹿馬鹿しい事に挑戦してやるぞ、と堅 く心に誓う、、などということは家族迷惑だから全く考えていない。しかしそんな考えが思わず頭をよぎる映画だった。

007/カジノ・ロワイヤル-Casino Royale(2006/12/9)
予告編を見る。新しいボンドの人ってなんだか陰気そうな感じ。おまけにコピーが「最初に任務は愛を殺すこと」とかいうから、きっと00になって最初のミッ ションが「恋人を殺せ」なのだ。なんだかいやだなあ。
というわけであまり見る気はなかったのだが、諸事情により見るのはこれしかない。まあ気楽に見ることができるであろう。
見ている間に「980円かな」「まだ終わらないかな」と思ったりしながら見終わってみればなかなかの満足感。冒頭いきなりそこら中飛び跳ねる黒人 とのおっかけっこが始まる。これが高所恐怖症の私にとっては思わず下腹部が縮み上がるような代物である。華麗に障害をくぐり抜ける黒人と、時々壁をぶちや ぶったりするボンドの対比に思わず笑いそうになったり。
でもって例によってあれこれが起こる。自信満々だがまだケツの青いボンドが落ち込んだり焦ったりするところがかわいらしい。最近の007で過剰気味だった 「反則技」は最小限にとどめら れている。空を飛んだり、超兵器は無しである。これまでかなりお笑い路線に近づいていた007とは確かに違う物を感じさせる。最初は陰気 な顔と見えた新ボンドだが、話が進んで行くにつれてなかなか冷酷かつタフなはまり役に思えてくる。これから彼が出演するであろう新シリーズが楽しみになっ てくる。ボンドガールも「美人だからといって馬鹿だと思わないで」とつっぱっている女の子をうまく演じていると思う。無駄に微分係数が大きくなっていない と ころもこの映画の性格を表しているのだろう。
とはい全般的にもう少し短くしたほうが傑作になったのではなかろうか。途中で2度ほど時計を見た。かなり入り組んだ話だからある程度の長さも必要なのもわ かるし、無駄に彼女とのいちゃつきシーンが多かったというわけではないのだが。
ちなみに男性の下腹部を攻める拷問シーンでは、やはり身が縮む思いをいたしました。しかしそこでも(場合によっては)笑えるジョークをかますところがさす がだなあ、と思う。

プラダを着た悪魔 The Devil wears Prada(2006/12/2)(1000円)
あまり期待をしないで見に行ったのだが、内容は十分1800円に値するものだった。予測がはずれた訳だ。なのになぜこの値段か。
Northwesternを卒業してジャーナリストを志望してしている女性が何かの都合でファッション雑誌編集長のアシスタントになる。この編集長が「い つもより早く出勤してくるぞ」ということになると空襲警報が発令されるほど恐ろしい人なのであった。でもって全くファッションに興味がなかった主人公が彼 らから学んだりあれこれ、というお話。
編集長のメリル・ストリープがすばらしい。That is allと冷たく言い放つ編集長の顔。一人の人間としての悲しみと喜び。特に最後のシーンは一瞬の表情で多くを物語るすばらしい芸を見せてくれる。 m@stervision氏曰く「全米人 間の屑選手権ブッチギリ優勝中」 のスタンリー・トゥッチはこの映画で「甘くは無いけど、ちょっといいおじさま」を好演する。彼も抑えめの表情だけで多くを観客に語りかけてくる。
かようにすばらしい演技と対局にあるのが、主人公のアン・ハサウェイ。「プ リティ・プリンセス」 の時から一歩も進歩していない。目が大きくてちょっとアンバランスな顔は静止画としてはかわいらしい。ただそれだけだ。後から考えれば葛藤、努力、いろい ろな感情が表現しうる役柄なのにスクリーン上のハサウェイからは「何も考えてない女の子」の声しか聞こえてこない。一番彼女が生き生きした表情を見せたの は、パリの目抜き通りの夜景をリムジンの中から見つめるところだった。それは単に「わーきれい」以外の何物でもなかったのだが。また最初から可愛すぎるの もいかがなものか。途中からファッショナブルに変身、というのが全然機能していない。
彼女の「昔からの友人達」もメリル・ストリープ、スタンリートゥッチと比較すると吹けば飛ぶような人間としてしか演じられていない。特に主人公のボーイフ レンドが全く魅力的に見えないところはこの映画の価値を大きく損なっている。主人公は自分が軽く見ていた世界に飛び込み、そこで考え悩み成長もした。しか しボーイフレンドはただその場所に立っていただけだ。
かくして最終的な値段は1000円になってしまうわけだ。Positiveに考えれば主人公が演技できない、といハンディキャップをもってしてこの値段、 と見ることもできる。あと私にとって不幸だったのは、画面上でひらひら飛び交うすばらしいファッションが「何のことやら」だった点だ。あれの良さが分かる 人が見れば、それだけで見る価値のある映画だったのかもしれないけど。


トゥ モ ロー・ワールド-Children of men(2006/11/25)(1000円)
2027年の地球。人類には18年前から子供が生まれていなかった。将来に対する絶望は地球を覆いテロ、暴動が頻発。世界中の大都市は崩壊した。徹底した 移民排除 策をとった英国を除いて。
そこに奇跡的に妊娠した少女がみつかる。彼女をなんとかヒューマンプロジェクト(この正体は最後まで明確にされることはない)に渡すべく主人公は死闘する のだった。
ここで「死闘」と書いたのは誇張ではない。この映画はとても真面目に作られている。人類が不妊になったのは実は悪の組織のせいだった。その中枢を破壊する と地球上には再び子供達の声が満ちるのだった、などという単純な話ではない。敵も味方もばたばた死んでいく。ジュリアン・ムーアがでているのは知って いた。もちろん主人公と最後まで逃避行をするのかと思っていたらあっさりと消えてしまう。視点は「宇 宙戦争」と同じく個人のもの。話の全体がどうなっているか、など全くわからないままとにかくその場を切り抜ける。その連続である。画 面はずっと灰色のまま。希望を失った地球上に明るさはない。
という世界のなかで唯一明かりをはなっているのが、マイケル・ケイン演じるエキセントリックなおじさま。しかし彼がスクリーン上から消えた後は本当に救い ようがなくなる。映画の作りがどうしようもないのではない。描かれている世界がどうしようもないのだ。それをリアルに、真面目に見せられるのはつらい。そ うだよねえ。確かにそんなことが起こったら、狂 信者達はとりあえず銃を振り回し始めるだろうねえ。宗教という人為的な枠を通してしか世界を見ない人達。何の役にもたたなくても、とりあえず人を殺せば神 の国が近づいてくると思うのだろう。
かくして多額の費用を真面目に使った映画なのだが見ているうちにどうにもいやになる。早く終わってくれないかと思い出すのだ。そしてこれもまた真面目さ故 だが、最後に明らかな救いがあるわけでもない。もっといやなのは、あの光景は地球上のどこかでは現実であり、「ただのフィクションさ」と笑って忘れられな い点だ。というわけで、映画はよくできているが少し点を引いて1000円。

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注釈