日付:1998/12/23
米国旅行篇:7章 8章 9章 10章 11章 12章 13章 14章 15章 16章 17章
翌日どのように目覚めたか覚えていない。朝食も当然のことながら航空会社のサービスだ。さてぼちぼち行くべえか、と思ったとき一瞬彼女に声をかけようかと思ったがやめにした。彼女には彼女の起きるペースという物があるだろうし、だいたい準備だのなんだののにかかる手間は女性は男性の比ではない(私は男性の中でも異常に簡単な方だと思う)所詮行き先は同じなのだから今日チェックアウトするときにまた一緒になればよろしい。
さて朝食はバイキング形式だ。何が好きと言って私にとって朝食の和風バイキングほど好きな物はない。私は結構早起きしたので、この時間であれば空いているだろうと思ったのは甘かった。レストランはちょっと年輩の方の団体で満席である。彼らはとても楽しそうだ。少なくとも何がおいしそうかの相談に余念がない。私の趣味からするともうちょっと早く動いてくれるといいのだが、まあそれは私の都合だ。中には味付け海苔をしこたまつかんでポケットに入れている人もいたが、別にバイキングで無料なのだから問題はない。後で聞いたらうちの姪達もそうやってたくさん海苔をとってくるのが大好きなそうだ。
さて食事を終えて、ぼけーっとして。ひさしぶりに見る日本のTVはどうしても私の性に合わない。朝の時間帯はなおさらだ。しかしこれが私の愛する国のTVなのであればしょうがない。部屋にいてもつまんないので早めにチェックアウトすることにした。またもや彼女の部屋をノックしようかな、と一瞬考えたがやっぱりやめにした。
下に降りれば結構な人の列である。考えてみれば昨日同じフライトに乗っていた人達はみな同じバスに乗って同じ目的地に向かうわけだ。人が混むのも当たり前。私はぼんやりと列に並んでいた。そしてふと携帯の事を考えていた。ちょっと待て。昨日ここまで二人でようやく二つのスーツケースを運んできた。ホテルの床は絨毯ばりであり、スーツケースを転がすのにあまり適しているとは言えない。私がここでぼーっとしている間に彼女は二つのスーツケースと格闘しているかも知れない。
私は列から抜けると例のエレベータを使って上がり、彼女の部屋をノックした。
幸いなことに彼女はちょうど部屋をでようとするところだった。(考えてみれば彼女は洗面所にいたかもしれないではないか)私は昨日と同じようにスーツケースを持って彼女とエレベータに乗った。
それから起こったことは昨日の裏返しである。違いと言えば今日は朝晴れていて回りの様子がよく見えることくらいだ。ラジオからは何故か米国の番組でもないのに英語のアナウンスがながれてくる。確かにくだらない日本語のダベリを聞くよりはわけのわからない英語のほうが耳障りにならないかもしれない。
さてまもなくバスは南ウィングだか北ウィングだかについた。この名前がついた歌を某歌手が歌っていたのもずいぶん昔の話しになったなあ、、などと考えながら、荷物を抱え再びデルタのカウンターをめざす。このウィングの中はとても人で混んでいる。その中を大きな荷物をかかえて歩くのはあまり楽しい経験ではない。
しかしそのうち妙なことに気が付いた。同じバスから降りた人達が逆の方向に動いている。おまけにデルタのカウンターは何処まで行っても見つからないのである。案内の人に聞いてみればデルタのカウンターがあるのは第2ターミナルで、ここからは無料のシャトルバスで移動しなくてはならないと来ている。なんてこった。バスの運転手が間違った所に我々をおろしたのか、あるいは航空会社がバスの運転手に間違ったインストラクションを与えたのか定かではない。またもや我々は遠く遠く移動することになった。
航空会社のカウンターがあるのは上のほうであり、シャトルバスは地下はるかかなたから出発する。その間はエスカレータを使って移動するしかない。昨日見た猫娘(猫を2匹ばかり籠に入れて移動していたお姉さんである)は一体どうやって移動するのであろうか。今日彼女とすれ違ったとき携帯は「大変ですね」と話しかけた。猫娘は、「もー、人が大変なのにこの子達寝てるんですよー」と嘆いていた。確かに籠を覗いてみれば、猫が2匹のびて寝ている。一瞬女の子にいい格好をするのが何より好きな私は彼女に手を貸そうかと思った。しかしよくよく考えてみればこちらもそんなことをしている余裕はない。スーツケース2つをかかえて、これからはるかかなたのターミナルまで移動する必要があるのだ。
ずででででとエスカレータを降りるとシャトルバスが来た。乗り込むのは私にとっては簡単なことだが、大きなスーツケースをかかえた女性にとっては一苦労だ。昨日のバスのように係りのお姉さんが次から次へと放り込んでくれるわけではないのである。車内はお姉ちゃん達と、スーツケースで混乱状態となりつつあった。
こういう場面が、女の子に良い格好をするのが大好きな私の出番でなくてなんであろう。私はにっこりと笑顔を見せると、そこらへんのスーツケースをかたっぱしから荷物置き場に載せ始めた。「ありがとうございます」という言葉ににっこり私が再度笑うとバスは動き始めた。となりにいた携帯が私のそういうわざとらしい姿をみて、密かにあきれていたかどうかは私の知るところではない。さてバスはてけてけと進んでいく。時間をみると、「この時間までにチェックインしてください」と言われた時間をもう過ぎようとしている。まさか置いて行かれることはなかろうが。少なくとも私たちのバスに乗っていた人達はみな一蓮托生なのである。
等と妙な感慨に耽っている間に第2ターミナルという場所についた。しかし(またもや)ここで論争が巻き起こったのである。デルタのカウンターはこの停留所だという。しかし国内線のカウンターははもう一つ先の停留所だ、というのだ。
さて問題です。今日我々が乗る飛行機は国内線でしょうか、国際線でしょうか?
成田-名古屋間が国際線だという人間はだれもいまい。しかしデルタエアラインが日本の国内線の旅客会社か?と言われるとこれまた誰もYesとは言えない。今から冷静に考えればこれは臨時の運行であり、あくまでもデルタは国際線の会社なのだから、ここで降りるのが正解だったのだ。しかし私はまたもや間違った判断をした。次の停留所まで行くことにしたのである。
ここで約半数の乗客は降りた。先ほどの反対で私はまたもや笑顔を振りまきながら荷物下ろし人をやってご機嫌である。ふたたびバスは動き始めた。これでまたもや(この判断が正しかろうが間違っていようが)ほっと一息である。暇になると我々はまた人間の観察を始める。
乗客の大半は日本人の女の子とおっさんであるが、バスの後ろの方に一部の隙もないスーツを着込んだ白人の一団がいることに気付いた。9月の終わりと言えば、日本ではまだ衣替えの前、かなり熱い時期である。それなのにその一団は濃い色のスーツをばっちり着込み、胸のポケットにはネクタイまで覗かせてそれを脱ごうという気配すら感じられない。彼らは私たちと同じバスにのっていたので、我々と同じ大変長い経路を通っているはずなのだが、汗をかいた様子もなければ、げんなりした様子もない。連中は会社の偉い方だろうか、などと携帯と話していた。後で判明したことだが、彼らは宗教関係の団体の方だったそうだ。なるほど。さすがに心ができてらっしゃる。
さてこれ以上選択肢は無い、という次の停留所で我々は降りた。そして上の階に上がってカウンターを探してみればやはり一つ手前の停留所で降りているのが正解だったのである。我々は二つの停留所の間分スーツケースをごろごろ押して移動したあげく、カウンターにたどりついた。カウンターの係員は、集団で遅刻をしていた乗客がわらわら現れ始めたので大騒ぎである。そこらへんのトランシーバーでの会話を聞いていると、どうも「誰がへまをやったんだ」みたいな会話が飛び交っているようだ。こうしたトラブルとアクシデントが頻繁に起こる空港の勤務というのはきっとずいぶん神経が疲れるだろうな。。などと妙な感慨に耽りながらチェックインをすませた。今度こそはゲートまで一直線だ。
と思った私はまた道を間違えた。ゲートのほうではなく、見送り席のほうに歩き出したのである。冷静な携帯は落ち着いた感じで「こっちじゃない?」と言って正しい方向を指さした。確かにこちらだ。私は頭をかきながら、彼女の後ろについて歩き出した。これからは彼女の後ろについて歩こう。考えてみれば昨日から私が下した二者択一の判断は全て間違っているのだ。事実は尊重しよう。彼女の後ろについていったほうが、我々はきっとスムーズに名古屋に帰り着けるだろう。
さて今回のフライトは目的地は名古屋だが、手続きは全て国際線のそれである。しかしデルタのカウンターでなんだか紙をもらっていて、これを見せたり渡したりすると、空港税の支払いから、出国審査、入国審査、税関までフリーで通れるという。ふーん。こんな仕組みがあるんだと思っているうちにようやく昨日と同じ飛行機に乗り込んだ。座席も昨日と同じ、右前方には昨日の(我々が勝手に決めた)パイロットが座っている。回りを見てみるとほとんどの乗客は既に着席している。ということは我々が最後に到着したようだ。つまり我々が乗ったバスだけが行き先を間違えたことになる。なんて「運のよさ」だ。
さてここからは早かった。昨日は一分、一秒が過ぎるのが信じられないほど長く感じた物だが、今日は上がったー、と思ったらもう着陸してしまった。着陸後に機内に流れたアナウンスがふるっていて「いやー、飲み物サービスしようと思ったんだけど、あっというまについちゃったから、出す暇なかった」だそうである。そして今日は携帯の手を握る暇もなかった。
彼女は「大変お世話になったのに、ご挨拶が遅れました」と言って名刺をくれた。今の私には名刺というものがない。代わりに私の名前を漢字で書いて彼女に渡し「この名前を検索エンジンに入れれば、私のホームページがでてきます。そこに私のメールアドレスが書いてありますから。はっはっつはっつ」と言った。本来ならば電話番号を書くべき所だが、今の電話番号は後数日で不通になる。そして新しい電話番号はまだわからない。今の私にとって一番信頼できる連絡先は電子メールのアドレスだ。では何故直接メールアドレスを教えなかったか?答えは簡単で、いつも私はメールアドレスを手書きするたびにちゃんと相手が読めるだろうか、と不安に駆られるのである。私のhand wiritingはとても汚い。細心の注意をはらったところで、自分で読んでも果たしてこれはfなのだろうかgなのだろうかなどと不安に駆られてしまう。漢字の名前の方だったらまさか間違いはないだろう。
彼女がわざわざ私のホームページを検索してまで私にメールをくれるだろうか?これは大変率の悪い賭のように思える。しかし今の私としてはこれしかすることはない。逆に連絡がついたところで私はもうすぐ400kmばかり東に行く運命にあったのだ。そしていつものことだが、自分がどこかに移動しようとしているときには、そのことで頭がいっぱいになってしまっていくつものことを見逃してしまう。
またもや税関を(今度はフリーパスだが)通過して今度こそ名古屋空港に到着だ。私はバスで帰るが彼女はタクシーだという。良い格好をする仕上げに彼女が使うタクシーのところまでスーツケースを引っ張っていった。そしてにっこり笑って手をあげて挨拶をした。
これで楽しかった旅行もおしまいだ。さてこれからはどたばたと引っ越しの準備を始めなくては。
挨拶をした:彼女とはこの3ヶ月後に再会することになる。事の詳細については「夏の終わり番外編:名古屋遠征」を参照のこと。本文に戻る